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2-6

深い森の中に辛うじて存在している山道を、二百人程度の軍人が列をなしていた。

その軍隊の先頭には、馬に乗った騎士が三人。隊長と思われる騎士甲冑を着たその人間はアルディという。

他の騎士はシャルルという男が左側に居るが、アルディの右後方側に居る騎士は他の人間に比べると異端であった。

まず、亜人であり銀の髪を持つ少女であること。銀狼族という亜人の一種で、亜人の中では古くから人間に仕える一族だ。

マルグリット・ヴァレンティーヌ。大きく派手なツヴァイへんだーを背中に装備している彼女は堂々と馬に乗って人間の軍隊と共に移動している。

「後もう少しでタルタロスの領域内だが、セレスの軍隊は見えないな。」

「そもそも軍隊って言えるほどの装備を持っているのかあいつら・・?」

アルディの心配を補足するシャルルの言う通り、今のセレスは人間の軍隊から物資を拝借するほど貧困している最中だ。

「無銭で尚且つ精霊や妖精に対する崇拝によって成り立つ集団だからな。社会が機能しているだけでむしろ奇跡だ。俺のマルグリットと比べると、あまり可愛げが無いのが駄目な所だ。問題はそのセレス部族がタルタロスへの侵略を俺たちに丸投げしている可能性が出て来たということだ。」

「嫌な奴らだよなぁ。あれだけ人間側の忠告を無視したあげく、自分たちが持てる聖域の拡張のために他の部族に侵略する準備を続行するんだから。」

「あの、アルディ様はセレスが、気になるのですか?」

見た目とは裏腹に、マルグリットは小さい声でアルディに声をかけた。

「セレスというか、エルフ部族全体に対する愚痴だな・・。古来、エルフと何かしゃべる時は注意するのがルールになっているし。何でエルフってあんな感じになったのか。」

「私の、古い家の伝えだと・・エルフは狼を素手で倒せるほど狂暴だから。人間の姿をした何かだと思えって。」

「ん?でも、エルフってそう人間で変わらないんだよな。えっと、アルディ隊長とセレスの部族が決闘した場合は・・。」

「おいシャルル。何で俺で試すんだお前が戦え。俺は隊長で頭脳派なんだからな。」

「頭脳派・・まぁ、それはともかく、割と互角なんじゃないか?」

「問題はな。奴らの魔力量と質なんだ。どれだけあいつらが見た目美麗でも、魔力によって体を強化することができる。マルグリットみたいな亜人と違うのは、その魔力だけでも単独生存を可能とするスペックを得ることができる。つまり、あいつらは死ににくいようにできているんだ。」

「じゃぁ、何であいつら今餓死しまくってるんだ。」

「会議で言ってなかったか?」

「寝てた。」

「お前、よくこの前線で舐めたこと言えるな・・。あいつらが餓死しているのは、聖域から出れないからなんだ。聖域では他のエルフが狩猟をしすぎて、魔物の絶対数が少ない。むしろかなり平和な土地なんだよ。」

「聖域から出られない・・それはただのルールではなく、聖域となっている土地に潜む精霊や妖精から彼らは魔力をより吸収している。でも、最近になってヘラが暴走して・・私たちでもやっかいな魔力食いが災害レベルで発生したから。エルフたちは魔力を節約するために、どうしても体力を消耗してしまう。そして、魔物と必要以上に戦った結果・・彼らは、魔力が枯渇しヒトと同レベルの肉体になった。隊長の心配はそこにあるの。」

マルグリットのように、肉体が普通ではない存在と違い、エルフの体は人間とそう変わらない。つまり、魔力が枯渇し使い物にならなくなると彼らはすぐに疾病や飢餓によって絶命してしまうことになる。

「今はヘラの暴走が止んでいるけど、また起きたらもっと被害が出ると思う。そうなる前に、私たちはエルフと交渉する事にしたんだけど。セレス以外の部族たちは意固地になってる。」

「しかもそのセレスでさえ、姿を現さないからな・・。かなり嫌な奴らだよなぁ・・。」

「でも女の子は凄い可愛いんだろ?」

「マルグリットに比べるとなぁ・・。」

「まぁ、アルディ隊長の趣味はともかく、そこまで気にすることじゃないだろう。タルタロスの奴らを倒したら、セレス側に可愛い女の子を一人ぐらい紹介してもバチはあたらn」

