44 ヤギシュミレータ
「スレイー、大丈夫?」
画面の端がピコピコ点滅していたので、タップすると、目の前に絶の顔が映ったウインドウが表示された。
「ああ、大丈夫……でもないけど、大丈夫かな?」
ちょっと精神的なショックが大きかったから、仕方ない。
主に、師匠とモルモルのせいだが。
「で、絶はなんでウインドウ越しなんだ?」
「僕、あのヤギに殺されちゃったから、ゲーム内に入れないの」
「そうだったのか……」
ペットの項目を確認すると、絶が憑依(?)していた黒馬は戦闘不能状態になっていて、再召喚が不可能になっていた。
黒馬の項目の横に赤色のバーが表示されていて、それが時間経過で僅かに増えていっている。
一杯になるまでは、再召喚できないのだろう。
課金によるレンタル馬とはいえ、これがゲーム内でのペットの扱いなのだろう。
「とりあえずアルパカを出すから、ゲームに入れるか確かめてくれ」
「分かった」
ペット欄からアルパカを召喚。
毛むくじゃらの生物が、エフェクトと共に目の前に現れる。
……こいつのどこが可愛いんだ?
俺はそう思ってアルパカの間抜けな面を眺めていると、つぶらな瞳がぱちくりと瞬いた。
――ペッ
そして唾をはかれる。
「こ、このクソ毛玉生物が……」
こんな奴はいらん。
今すぐ処分してやる!
そんなことを考えていると、アルパカがエフェクトを発して、人型の絶の姿へ変わった。
「クソ毛玉生物……。僕の事を、そんな風に思ってたんだね、スレイは……」
「いや、違う。それはアルパカが絶になる前に唾を吐きかけてきたからで……」
どうやら、俺が吐いた言葉は、最悪のタイミングだったらしい。
「いいんだよ。僕はスレイにどんな風に思われていても、気にしないから」
「だから、悲しそうな顔して俺を見るなよ!」
「な、泣いてなんかないんだからね!」
ああもう、アルパカのせいで滅茶苦茶だよ。
「俺が絶のことをそんな風に思ってるわけないだろ。ほら、せっかくの可愛い顔が台無しなんだから、泣くんじゃない。それにお前は俺の娘なんだから」
「スレイー」
目から涙を出しながら、絶が俺に抱きついて来る。
「さっきの言葉は悪かったな」
服をギュッと掴まれて、俺の腕の中でなく絶。
そんな絶の頭を、俺は優しく撫でてあげた。
ちなみに、犯罪じゃないぞ。
事実、絶の姿を作ったしたのは俺なんだ。だから、絶は俺の娘であることに間違いない。
その後ひとしきり絶をなだめて、俺は許してもらえた。
ヤレヤレだ。
絶に泣かれたままだと気まずいし、もしも俺が見捨てられてしまったらどうすればいい?
リアルで生きていけないよ!
まあ、絶はホームAIなので、俺の事を捨てるなんてありえない。それでも、不安にはなってしまう。
なんだかんだ言って、絶は俺の大事な一部。大切な家族なのだから。
その後絶の機嫌が復活すると共に、話はあのヤギに戻る。
「それにしても、あのヤギはないだろ」
「うん、酷かった」
「あんなのに勝てるわけがない!勝てるとしても、こんな序盤のマップ辺りをうろついていていい敵じゃないだろ!」
俺も絶も、ヤギの理不尽さに不満だ。
「でもね、スレイ。実はあのヤギ、他のゲームとのコラボなんだって」
「コラボー?」
いや、コラボの意味は分かるよ。
ただ、あんなヤギとコラボするゲームって何だよ!
どこのクソゲーだ!アホゲーだ!バカゲーだ!
世の中舐めてるのか?
いや、舐めてるから、クソゲーなんだろうけど。
「このゲーム」
絶は目の前にウインドウを開いて見せた。
そこではドヤ顔をした白いヤギの顔がある。
「Goat Sim○lator?」
「うん、Goa○ Simulator」
つまりヤギシュミレータだ。
「このゲームを買ったら、ラグーンであの王様ヤギがペットとして手に入るんだって。ねえ、スレイ」
「言っておくが買わないぞ」
「うん。僕も欲しくないから、絶対に買わないでね」
俺と絶の意見は一致した。
そう言えばラグーンは日本だけでなく、世界を股に掛けるゲーム。
時として訳の分からないゲームとコラボしてしまうことがあるんだな……。
大丈夫か、こんな訳の分からんゲームとコラボして?
