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かなり長い時間が経過していた。ミリアはナツキへの尋問を続けていた後、昼には攻撃が激しくなっていた。
ミリアから治癒魔法をかけられ、殴られた傷が全快する。別にミリアに対して誤解が解けたわけではなく、拷問によってナツキが死なないように処置していただけのことだ。
人間社会では禁止されている拷問法の一つに、薬品や魔法によって治癒を行い無制限に暴力を続ける事がある。
拷問する側が加虐趣味であればあるほど、その攻撃はより苛烈なものとなり相手を精神的にダメージを負わす事があった。
軍隊の中でもその拷問法によって敵の兵士から情報を聞き出す事が問題視され、王の勅令により禁止されている。
しかし、その法が届かない場所ではその拷問法が行われていると噂があったが・・まさかエルフがその方法を使うとは思っていなかった。
「次は刃物を使います。」
「エルフは、もう少し高潔な種族だと思っていたが。」
「いいえ。それは飽くまで狩猟に対する心得の話です。しかし、私たちは切迫しており、すぐにでも多くの情報を得たい。だから貴方をギリギリまで拷問する必要性もある。」
ミリアの目は本気だった。明らかに正気でない彼女は、刃物をナツキへ向ける。しかし、その行為は突然入って来た別のエルフによって止められた。
「レジーナ・・?どうして!?」
「君、やる時は本当に嫌な方法よるわね。言っておくけど、リディア王国内では基本的に拷問の行きすぎによる死亡があった場合、どんな立場であろうと拷問した側は禁固刑。黙認した側にも罰が下る事を考えるように。」
「・・・。」
「人間の軍隊がこっちに来てるみたいだから。ちょっと優しくしないとね。物騒な行為は禁止、私たちは善良なエルフとしてふるまわないと。」
「レジーナは、エルフを無力な種族だと考えているんですか?」
「最近追加された法に、魔法による多種多様な実験行為にも規制が入って居るの。意味分かる?」
「分かりません。」
「貴方には言っていなかったけど。最近、ダークエルフは人体実験に手を出し始めているの。人間やエルフの魔力を意図的に暴走させたりね。何をしたいのかよく分からないけど、過去に逆行しないためにも色々な法整備が行われているから。貴方も気を付けるといいよ。」
ミリアはレジーナの言葉に従ったが、内心では拷問を続けたいのだろうか。
ナツキはレジーナに救われた事にはほっとしたが、まだ疑われている事は事実だろう。
「最近、リディア王国内のエルフは皆殺気立っているから、気にしないでくれると嬉しいかな。」
「色々聞いたけど。エルフはリディアから援助を貰ってないのか?普通なら、助けてくれそうだが。」
「あれ?ミリアから一体何を聞いたのかな?まぁいいけど・・。実を言うと、セレス等他のエルフの部族は孤立状態になっていてね。昔からリディア王国に直接支配された、行き場の無いエルフと違って私たちは聖地を獲得しているから。その条約には不可侵条約というものがあって、私たちが過去の因習を守る限り人間はエルフに干渉しないというルールがあるの。そのルールのせいで、人間はエルフに対し援助物資を送ることができないのよね。」
「初めて聞いたな・・。」
「こんな僻地に居るから、余計人間はエルフに対して物資を送れないからね。それに、聖地に関する条約は人間の間には知られていない。あまりにも古すぎて、守って居るのは王族と聖地に居るエルフだけになる。つまり、普通の人間は知らないから例え間違って侵入してくる可能性はあるはずなんだけど。ミリアは貴方をまだ信じていないみたいね。」
「せめて、もう少しまともな行為をしてほしいんだが。」
「エルフはあと数十年すれば、エルフ独自の社会が崩壊して人間社会に吸収されるから。その時は私たちも無茶な事はしないだろうけどね。問題は、ダークエルフかな。」
