第381話 春風vsエヴァン
「それでは、始め!」
と、男性職員がそう叫んだ瞬間、春風とエヴァンの戦いが始まった。
男性職員がそそくさと小闘技台から降りていく中、2人は睨み合いながら武器をグッと握り締める。
春風は刀・翼丸と「風の魔剣」と化した夜羽の二刀流。
対するエヴァンは右手に長剣、左手に円型の盾。
両者がそれぞれ武器を構える。
春風は右足を前に出し、目の前で両手に持った刀と魔剣の刀身を交差させる形をとる。
一方、エヴァンは少し腰を落として左手の盾を前に出し、右手の長剣の先を春風に向ける。
それから2人はお互い睨み合うだけで、その場から1歩も動かなかった。
小闘技場内が一気に緊張に包まれる。
武器を構えた状態のままピクリともしない2人を見て、
「あ、あのぉ……」
と、野守がそう口を開いたので、
「おや、どうかしましたかな?」
と、その声にフレデリックがそう反応すると、
「そ、その……何だか、空気がピリピリしているのを感じるんですけど……気の所為、じゃないですよね?」
と、野守は恐る恐るフレデリックに向かってそう尋ねた。
すると、
「いいえ、気の所為じゃないわよぉ」
と、野守の質問にキャロラインがのんびりとした口調でそう答えたので、それを聞いた野守が「え?」とキャロラインに視線を向けたが、とうのキャロライン本人はかなり真剣な表情で目の前の春風とエヴァンを見つめていたので、
「母様。母様には、あの2人の状況がわかるのですか?」
と、隣にいるアデレードがそう尋ねると、
「あの2人、どちらも相手の出方を待ってるみたいねぇ。『先に動いた方が不利になる』って考えてるんでしょう」
と、キャロラインはのんびりとした口調を崩さず、目の前の春風とエヴァンを見つめたままそう答えたので、
「そうようですね。あの2人はどちらもカウンターを狙っているようですし」
と、キャロラインの言葉を肯定するかのように、オードリーはコクリと頷きながらそう答えたので、
「ま、マジかよ……」
と、その言葉に鉄雄はゴクリと唾を飲んだ後、小さな声でそう呟いた。
一方、小闘技台の春風はというと、
(……うん、向こうは全然動く気配はないな)
と、目の前にいるエヴァンを見て心の中でそう呟くと、
「……ちょっと仕掛けてみるか」
と、今度は声に出してそう呟いたので、その言葉が聞こえたのか、
(来るか!)
と、エヴァンは盾を持つ手に力を入れた。
すると次の瞬間、なんと、春風は先ほどまでしていた構えを解いて、武器を持つ両手をダランと下げた。よく見ると、今にも落ちるんじゃないかと思われるくらい武器を持つ手の力を弱くしていたので、そのあまりにも無防備な状態を見て、
「ちょ、フーちゃん!?」
「何してるの!?」
と、歩夢と美羽が目を大きく見開いた。
そして、それは彼女達だけじゃなく、
「何やってんだい! あれじゃ『好きにしていい』って言ってるようなもんじゃないのかい!?」
と、ナンシーもギョッと目を大きく見開きながらそう口を開いた。
だが、
「……誘ってるのよ」
と、凛咲がそう口を開いたので、
「そ、それは、どういう意味ですか?」
と、イヴリーヌが恐る恐るそう尋ねると、
「春風はね、相手を動かす為にわざと構えを解いたのよ」
と、凛咲は春風を見つめたまま、真剣な表情でそう答えた。
その答えを聞いて、
「うーん、『わざと』ですか。それはまた随分と勇気のいる行動をとりますね」
と、フレデリックがそう返事をしたが、
「まぁでも、あの騎士君には通じなかったようだけどね」
と、今度はミネルヴァがそう口を開いたので、それを聞いた者達は「え?」とエヴァンに視線を向けると、
「……」
とうのエヴァンは盾を前に出した状態のまま更に目を細めていたので、
「ど、どうしよう、なんかますます警戒してるんじゃない?」
と、野守はタラリと汗を流しながらオロオロしだした。
さて、エヴァンの方はというと、
(ぬぅ、一見『無防備』ともいえる体勢だが、奴の雰囲気からして、明らかにこちらを誘っているな)
と、目の前の無防備な春風を見て警戒していたが、
(だが、私だって負けない!)
と、更にキッと春風を睨み付けるだけで、その場から動こうとしなかった。
そんなエヴァンを見て、
(へぇ、乗らないなんて流石は騎士様ってところか)
と、春風が大きく目を見開いたまさにその時、
(ん?)
なんと、エヴァンは盾を下に向けると、持ち手を持つ左手の指をクイックイと動かしたのだ。
そう、まるで「こっちに来い」と春風を誘っているかのように。
それを見て、
『あ、明らかに挑発しているぅ!』
と、歩夢らクラスメイト達が驚きの声をあげて、
「あ、兄貴は!?」
と、ディックがすぐに春風の方へと視線を向けると、
「………」
春風はその挑発(?)に乗らないようにどうにかその場に踏ん張っていたので、
「は、春風君すっごい耐えてる!」
「ああ、スゲエ耐えてるな!」
と、タイラーとヴァレリーは目を大きく見開きながらそう感心した。
その後、
(あ、危なかった。俺としたことが危うく挑発に乗るところだった)
と、なんとか耐えることが出来た春風は「ぜぇ、はぁ……」と肩で息をしたが、
(まぁでも、これで相手が強いってことはわかったな)
と、すぐにエヴァンを見て納得の表情を浮かべ、エヴァンの方も、
(むぅ、これで動かないとは、中々やるようだな)
と、自身の挑発が通用しなかったことに対してそう感心すると、
(となると……次は……)
と、心の中でそう呟き、その後は盾を構え直して春風をキッと睨みつけた。
そして、春風の方も、
(敵に挑発は効かないか。それなら、俺がやるべきことは……)
と、目の前にいるエヴァンを見つめながら、心の中そう呟くと、再び翼丸と夜羽を構えた。
その瞬間、再び小闘技場内が一気に緊張包まれた。
お互い武器を構えて睨み合う春風とエヴァンを見て、周囲の人達がゴクリと唾を飲んだ。
そして、夕下がタラリと汗を流し、その汗がポタッと床に落ちたその時、
「……っ!」
「はぁ!」
春風とエヴァンは、同時に動き出した。