何処からか飛来してきたのか、魔力を含んだ矢がシャルルの方を貫く。シャルルはその衝撃によって落馬してしまい、周囲も騒然とした。

「シャルル!!?」

「隊長、後ろに・・!!」

前に出るマルグリットは構えたツヴァイヘンダーで再度放たれる矢を防御する。シャルルは落馬の衝撃で気絶しており、他の兵士が彼を保護していた。

「くそっ!言わんこっちゃない!」

「副隊長がまた死亡フラグを踏んだぞ!!意地でも守り通せ!!」

一体どんな気合の出し方なんだろうか、マルグリットにとっては不思議な掛け合いだった。

「背後からタルタロス部族からの攻撃を確認!」

「防御しろ!隊列を崩すな!」

タルタロスが待ち伏せをしていた事は大体理解できるが、前後から攻撃されたせいで身動きが取れない。

「敵が分散している。でも、この場合は・・。」

タルタロス全員が自棄になってこちらに突撃してきたのだろうか。

セレスもタルタロスもほぼ同レベルで物資が枯渇しており、国の援助を受けなければ危うい状態のはず。

この矢も本来なら魔物相手に使わなければ後に支障が出るだろう。

マルグリットは別方向から飛来してきた矢を左手で受け止め、馬から降りた。この場所で仲間と一緒に戦うのは自分にとって不利。

「おい、マルグリット!?」

「大丈夫・・。」

「何が!?」

意味のよく分からない言動を放ったマルグリットはツヴァイヘンダーを両手で構え、先ほどの矢が放たれた方向へ突撃する。

その速度は速く、草食動物を追う獣のような俊敏だ。

タルタロスのエルフはその光景に驚く。最初から亜人とは気づいていたが、自分たちが知って居る亜人以上の速度だ。

クロスボウを発射するが、その攻撃は当たらない。太い木を足場にしてマルグリットは突撃しそのエルフの眼前に到着した。

エルフはクロスボウを捨てて短剣を抜くが、その右手を既に掴まれていた。

「攻撃の意思を止めなさい。」

「断る!」

エルフは彼女を蹴り上げようとするが、その攻撃は回避されツヴァイヘンダーの柄を腹に突かれた。その一撃で昏睡したのを確認し、周囲から飛来してくる矢を横斬りに払った。

その矢が飛来してきた方向はもう既に分かって居る。いくらエルフ側が早く動き、猛獣から逃れようとしてもその姿は匂いと共に感知している。

マルグリットはそのまま突撃を開始し、彼らを追撃。エルフたちは何度も矢を放つが、その攻撃は命中せずツヴァイヘンダーの一撃で倒されていった。

「あの子、凄いですね・・。」

「亜人の中でもトップクラスの能力を持つ銀狼だからな。彼女一人分の力で百人から三百人程度の力を発揮する。」

「なら、私たち要らないですよね?」

「いや、その分頭に栄養がいっていないみたいでな。あいつみたいに従順な銀狼は珍しいんだよ。」

「はぁ・・。」

「副隊長が目を覚ましませんが、どうします?」

「とりあえず馬に乗せて置け。マルグリットが戻ってくるまで変な気を起こすなよ。」

「了解しました。」

マルグリットが突撃していく中、ふと微かな違和感を感じて停止した。

「この匂い・・!」

マルグリットがアルディに対して警告しようとしたが遅く、地中から突然巨大な人影が出現する。

古典的な土系統魔法の一つ。ゴーレムの作成を行ったようだ。しかし、今のエルフにはそこまでできるほどの魔力量は無い。

万全な状態であれば、マルグリットをある程度抑え込む魔法は出来た可能性はあるが。いまの状況を考えれば本来は圧倒的にマルグリットが有利だった。

「まさか・・ダークエルフ・・?」

情報が正しければ、ダークエルフは他のエルフ部族とは別の思考で動いている。理由は不明だが、タルタロスのエルフを殺害したという話もあった。

マルグリットは気を引き締め、そのゴーレムの討伐のために全力を使う事にした。


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