「そのダークエルフがどうかしたのか?」
「今現在、ダークエルフと思われる人物が魔物を操作してタルタロスの狩猟メンバーを殺害したと報告を私は受けたわ。」
ナツキからしてみると、それは完全にただの強盗か殺人行為だった。
「謎の殺人行為をしたダークエルフの捜索は行われているけれど、彼らの危険性も考えて人間と交渉を取る予定になった。だからミリアも、勝手な拷問行為はしないように。向こうの監視員、びびって私に泣きついてきたの気づかなかったの?」
「わ、私は・・ただ事態の早期解決に・・」
「解決なんてしないよ。」
え?とナツキとミリアはレジーナを凝視した。
「えっと。話が変わるけど、セレスの偉い人たちが集まって居る老人会議があって。その老人たちは聖地をどうしても守りたい、男衆も意地になって生存域を広げようとしている。しかし、リディア王国から物資の救援は来ないわ、タルタロスから必要以上の嫌がらせを受けるわの状況が何時までも続いているから。人間とある条件を組んでタルタロスやその他部族への侵略行為を考えているの。」
「侵略・・!?ダークエルフがまだ何を考えているのか分からない状況で・・?」
「そのダークエルフも侵略に入ってるんだけどね。リディア王国といつの間にか密約を交わしていたのがついさっき分かって居て、村長はすぐに老人会議に出席して情報を確認しているみたい。」
「何でそんな急に・・。」
「貴方と同じ気持ちなの。貴方が突然ナツキを拷問したように、彼らも精神的に追い込まれている。人間と違って楽ができないエルフたちは、自分たちが強制した高潔なルールや狩猟主義が仇になったから。この村には影響はないだろうけど、タルタロスを吸収する勢いだと考えてくれるといいかな。まぁ、本当はミリアに話す気は無かったんだけど。」
「私には話す気が無かった?」
「他の皆にもね。」
「・・レジーナ、貴方が今日この村に来た理由は・・・」
「村長に、戦争準備が出来た事を伝えただけだよ。貴方は非番の状態が続くし、人間の軍隊の物資を借りてこの村に届ける名目が出来上がったから。今の所はこの村の人たちが餓死する危険性は無くなりました。だからミリアは勝手な行動をこれからも慎んでくれると助かるんだ。」
「成程・・。つまり、私はただの出しゃばり女だというわけですか。」
「そう悲観しないでよ。さっきまで私も彼らをダークエルフの密偵だとは思っていたけど。ダークエルフがそもそも人間を使うような器量なんて無いし。死体でもない限り、ね?」
死体ならダークエルフは人間を操ると考えてしまうが、とりあえずナツキはレジーナから聞いた事を全部記憶しておくことにした。
「タルタロスへの侵略はいつ行うのですか?」
「うーん。二日後ぐらいには人間の軍隊が到着するから。とりあえず、ミリアはゆっくり休んでたら?貴方、関係無いんだし。」
「は?」
「いや、言葉を間違えたね。ミリアは当事者意識を持たなくてもいいから。この村の女の子たちを守ってくれたらレジーナも嬉しいってこと。貴方は狩猟ギルドを請け負うエルフであって、今は適当に公務員の仕事を手伝っているだけでしょ?あまり、人の仕事を奪い過ぎるのはよくないと思うんだよね。」
「でも、村長が・・。」
「村長の事はいいの。ミリア?そんなにナツキの事がいいの?」
「どういう意味で言ってるんですか?」
「冗談だよ。それじゃぁ、この部屋を片付けて、二人を自由にしましょう。」
「自由・・?」
「ナツキ及びリゼット両名の疑惑は有耶無耶にしてあげるってこと。」
「聖地から追放すると?」
「うーん。ミリアには言いたくなかったんだけどなぁ。話が長くなり過ぎて、私も仕事の時間が無くなるし。とりあえず拷問行為はこれから絶対禁止だから。いいね?」
そうして、レジーナはその場から出て行った。




