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いくつかのゴーレムを完全に倒す事に成功したマルグリットはそのまま単独で行動していた。
リディア王国では基本、銀狼と呼ばれる亜人に対しては特別な階級を与えることがある。
過去からリディア王国は亜人を手なずけ、戦闘訓練をさせて前線に出す事が多い。
マルグリットはその中でも王女から騎士の階級を授かった、純粋な騎士としての名誉がある。
剣も装備も、王女から授かった名誉ある騎士の装備。彼女は亜人としては人間に非常に従順なタイプであった
「隊長たちは大丈夫・・かな。多分、死んでないだろうけど。」
まだタルタロスのエルフが居る可能性が高いため、慎重に行動して見つからないようにしよう。
「それにしても、魔力の濃度が薄い・・。ヘラのせいで精霊たちが弱って居るとは聞いていたけれど。これじゃぁまるで砂漠みたい。」
森の中を歩き続けているマルグリットは、大気中の魔力の薄さに違和感を感じていた。
本来ならもっとあってもいい魔力が、嘘であるかのように存在していない。
ヘラによる暴走のせいでエルフたちに危機が訪れているのが本当だとすれば、最終的にはヘラを討伐しなくてはいけないはずだ。
「私が出る幕ではない事は分かって居るんだけど・・。」
あまり出しゃばらず、適当に言われた事をしていればいい。
そうしていれば、自分は人間に守られ続ける事が可能となる。銀狼のような亜人の中でも優秀な生き物であっても、獣人化には逆らえない。
錬金術師が作ったお守りによって満月になっても何とか獣人化を抑えられるが、亜人はあまり魔法を得意としていない。
エルフは亜人を根本的に嫌っているため、彼らから助けを期待するのは無謀だろうし。
「ん?この匂いは・・。」
何処か、曇った匂いがしたマルグリットはそのまま前進する。
何か違和感を感じ、歩いて行った先には何かがあった。
エルフが居る。黒い服装と、長い耳。普通のエルフには見えず、髪も黒かった。
「ダークエルフ・・?」
の、女の子だった。
ダークエルフがこの場所に居るとは思っていたが、まさかマルグリットも女の子だとは思っていなかった。
「随分、可愛いダークエルフだけど・・。一体、どうしてこんなところに・・?」
地面に倒れて気絶しているように見えるが、とりあえずマルグリットは彼女を抱いてみた。
「大丈夫ですか・・?」
「うぅ・・。」
「怪我は無い・・魔力消費の痕跡あり・・。まさか・・。」
先ほど、ゴーレムを召喚した張本人なんだろうか。
「はやく・・セレス、に・・。」
「セレス?」
「レジーナに・・・。」
何処か苦しそうにしているが、今はゆっくりできる場所に移動してあげよう。
ダークエルフの少女を背負ったマルグリットは、すぐにその場から走り出した。
リディア王国軍野営地。そこに帰参したアルディの部隊が休んでいた。
アルディは聖地攻略長・・部隊の司令官が居る場所に行き状況を報告していた。
「それで、ゴーレムの撃退は彼女に一員したまま貴方たちはすぐに撤退してきたと。随分手際がいいですね。」
赤い髪の女性は、白い甲冑を着ている。司令官に相応しく派手な武装をしている彼女は、フィリナ・フランカという貴族の一人である。
「えぇ。ですが、副隊長も毒矢を受けているのが分かって今は治療中でして。タルタロスのエルフとの交渉はやはり決裂とみていいかと。」
「何故、彼女を突撃させておいたのかしら。」
「マルグリットの善戦のおかげで、部隊に死傷者は出ませんでした。敵の位置は理解した以上、次はこちらも武装を工夫して行動を・・。」
「マルグリットは貴方の道具ではありません。彼女を一人にするなど、それは王女に対する不敬では?」
「ふ、不敬?」
「彼女は王女に認められた騎士であり、銀狼の中でも位の高い少女です。本来であれば、貴方に任せるはずがなかったのですが。適任者が居なかったため、アルディの部下にしたのですが。」
「まぁ、彼女はとても・・。」
「アルディ?私はどうして怒って居るのか分かりますか?」
「わ、分かりません。」
「相手はエルフです。亜人との闘いなど経験が無いわけがない。そして、マルグリットには弱点が無いわけでもないんです。彼女を一人にするということは、彼女がエルフに捕らえられる危険性がある。」
「そんなまさか・・。」
「人間の視点からしてみれば、彼女が負ける要素が無いと思い込みがちですが。実際には異なります。彼女は確かに優秀ですが万能ではありませんから。副隊長のシャルルはこの場で治療を続け、貴方たちはすぐにマルグリットの捜索をしてください。」
「わ、分かりました。」
司令からの命令を受託したアルディはすぐに立ち上がり、テントの中から抜ける。
「随分マルグリットが心配なようだね。」
フィリナの背後には一人、フードを被った少年が居た。
「心配というよりは、焦って居ると言った方がいいでしょう。彼女はまだ戦い慣れていませんから、多少の隙さえつけば私が相手をすることも可能です。」
「随分強気だねぇ。最近の魔法使いって皆そうなの?」
「私は貴族であり、魔法を第二要素として使っているだけです。」
「まぁ、それはそれとして。タルタロスの動きはどう思う?」
「彼らも何処か、焦って居るというか動きが少し変な感じもしますね。アルディから聞いた限りは、突然攻撃をしてきたとしか感じない。彼らも魔力消費が過ぎていておかしくなったのでしょうか。」
「魔力が消費したところで、精神は疲弊するけど脳がおかしくなることはないんだけどねぇ。」
「キオはそうならないと?」
「僕は基本、霊媒師だからね。魔力消費のせいで霊からの防御能力が低くなって・・というのはあるけれど。タルタロスのエルフの場合は、殆ど狂気といっていいところかな。」
「仲間が既に何人も死んでいて、それでも尚且つ私たちに歯向かうのですから。きっと何かがあるはずなんでしょう。」
「その何かが分からないから、今こうして僕たちがタルタロスやセレンへの交渉を試みていたんだけどね。セレスとはうまくやれているけど、タルタロスは違って暴れ続けている。彼らは亜人を野蛮人とか見下しているけれど、彼らもそう大差ないんじゃない?」
「野蛮かどうかは主観的に判断するしかないでしょうね。これから先、聖地の攻略が終了した後にはまた王国での会議がありますのに。」
「人間も結構荒っぽいよね。」
「戦争・・といっても、貴族同士の権力の駆け引きですが。外国の貴族と戦う事になった場合は私も前線に出なければならない。私がもし死んだとしたら、貴方には申し訳ないでしょう。」
「いきなり遺言を言わないでくれる?大体、貴族の場合はすぐには殺されず、人質になることもあるんだから。」
「えぇ。その屈辱を感じないためには、自害という方法もありますが。」
「おいおい。止めてってば。」
「冗談ですよ。どのみち私は、そう簡単には死ねない立場なのは十分承知しています。この先、領土争いの解決も含めてリディア王国は他国との戦争を考えている。最終的にはリディア王国が勝利できるように、この聖地での争いを終結させるのが今の目標ということ・・。第二部隊が遠征から到着するまで、アルディには頑張ってもらいましょうか。」
「聞いてなかったけど。彼って強いの?」
「さぁ。私が負ける事はないんですが・・。」
「それって嫌味?それとも天然・・?」
その印象がどっちに当てはまるかは言わず、テーブルに置いてあったコップに入って居る水を飲みほした。




