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時に、人は嘘をついたり酷い事をする生き物だと確信することはあった。
ナツキもそう馬鹿ではなく、経験の中では酷い事を言われたり理不尽な要求をされることもある。
人間である以上、人間と共存する限りでは人の悪い部分をよく知っておく必要がある。
本当の所、ナツキはさっさと外・・人の居る場所まで出たいのだが。体を縄で縛られ、立たされた状態になった後は覚悟していた。
天井に縄が固定されているので座ることもできず、頭には袋を被せられている。
一体これはどういう状況なんだろうか。分かってはいるが、ミリアという子はもう少し優しい女の子だと思っていた。
「がはぁっ!!?」
腹に拳が入り、ナツキはその衝撃に耐えるしかなかった。いや、耐える必要性すら無いだろう。バランスをとるために足を鉄球付きの鎖で固定されているため人間サンドバック状態になっていた。
エルフってもう少し高潔な方だと思っていたが、やっていることは人間とそう大差ない。
「さぁ、吐きなさい。貴方はどうしてあの場所に居たのですか?」
「ま、待て・・」
顔を殴られた。正直、視界を遮られているせいで痛みは数倍上がって居る。
「あの場所に貴方たちが居るには条件を超えていなければならない。そもそもこんな奥地に入り込んでいる以上、貴方たちは私たちエルフに何らかの用があったはず。」
ミリアの声は冷徹だった。むしろ楽しんでいるようにも感じるが、殆ど言いがかりだった。
「一体どうやってここまで来たのですか?返答次第では攻撃力を下げますが。」
「えっと。」
殴られたせいで何を言ったらいいのかわからなくなる。
「異世界から来たんだよ。」
「ふざけないで。」
ごす、と腹に蹴りが命中。
あまりの容赦の無さにナツキはそろそろ諦めを感じていた。
「本当だから・・。あのリゼットという女の子は特殊な結界にずっと囚われていて、俺はその子を救い出したんだよ。」
かなり適当に言ったが、救い出したというよりは説得したと考えた方がいい。
ただ、ミリアがその言動を聞き入れる筈がなく、ナツキの頭にかぶされていた袋を外す。
「どうやらもう少し手段を変えた方がいいですね。」
「待て待て待て、お前キャラ変わってないか・・!?」
何でか笑顔だった。
ミリアは相当加虐趣味があるようで、彼女はナツキを殴るほど快感を覚えていたようだ。
「変わって居ません。私は冷血なエルフとしてやるべきことをしているだけです。」
「ここのエルフって皆お前みたいな奴なのか・・?」
「心配しないでください。貴方が存命中まではリゼットに手を出したりしませんから。人の配偶者を寝取るような趣味は持ち合わせていません。」
「聞いてねぇよ!!」
さて、とミリアは適当に腰からナイフを取り出し、縄を切り裂いてくれた。といっても宙づり状態から解放されただけなので自由ではない。
「それで、結局何処から来たのですか?リディアからの調査班か、それとも外国からの略奪者か・・。」
「ちょっと待て。何でお前らはそんなに暴力好きかな!?」
がす、と足で踏まれた。
「数週間前です。ただでさえエルフの数が少なくなって狩猟が難しくなっていた所を、人間の軍隊が私たちに対し狩猟行為の領域を狭くするように言われました。人間一人ならすぐにその場で殺せますが、圧倒的多数かつ物量戦で優る卑劣な種族・・その人間を倒すには私たちの数が少なすぎる。」
リゼット曰く、エルフは亜人を見下しているくせに超脳筋のため精密な機械を作る事が無い。
全てが魔力頼みである以上、彼らは突発的な天変地異に非常に弱いらしい。
亜人は適当な状態でも生き延びれるが、エルフは魔力量の高さや術式の編成能力に優れているだけで・・普通の人間とそう変わらないという。
「パンツ見えてるぞ。」
「へ、変態・・!!」
がす、とまた一撃をくらった。サキュバスがリゼットに攻撃されている心境ってこういう感じなんだろうか。
「まだ話は終わって居ません。リディアから領域の削減を命令された後、この地で寒波が襲来しました。マイナス10度以下を下回る寒さは大したことはありませんが、その寒波は山脈に存在する魔物が原因によるものでした。ヘラという名前の怪鳥、その魔物は季節を問わず山頂を独占するあまり害の無い魔物ですが・・。そのヘラは精霊から魔力を吸いつくすことで生きているため、周囲の天候がどうしても不安定になる。魔力を無くした精霊は地下に存在する霊脈から魔力を吸い上げるため、魔法に使う薬草も激減してしまった。この状態が長く続くと、より不利になるのは魔法を使って生活をするしか能の無いエルフになる。私たちは何とかして生き延びましたが、結果数百人の仲間が餓死しました。他の部族も多大な被害を出しており、エルフは移動を余儀なくされる。つまり、私たちは聖地であるこの場所から転移しなければ存続することはできません。」
「そんな状態になっているのなら、何処かに行けばいいだろ?」
「そうはいかないんですよ。狩猟民族は確かに、場所に問題があればすぐに移動してしまうのは基本ですから。しかし、この聖地は私たちが管理してきた領域です。前リディア王国の王女から授かったこの聖域を私たちは故郷としてきた。愛着がわき過ぎてしまい、どうにかして人間と同じ集団を作ろうと必死になりました。本来ならここまで・・立派な、空間を作る事はありません。」
亜人とほぼ同レベルの暮らしをしていたエルフも、本来なら家を作らず洞窟の中で生きていても平気らしい。
しかし、それではいつまで経っても原始人のままだ。
「私たちは数世代、できるだけ人間と同じ集団生活を作れるように環境を整備する実験行為をした。貴方たちが使っていた部屋も、人間の生活を真似するために作った物なんです。そう、私たちは貴方たちがペットにしている犬とほぼ同レベルの生活しかできない存在だった。意味が分かりますか?私たちはあまりにも馬鹿過ぎて、それが原因で仲間を殺してしまったんです。私たちが食に飢えている間、貴方たち人間は頑丈に作られた建物の中で家族と仲良くご飯を食べていた。あまりにも馬鹿馬鹿しい差異ですが、亜人と違い私たちは人間とはそれほど差異が無いんです。亜人と違い、動物の肉をそのまま食えば、瘴気に当たって死んでしまうのですから。」
亜人は元々は動物霊に憑かれた人間が、その状態を克服することで進化した存在らしい。そのため、人間とエルフとはかなり肉体が違っており動物を生食したところで死ぬ事が無い。
「亜人からは虚弱体質の魔術師と笑われ、人間からは魔法を使うことしか能の無い野蛮人と軽蔑されてきたエルフは、誰からも救済される事なく現在に至っています。ダークエルフから救援を受ける事はありましたが、その代わり彼らに頭を下げなければならないという屈辱があった。結果的に私たちは他の部族と戦闘するまでに至った。皆で一つになり、この聖地から南下して一からやり直そうと。しかし、その交渉は見事に失敗し、タルタロスやその他の部族と殺し合う事になった。貴方は分からないでしょうが、エルフは高潔過ぎて他者を受け入れられない存在なんです。タルタロスの部族と共存するために少女を一人嫁がせる事すら、私たちは許す事ができなかった。」
「ミリアは、どうしたいんだ?」
「分かりません。ダークエルフの部族からも何故か連絡が途絶えていて、何をしたらいいのかすら分からない。私が馬鹿だから、何も分からない。」