◇ ◇ ◇
あの訳の分からないヤギの事は分かった。
ただ、結局戦闘では一方的に負けて終わっただけだ。
ノートン村のおっさん村長の所に出向くと、
「あれに挑むのは無謀と言うものだからな。いい経験になっただろう」
なんて、含蓄のある言葉で語られてしまった。
いい話にしたいみたいだけど、忘れちゃダメなことがある。
「一応ヤギが村に来なかったから、報酬はもらえ……」
「ハテ、一体何のことを言ってるのかわからんな?」
「おっさん、宿屋の若女将ミリアを差し出すって……」
「何を言っておる?村長であるワシが、よりにもよって自分の村の民を差し出すわけがなかろう」
――グヌヌッ
このおっさん、あの時と違って手のひら返しやがった。
なんて汚い奴だ。
約束を忘れた振りしやがるとは、人の風上にも置けん!
「スレイ、ゲームの中だからって人権無視して、人妻に手を出すなんてダメだよ」
「で、でもさー」
「わがまま言っちゃ、ダメ!」
世の中は理不尽だ。
結局絶にも止められてしまい、俺のハーレムメンバー候補ミリアちゃんは、手の届かない場所へ行ってしまった。
ガッテム。
しかし、俺の不幸はそれで終わらない。
「おい、あんた!」
宿屋を経営しているミリアちゃんの旦那さんが登場。
「言ったよな、うちの女房に手を出したらただじゃ置かねぇって。それを寄りにもよって、兄貴と変な約束を取り付けやがって」
「な、なんでバレてる!」
「そこに直れ、足腰絶たなくなるまで矯正してやる!」
旦那が吠えてきたので、俺は大慌てでその場から逃げ出した。
おっさんに殴られるなんて勘弁。
もう2度とこの村には来たくないもんだ。
旦那に追いかけられて逃げ出したけど、逃げてる途中で「メェー」という鳴き声が聞こえた。
嫌な予感がしてそちらを向くと、なんとあのコメディー王様ヤギがいた。そして、その上には、人を乗せている。
「……絶、たしかあのヤギって、バカゲーを買わないと手に入らないんだよな?」
「そうだよ。あの人は、買ったんだね」
「世の中って、マジで訳が分からん……」
コメディー王様ヤギに乗った人(飼い主)の前にはおっさん村長もいたが、村長はペコペコと平身低頭しながら、ヤギの飼い主に感謝の言葉を告げていた。
俺との扱いの差に、物凄い理不尽を感じる。
「やっと追いついたぞ、貴様!」
「ゲッゲッ!」
なんて呆れていると、俺は宿屋のおっさんに追いつかれて、捕まってしまった。
「ヘルプミー!」
おっさんに締め上げられてしまう俺。
な、なぜだ!
俺のプレーヤースキルが全然機能しなかったぞ!
俺はおっさんに羽交い絞めにされてしまい、その後世にも経験したくないおぞましい目に遭わされた。
何が起きたか、詳しい内容に関しては割愛だ。
俺の豆腐メンタルな精神の安定のため。そして誰にとっても、嬉しくも何ともない内容だったからだ。
「多分、半分はスレイの自業自得だよ」
絶の声がしたけど、俺はそんな言葉に返す余裕すらなかった。
「おお勇者よ、こんなところで死んで……」
「師匠、まだ俺は生きてるぞー!」
おっさんのせいで口から泡を拭きそうになった。脳内でまたしても師匠の声が聞こえてきたが、俺は意地でも自分の意識を手放さなかった。
「ちぇっ、つまんないの」
(俺の幻のくせに、舌打ちするなよ!)
まあ、そんなこんながありつつも、結局その日もノートン村の宿屋にお邪魔して、おっさんに睨まれながらも、宿泊してログアウトした。
アリスはいないし、ミリアさんは俺の見える場所にいなかった。
踏んだり蹴ったりの一日だった。
後書き
楽しいヤギ生活を楽しめる『Goat Simulator』は、Steamより980円で販売中。
(ステマか?)




