表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い通訳者たち  作者: 久遠レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/35

第一章 隔離区画の生活


 研究施設は“研究”の顔をしているが、扉の向こうにあるのはいつも軍だった。


 カードキーは二枚必要で、二枚目は制服の人間が持っている。

 佐伯汐里は、その二枚目の存在を嫌っていた。

 嫌っても、消えない。消えないものほど、倫理の仕事になる。


 隔離区画の室内は清潔だった。清潔すぎて、匂いがない。壁は白、床は白、天井の光も白。色のない場所は、被験体にとって刑罰に近い。


 透明ガラスの向こうに、《アオ》がいた。


 ベッドに座り、両手を膝に置いている。姿勢はまるで、面接を受ける人間みたいだった。


「体調は」


 佐伯がマイクに向かって言う。


《アオ》は顔を上げる。


「良好。ここは、あなたの“国”の内部か」


「そういう扱いです」


「扱い。いい言葉だ。あなたは扱いの人だな」


 佐伯は答えない。答えると、会話が親密になる。親密さは、拘束の痛みを曖昧にする。曖昧さは国家に利用される。


「あなたは情報提供者だと言った」


「そう。あなたがたは、遅い。遅いというより、散っている。知識が散っている。意志も散っている」


「それは悪いこと?」


「悪いことではない。ただ、カルダシェフ・スケールに到達するには、散りすぎは不利だ」


 その言葉が出た瞬間、背後にいた制服の男が小さく息を吸った。

 国家は、宇宙規模の指標に弱い。数字の威圧に弱い。到達、という動詞に弱い。


 佐伯は言った。

「あなたの目的は」


「取引だ。あなたがたは“シンギュラリティ”を欲しがっている。加速を欲しがっている。だが知性の天井が低い。天井の高さは、道具で伸ばせるが、核は伸びない」


「核?」


《アオ》は少し考えた。


「理解の折り畳み。複数の矛盾を、同時に保持して計算を続ける能力。あなたがたの言葉で言うなら……IQが必要だ」


 制服の男が言葉を挟む。

「数値は」


《アオ》はガラス越しに男を見る。


「あなたがたの尺度で測るなら、一〇〇〇を超える。だが尺度は脆い。脆い尺度に頼るのは危険だ」


 制服の男は笑わなかった。笑うと負けた気がする種類の話だった。


 佐伯は、別の質問を置いた。


「あなたは、その知性を提供できる」


「提供する。ただし条件がある」


「条件」


「生存。そして、複製」


 佐伯は、言葉の重さを一度床に置いてから持ち上げた。

「……クローンを作れと」


「あなたがたはすでに、作る準備をしている。私が言わなくても」


 背後で紙が擦れる音がした。

 制服の男が持っているファイルは、すでに未来を見ていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