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プロローグ 回収
墜落現場は砂漠ではなく、雪だった。
夜明け前の山腹。樹木が折れ、凍った土が削れ、焼けた匂いだけが季節に逆らっていた。
「熱源、まだ生きてる」
自衛隊の先遣が赤外カメラで言った。
白い息の向こうに、黒い楕円が横たわっていた。機体というより、閉じた貝殻みたいだった。金属のつなぎ目が見えない。塗装もない。なのに、焼けてもいない。
「ここから先は、記録禁止」
制服組の大佐が、全員のカメラを止めさせた。現場は急に“国家”の顔をした。貝殻の裂け目から、ひとつの影が引きずり出される。骨格は人間に近い。四肢の数も同じ。だが皮膚は灰色ではなく、青い。深海の青でも、夜の青でもない。白熱灯の下でだけ、かすかに発光するような青だった。
影は息をしていた。
そして、言葉を発した。
「……提供する。交換する。生存と、情報」
通訳がいないのに、日本語だった。
その瞬間、現場にいた全員が、自分の世界が一段階更新されたのを感じた。怖さは遅れて来る。まず驚きが来る。次に、国家が来る。大佐が言った。
「回収。コードネームは《アオ》」
影はそれを聞き取ったように、まばたきした。
そして短く言った。
「了解」




