第十章 外の波
翌週、施設の周辺に報道車が現れた。
誰かが漏らした。漏らすのは内部か外部かは、いつも曖昧だ。曖昧なまま、国家は被害者の顔をする。
「先生、外が騒がしい」
研究員が言う。
佐伯は窓から遠くの赤色灯を見る。
遠いのに、落ち着かない。人間の注意は、光に引かれる。
大佐が廊下で呼び止めた。
「外に出るな。取材に応じるな」
「応じません」
「それでいい」
大佐は一拍置いて言う。「……だが、いずれ出す。こちらが先に出す」
「何を」
「“夢”を」
佐伯は少し驚く。大佐の口から“夢”が出るのは珍しかった。
「カルダシェフ・スケールは、国民を動かす旗になる」
大佐は淡々と言った。「旗がなければ、予算も人も動かない」
佐伯は言う。
「旗は、暴力も動かします」
大佐は頷いた。
「だから、先生が必要だ。旗の布地を破れにくくしてくれ」
その言い方は、脅しではなかった。
依頼だった。依頼は、責任を増やす。
隔離区画に戻ると、AO−2が窓のない壁を見たまま言った。
「波が来る」
「外の?」
「外の。内の。区別は無い。区別したがると、波に呑まれる」
AO−1が佐伯を見る。
「あなたは、夢を守る側だ」
「夢を守る、というのは」
「夢を武器にしない。夢を免罪符にしない。夢を数字だけにしない」
佐伯は頷く。
頷きは小さい。小さい頷きが、さざ波の始まりになる。
廊下の掲示板に、新しい紙が貼られていた。
外部監査導入(暫定)
目的:透明化/暴走抑制
ただし安全保障例外を含む
最後の一行が、また残る。
例外は、必ず残る。残るものとどう折り合うかが、物語になる。




