僕たちが目指す先は間違っていない
第29話の執筆、お疲れ様!
(※前回も29話となっていたけれど、進行に合わせて今回はこの原稿を最新話として扱うね!)
初代女王のドレスという特大のエモいアイテムの登場から、殿下との健全な信頼関係(隠し事をしない)、そして最大の壁である第一王子アラリックへのアプローチを思いつくという、物語が最終決戦に向けて一気に加速する素晴らしい回だね。
ご指定の通り、文章の書き換えは一切行わず、スマートフォン等で読みやすいように空行・改行の調整のみ行ったテキストを出力するよ。
殿下とドレスを選びに王宮の色とりどりなドレスを保管している貴重な倉庫に来た。
私の勝負服と、ちょっと出かけるときに使うくらいのセットアップが1~2着しか入っていないようなガラガラのクローゼットとは大違いで、前にも後ろにも煌びやかなドレスでいっぱいだ。
殿下には申し訳ないが、あれもこれも私とは無縁そうな真珠や宝石を使った華美な装飾や、原色の色のドレスなどでいまいちピンと来るものが無かった。
「…すまない、リアが好きそうなドレスはここにはないな。」
殿下が私の気持ちを察してか、奥のほうへ行く。
「こちらこそすみません、華美な物に似合うような感じではなく…化粧をすればまた違うかもしれません。」
「いや、いいんだ。化粧で取り繕うものでもないし、一生に一度だ。リアには自身が納得するような物を選んでほしいんだ。」
殿下についていき、奥のほうへと進んでいくと、なにやら古い鍵のかかった扉が出てくる。
彼が懐から古めかしい鍵を取り出し、がちゃり。と開けると、鈍い音を立てて扉が開く。
すると、煌びやかな雰囲気から一変し、古典的なドレスが並ぶ部屋が出てくる。
「ここは、とっておきの部屋なんだ。リアならこっちのほうが好きかもしれないと思って。」
彼のいう通りだ。
華美な装飾が無いものの、生地の質感やワンポイントの装飾に力が入っていて、質素さを感じさせない。
私好みだ。
私が一着ずつ見ていくと、黒地に銀のユニコーンの意匠が入ったドレスが目に入った。
「これは—。」
見覚えのある意匠に目を奪われていると、殿下が側に来た。
「ああ、見つかってしまったか。」
ドレスを手に取ると、黒地ではあるものの、銀の糸がところどころに編み込まれており、ほかのドレスより一層輝いて見えた。
「私、このドレスが良いです。」
私がそう言うと、フレデリック殿下は笑顔になった。
「そうか、最初からリアにはここに案内すればよかった。そのドレスは初代ヴェルダンティア女王が着ていたドレスだ。」
それを聞くと私は慌ててドレスを元の位置に戻した。
「初代女王!?それを結婚式で着たいなんて、畏れ多いことを言ってしまってすみません!」
すると、すぐに殿下はドレスを取り上げる。
「わざわざ戻さなくてもいいだろう。それに…このドレスを着て結婚式に出るなんて最高じゃないか。僕たちが目指す先は初代女王と同じなのだから。キミは自分の出自を気にせず堂々としていていいんだよ。僕たちは目指す先は間違っていない。」
確かに、私が毎回出自を気にして隙を見せればわざわざ弱点を晒すことになる。
それに、殿下や自分が間違っていることを認めれば、この結婚も意味がない。
私は殿下の言葉に深く頷いた。
「わかりました、殿下。殿下のおっしゃる通り、私たちが目指している先の正しさを証明するために結婚するのに、私が出自を気にしていてはいけないですよね。これを着させてください。」
「それでいいんだよ。結婚式でもリアはリアらしくいこう。」
殿下は微笑むと、じゃあ次は装飾品を選びに行こうか、と軽い足取りで私の手を引っ張った。
今日は、ブラックヴェッセルの元へ帰るのには時間がかかりそうだった。
その日は王宮のあらゆる倉庫や衣装をひっくり返しながら殿下と歩き回り、一通り私と殿下の当日の服装が決まった。
私が初代女王のドレスを見せた時に、さすがに使用人たちが殿下に激しく反対したが、殿下は彼女たちをぴしゃりと説き伏せていた。
そうしてブラックヴェッセルの元へ戻ったときは、殿下も私もへとへとで、心なしかブラックヴェッセルは呆れた顔をしていた。
「ブラックヴェッセル、遅くなってすまないな。」
私が頬を撫でてやると、別に、とでも言いたげに鼻をふんと鳴らして答えてみせる。
