第350話 春風、「真実」を話す
「ほう、『異世界』……それも『勇者』達と同じ世界の住人ねぇ」
と、ナンシーがそう言ったように、あの後春風は、レベッカ達に自分自身のことについて話し始めた。と言っても、大体のことはレベッカ、ヴァレリー、タイラー、そしてアデレードも知っていて、双子の兄妹ディックとフィオナは、ギデオンとの戦いの時にヘリアテスからある程度聞いていたので、正確にはそれ以外、レベッカの夫デニスとその娘ウェンディ。先輩ハンターのエリック、イアン、ステラ、ルーシー。鍛治師夫婦のバージルとミラ、ナンシーにである。
ただ、全部を話したというわけではなく、春風が話したのは、あくまでも自身はルーセンティア王国に召喚された24人の「勇者」と同じ世界の住人なのだが、とある「事情」で春風自身は「勇者」達とは違う形でこの世界に来たことや、その「事情」の為に勇者達から離れることになったことだけだった。
そのことに関しては、
(うぅ。ここまできて『嘘』を吐かないといけない状況に……いや、全部が『嘘』ってわけじゃないけど……ああ、でも胃がキリキリする……)
と、春風はかなり罪悪感に苛まれたが、
(で、でも、『世界消滅の危機』なんて言ったら、絶対にこの場どころか、最悪フロントラル全体が大混乱に陥るかも……)
と、すぐにそう考えて、
「とまぁ、俺のことに関してはこんな感じです」
と、ちょっと強引に切り替えるようにそう話を締め括った。
そして、春風の話にナンシーが感心した後、
「皆さん、今まで嘘をついてすみませんでした」
と、春風は深々と頭を下げて謝罪すると、
「ああ、いや! そんなに気にしないでくれ! 確かに衝撃的な話だったけど……!」
「そ、そうそう! 俺達だって、お前と同じ立場だったらきっと同じことするし……!」
と、エリックとイアンが慌てた様子でそう返事して、
「そうだな、エリック達の言う通りだ。『異世界人』だなんてとんでもねぇ話、いきなり言ったって信じてもらえるわけもねぇしな」
「そうねぇ。私もそう思うわ」
と、バージルとミラは「うんうん」と頷きながらそう言った。
すると、
「……なぁ、春風」
と、それまで黙って春風の話を聞いていたヴァレリーがそう口を開いたので、
「は、はい、何でしょうか?」
と、春風が恐る恐る返事すると、
「お前の抱えてる『事情』って奴、私らには教えられないほどやばいものなのか?」
と、ヴァレリーが真剣な表情でそう尋ねてきたので、それを聞いたレナが、
「は、春風……」
と、心配そうに春風を見つめると、
「……はい。大変申し訳ありませんが、こればっかりはどうしても今この場で言うことは出来ません」
と、春風は再び深々と頭を下げて謝罪しながらそう言ったので、その言葉に何かを感じたのか、
「……わかった。だがもし話す気になったら、その時は聞かせてほしい」
と、ヴァレリーは「ふぅ」とひと息入れながらそう言い、そんな彼女に続くように、
「勿論、その時は僕にもですからね」
と、タイラーも春風に向かってそう言ったので、2人の言葉に春風は「うぅ」と呻いた後、
「……はい。わかりました」
と、ゆっくりと頷きながらそう返事した。
その瞬間、食堂内が一気にシーンと静かになってしまい、
(う、うわぁ。ますます胃がキリキリするんですけど……)
と、その雰囲気に春風が更に罪悪感に苛まれていた、まさにその時、
「はいはい! 辛気臭い話はそこまで!」
と、レベッカが両手をパンパンと叩きながらそう口を開いたので、それに春風達がギョッと目を大きく見開くと、
「あんた! すぐに春風に食事の用意だよ!」
と、レベッカは今度はデニスに向かってそう言い、
「ああ、わかった」
と、それにデニスがそう返事すると、すぐに厨房の中へと消えた。
レベッカはそれを見送ると、
「で、凛咲さんとミネルヴァさんだったね? 春風の話からして、あんた達も春風と同じ世界の住人なんだろ?」
と、凛咲とミネルヴァに向かってそう尋ね、その質問に対して、
「ええ、勿論」
「その通りだが」
と、2人がそう答えると、
「それなら、あんた達の話も可能な範囲で聞かせてほしいな。例えば、あんたらの故郷がどんなところとか、春風との出会いとか……」
と、レベッカはニコッとしながらそう言った。
そんなレベッカの言葉に、
「え、ちょっと……!」
と、春風が「待った」をかけようとすると、
「ほほう、それは是非私にも聞かせてほしいですね」
と、春風のすぐ後ろでそんな声が聞こえたので、その言葉に春風だけでなく周りの人達までもが「え?」と声がした方へと振り向くと、
「ふ、フレデリック総本部長さん!?」
「どうもどうも」
と、春風が驚いたように、そこにはハンターギルド総本部長のフレデリックがいた。
まさかのフレデリックの登場に、
「ど、どうしたんですかフレデリック総本部長さん?」
と、春風は緊張した様子でフレデリックに向かってそう尋ねると、
「いやぁ、何だか楽しそうなことが起きようとしているのを感じまして……」
と、フレデリックは「ははは」と笑いながらそう答えたので、その答えに春風だけでなくレナ達までもが「ええ?」とドン引きしていると、
「まぁ細かいことは気にしないで、凛咲さんのミネルヴァさん、あなた達のお話、是非私にも聞かせてくださいな」
と、フレデリックは特に気にすることもなく平然と近くのテーブル席に座りながらそう言ってきたので、そんなフレデリックに凛咲もミネルヴァも「むむむ……」と警戒したが、
「……ええ、いいわ。だったら、まずは私の話からね」
と、凛咲は「ふぅ」とひと息入れながらそう言い、
「お願いします」
と、フレデリックがそう返事すると、
「それじゃあ、私らと春風、そして、この世界に召喚された『勇者』達の故郷、『地球』のことについてかしらね」
と、凛咲はそう言って「地球」についての話を始めた。




