禁書が語る世界の嘘
しかし、禁書区域はしっかりとしたユニコーンの装飾の錠前で鍵がかけられており、小手先では開きそうもなかった。
それに、時間が迫っている。
懐中時計の蓋を開くと、時刻はもう16時を回っていた。
ほしい物は目の前にあるのに!
私は歯がゆい思いをしながら、柵を揺らしてみた。
ガンガンガン・・・人数の少ない図書館に柵の音が思ったより響いてしまい、遠くから司書が走ってくる音がした。
私は慌てて手近な本棚の裏に隠れ、なんとかやり過ごしたが、力づくでこじ開けようとすると、かえって大きな音を立ててしまい、見つかってしまいそうだ。
司書が立ち去った後、錠前を観察してみる。
かなり特殊な形状をしており、見たこともない形の鍵穴だった。
私は髪留めを分解し、細い一本の針のようにすると、カチャカチャと鍵穴を刺激してみる。だが、私が最後にピッキングしたのは子供の頃、夜中にどうしても眠れなくて、シルヴァーレイスの厩舎をこじ開けた時くらいだった。
しかも、あのときは両親の牧場で古い錠前だったから少し針を差し込んだだけで開いたが、今回は全く手応えを感じない。
私は鍵穴に色んな角度から髪留めを差したり、前後にカチャカチャ動かしたりして、何十分も格闘してしまい、いつの間にか時間を忘れてしまっていた。
「調べ物に夢中になって、時間を忘れられても困ります。そうなったら、貴方を入れた私もただでは済まないでしょうからね。いいですか、時間はこまめに確認するのですよ。」
セドリックの言葉を思い出し、懐中時計を開こうとする。
しかし、何かが引っかかっているのか、中々蓋が上がらない。
私は焦って蓋のスイッチを何度もカチカチ押してしまったが、一向に開く気配がない。
調べ物に失敗した上に、借り物の高級そうな時計を壊したら立ち直れない。
カチカチカチッ!
三回連続で押した時だった。
時計の蓋から何かがこぼれ落ちた。
鍵だ。
どういうわけか、その鍵は目の前の錠前と同じくユニコーンの装飾が施されていた。
何が起こっているのか考えている時間は無い、17時だ!
あと1時間―!
私はすぐに鍵を拾い上げ、錠前に差し込む。
カチッ。
気持ち良い音がして錠前は開いた。
音を立てないように、柵の中へ滑り込み、素早く銀の古書を手に取り、司書の視界に入らないように禁書棚の裏に隠れる。
本の表紙を見ると、まさしくセドリックが持っていた本そのものだった。
表紙を開くと、古い本特有の埃っぽい臭いがし、くしゃみが出そうになりながら、私の探し求めているものが載っていそうなページを探す。
しかし、斜め読みをしている中でも、私の知らないようなユニコーンの生態や、黒や白以外にも様々な色のユニコーンについてなど、興味深い話ばかり載っていた。
なぜ、こんな貴重な本が禁書扱いなんだ。
私は疑問に思いながらページをめくると、ふとあるページが目に付いた。
『ヴェルダンティア王国とユニコーンの歩み』
ヴェルダンティア王国の始まりとユニコーンの歴史について書かれているようだった。
初代国王は女王であり、ユニコーンに騎乗しながら兵を率い、かつてこの地を支配していた魔物を退けた。
元々この地は妖精の森をはじめとして、幻獣たちの楽園であり、魔物たちに乗っ取られていたのだった。
女王は隣国の姫であったが、勇敢な銀のユニコーンの要請に応え、この地を取り戻しに来たのだ。
国を取り戻した女王とユニコーンは深い絆で結ばれ、この地で人間と幻獣たちとの共生を誓う。
女王もユニコーンもその後結婚し、お互い子供を授かり、その子孫たちが今のヴェルダンティア王国の王族たちと王族たちの持つ強きユニコーンの血族なのだ。
その後も女王とユニコーンは魂の絆で結ばれ、お互い良きパートナーとして愛し続けたという。
この話は、国の昔話の中でも有名な話だ。
もちろん私も知っている。
騎手の中では常識中の常識だ。
結婚して子供を授かった後、女王はユニコーンに騎乗することはできなくなってしまったが、それでも家族として過ごしたというところまで知っている。
私はそこで一つの違和感に気づいた。
待てよ、古文書には『騎乗することはできなくなってしまった』という記述はあったか?
私はもう一度古文書のページを読み返してみる。
どこにも書いていない。
私がよく知る昔話にあった一節はこの原作であろう本の中にはどこにも記述されていない。もしかして、ユニコーンと騎手の純潔は関連性はないということか?
なぜ、この事実は隠されている?
知りたいことは知り得たのに、新たな疑問が次々と湧き上がる。
セドリックはこのことを知っていたのか?
視界の端に懐中時計の針が18時を回りそうになっているのを見かけた。
まずい!
考えるのは後だ。
早く本と錠前を元に戻し、何事もなかったかのように宮廷図書館から退館しなければ!
私は本を素早く閉じ、元の場所に戻す。
錠前をよく閉めて、周囲を伺いながら、なるべく平静を装いつつ早足で図書館を去った。
出る際に、横目で司書の様子を伺ったが、特にこちらを咎める様子もなく自分の仕事に夢中だった。
私はほっと胸をなで下ろすと、宮廷図書館を後にする。
「お目当ての本は見つかりましたか?」
聞き覚えのある声がした。
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次回、日曜日更新の予定です。お楽しみに!




