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「タルタロスの一人であるエルフから奇妙な情報が入った。最近になって魔物の様子がおかしくなり、急に攻撃的になうようになったと。当初は魔物に疫病か何かが流行って居たと思われていたが、実際には違っていた。つい一週間前、タルタロスは領地内で仲間の死体を発見。その死体には明らかに魔術で殺された形跡があった。」
「魔術、ですか?」
まさか誰かがタルタロスのエルフを殺したのだろうか。
「その魔術によってつけられた痕跡は酷い状態になっていた。属性は闇・・つまり、ダークエルフがこの領地内に入って殺人を起こしたと考えられている。」
ダークエルフは、この地に住むエルフと同じ祖先をもつ種族だ。
普通のエルフと違い、魔術に特化しすぎており見た目も異なって居るらしい。
ミリアはその話を信じたくは無かったが、そのダークエルフによる襲撃が本当だとすれば大変な事になる。
「ダークエルフは数人ほどエルフを殺害し、何処かを彷徨っている。そして、先ほどタルタロスからの使者から、イシスがダークエルフを匿っているのではないかと聞かれた。」
「まさか、あの侵入者を彼らは視ていたのですか?」
「そのようだな。」
「酷い話だよねー。まさかあの二人をダークエルフと勘違いするだなんて。どう見ても違うのに。」
レジーナはそう言っていたが、当初は暗闇の中だったから見当違いを起こしたのだろう。
「ちゃんと交渉すれば彼らも分かってくれるはず。ただ、ダークエルフが本当に来ているのかが問題ですが・・。」
「タルタロスのエルフは執念深いから、きっとまた変な事してくるだろうし。村長は最近になって体を崩しやすいから。そろそろ私が代わりにならないといけないんだよね。」
「貴方が?」
「何、その顔。」
代わりにとはつまり村長の代行を務めると解釈していい。
ただ、問題はレジーナが村長代行を務める事に不安を隠せなかった。
「ダークエルフがこの地に来る理由が分からない、タルタロスはいいがかりをつけているだけかもしれません。」
「どうだろう。最近は大人しかったタルタロスが、急にダークエルフが来たとか言い出すんだから。少しは信用してもいいんじゃない?」
「そのダークエルフが本当に来たとして、一体何があるんですか?彼らのやっている事は吸血鬼とそう大差ないはず。」
「ミリアもダークエルフをそんな目で見てるの?いい、彼らは私たちよりも魔術に優れた高貴な種族なんだから。そんな目で見ていたらいつか呪い殺されるよ?」
「そうですね。私は一応、監禁室に居る侵入者を見てきますけど。レジーナ、貴方はおしゃべりですから誰かに言いふらさないでください。」
「ふーんだ。どうせ口が軽い女ですよー。」
本当に大丈夫なんだろうか。かなり不安になってしまう。
ミリアが出て行った後、ミリアは笑む。
「お爺ちゃんだって、ダークエルフが悪者じゃない事は分かるでしょう?」
「彼らと交渉する事は避けたいが、秘術を手に入れられる以上は仕方が無い。」
「エルフもそう馬鹿じゃない。人間と同じぐらい狡猾だし、人間と同じ言語を喋って居るんだから。彼らと対等な取引ができるはずだよ。」
「本当なら、ミリアから殺されてもいいような事はしている。昔から狩猟社会以上の文明を築こうとしないエルフを、人間並みの独自な文明を形成できる存在にしたいのは他の皆も同じだった。」
「エルフ皆が、そもそもお互いを嫌っているからね。魔術の素質が高すぎて、生まれてくる子供にも影響を与えるから仕方ないけれど。人間の社会に取り込まれる前に、その人間を打倒できるレベルの軍隊を形成して独立しなければならない。私、物凄く期待してるからお爺ちゃんも頑張ってダークエルフを応援してね。」
「むぅ。せめて、ワシ以外にも仲間が居たらいいのだが。」