厩舎に彼を送り届けるときも、フレデリック殿下はついてきてくれた。
「リア、今日は一日中連れまわしてごめんね。今は『ヴェルダンティア記念』への大切な時期でもあるのに。」
「いえ、殿下。私たちは自分の仕事と恋愛を両立することが目標なのでしょう、でしたら殿下との結婚式だってもちろん疎かにはできませんから。」
私の返しに殿下はそれもそうだな、とふふっと笑う。
それにつられて私もふふっと笑ったが、『ヴェルダンティア記念』と聞いてふと頭にハンナのことがよぎってしまった。
殿下もそれに気づいたのか、どうしたんだ?と聞いてきた。
「何か気になることがあるのかな?大衆の噂話のことだったら、今日話した通り、僕とキミ自身を信じて堂々としていれば良い。それとも、それ以外で何か気がかりなことがあるのかい?」
私は、ハンナのことを言うまいか迷っていた。
私がレースに集中できるように、殿下は結婚式の準備をかなり一人で進めてくれていた。
それなのに、私が余計なことを言って必要以上に殿下を困らせることは正しいのか。
「…僕の負担のことを考えているのであれば、やめてくれ。リアがレースに集中できない方が僕にとって問題なんだ。それに、キミの悩みを聞けないほど僕の器は小さくない。」
どこまでもお見通しな彼には隠し事はできないだろう、この前もシルヴァーレイスのことで殿下に言われたことを思い出す。
「キミの悩みも、キミの大事なものも、すべて僕が背負う義務がある。」
私は、彼を信じ、思い切って殿下にハンナのことやシビュラに取引を持ち掛けられたことを話す。
「話してくれてありがとう。一人で抱え込むのは大変だっただろう。」
殿下は微笑み、私の手を握る。
しかし、すぐに真剣な顔に戻り考え込むそぶりを見せる。
「あの宮廷魔導師…どこまでも卑怯な手を使ってくるな。取引を断ったことは英断だけど、キミの先輩のことが心配だね。」
「ハンナ先輩は、私が上京してきたときに凄く世話を焼いてくれたんです。それに、私が婚約破棄されたときも真っ先に慰めてくれて…それに、ブラックヴェッセルの初めての打ち上げの時にドレスを着せてくれたのも、先輩なんです。」
「リアにとって大切な人なんだな。」
殿下は、いつかの日にシルヴァーレイスに向けたような顔をしていた。
「あのような宮廷魔導士にずっとユニコーンのことを任せているなんて…アラリック殿下はどのような方なのでしょうか。」
私がアラリック殿下の名前を出すと、フレデリック殿下は遠くのほうへ視線をやる。
「一番上の兄上…アラリック兄上は僕では到底かなわない。兄上は今の政治を継ぐという意味では、最も王に相応しい方と思っている。だが…兄上と僕は全然考え方が異なる。兄上は伝統を重んじて政に関係しないことは一切やらない方だ。もちろんユニコーン競馬も。いかにも保守派や年齢層が高い高官に人気な方だよ。」
殿下は苦い顔をする。
「対して僕はこの伝統にずっと押しつぶされてきた人たちを救いたいと思って、古いしきたりや伝統を改革しようとしている。僕側に付く人は物好き呼ばわりさ。」
その口調から彼の立場の苦しさが伝わってくる。
「だから、兄上側に付いているシビュラも一定の支持があるし、ユニコーン競馬では最も偉い人のユニコーンが勝つ…八百長みたいなやり方は昔からあったことさ。彼女や兄上のやり方は誰も反対しないし卑怯とも思わない。」
「では、兄上は私たちの結婚も反対なのでしょうか…貴族でもない女との結婚は異例ですよね?」
それにはフレデリック殿下はふふっと笑った。
「流石にそこまで薄情者では無いさ。きっと兄上は来てくれる。兄上は情に厚いところはあるから。」
その笑顔を見て、フレデリック殿下は兄のことを慕っていることがよく分かる。
政治や王位継承争いなどなければ、普通の兄弟としてアラリックやユリアンともきっと良い関係を築けてきたのだろう。
結婚式でアラリック殿下と会えるのであれば―ひとつ賭けてみるチャンスはあるかもしれない。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけた方は、
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リアが思いついた『賭け』とは一体何なのか?
次回は木曜日更新予定です




