第八章 生活の規定
AO系列の部屋に、新しい掲示が貼られた。
紙のタイトルは簡潔だ。
生活規定(暫定)
内容は、研究施設の規則としては妙に“家庭”に寄っていた。
食事の時間
睡眠時間
余暇(読書・運動)
面会(研究者/委員会)
苦情申立て窓口
主任が言った。
「“苦情”なんて言葉、研究施設に要る?」
佐伯が答える。
「要ります。彼らは生活している」
主任は首を振る。
「生活なんて言い方をしたら、もう“資源”として扱えない」
佐伯は淡々と返す。
「扱えない状態にするための紙です」
AO−1は掲示を読んで、短く言った。
「遅い」
AO−3が続ける。
「でも、出た。出たことが重要」
AO−2は窓のない壁を見たまま言う。
「ここに窓を作ると、監視が増える。窓を作らないと、精神が摩耗する。あなたがたは、どちらも“管理”として扱う」
佐伯は、規定にもう一行追加した。
面会時、記録の有無を本人が選択できる(ただし安全保障例外を除く)
大佐が見たら顔をしかめる一文だった。
しかし、こういう一文がないと、生活はただの飼育になる。
AO−1が佐伯を見て言った。
「あなたは、到達を信じている」
「信じているというより、——可能性を捨てない」
「捨てないなら、条件が必要だ」
佐伯は返す。
「条件は、あなたたちが書いた」
AO−1は頷いた。
「書いた。だが、読まれないと意味がない」