監禁室。その場所に閉じ込められてから既に夜になっていた。脱出する方法をいくつか考えていたが、エルフを相手に穏便に事をすますのは難しいと判断される。
「エルフっていうのは、元は同じ人間だったことは理解しているわよね。」
「あぁ。」
エルフはかなり古い時代に人間から分岐した存在であり、普通の人間とは異なった肉体を持っている。
そのエルフは今は同じ言葉を喋って居るが、実際の所は亜人や魔族とほぼ同レベルで人と共存が難しい生き物らしい。
「看守から盗み取った記憶から推察した通り、リディアの国内に存在する部族の勢力内に私たちは居る。セレスという名前の部族に私たちは捕まって居るけれど、いつまでも私たちが安全かどうかは保障できないわね。」
「その、エルフとは喋ったりしたことあるのか?」
「さぁ。300年前の事を明確に覚えていないもの。大体、エルフは狩猟社会から脱する事ができない種族だから、というより人間以外の種族がそうなんだけど・・。とにかく、彼らみたいな生き方をしている種族は人間を嫌っている事が多い。自分たちよりも弱くて情けないくせに、大多数の勢力を組んで自分たちを守って居る卑怯者だと思い込んでいる。実際には人間以外の種族が能無しなだけなのにね。」
「その言い方はどうかと思うんだけど。私だって一応魔族、亜人なんだから。」
サキュバスはそう言っていたが、そもそも異世界の種族である以上は同じルーツじゃないんじゃ。
「貴方の場合、基礎的な常識がおかしいのよ。そういう意味ではエルフたちも一緒で、人間社会の仕組みをまるで理解していない奴も居る。頭は悪くないのだけれど、ようは知識が極端なのよね。」
「人間から派生したって言っていたけど。それって何処まで違うんだ?」
「さぁ。」
分からないらしいが、そのエルフとの交渉には十分注意しないといけない。
「それで、サキュバス・・一ついいか?」
「淫夢の用意?」
「見事に違うが・・サキュバスは魔族とか言っていたけど。どういう種族なんだ?」
「実を言うと私にも分からないのよね。正直、何千年前も前の情報を守って居る人間の方が驚きだし。」
それ以前に異世界の魔族なのだから、冷静に考えたらサキュバスは人間とは本質的に異なるのだろう。
「サキュバスが居た世界ってどんな所なんだ?」
「んー。それは私の好感度を10以上上げないと発生しないイベント会話なんで。」
「は?」
突然サキュバスは変な事を言い出し、ベッドの中に潜り込んで寝ていた。
物凄く仲が良くならないと、サキュバスも言いたくないような世界なんだろうか。
「サキュバスも一応、女の子だから・・??」
「間違ってもサキュバスと変な事をしようとしないでくれる?貴方似の魔獣とか産まれたら私も怖いから。」
「酷い言い方だ・・?」
そもそも生まれるんだろうか。
変な考え方をしてしまいそうだが、ただ今はため息をつくしかなかった。
ドアがノックされ、開かれる。ミリアが来てくれたのはいいが、時間は8時になったところなのでかなり暗い。
「ミリアです。ナツキさんだけ部屋から出てください。」
「僕だけ?」
「はい。リゼットさんはそこで待機していてください。」
そう言っていたが、どう考えても何かされるということは分かり切って居た。
別の部屋に移動され、椅子に座らせられる。
「これは尋問ではなく相談だと考えてください。基本的には手荒な真似をしませんから。」
「エルフと話し合うのは初めてだけど。こういうのは好きなのか?」
「いいえ。私たちは穏便に過ごしたいだけですから。ナツキさんとリゼットさん。貴方たち二人は一体どのようにしてあの場に居たのか、詳しく説明してください。」
言わなくちゃいけないんだろうか。かなり不安になってしまったが、ナツキは勇気を出して適当に口走るしかなかった。




