開かれる真実への扉
初めてブラックヴェッセルに乗ろうとした、あの日のことを思い出したのだ。
彼は、元々中途半端な気持ちで騎手を乗せるのは嫌だった筈だ。
初めて彼に騎乗しようとしたあの日、彼は私がどれだけ競馬に本気なのかを確かめるために、試すような真似をした。
それに応えることで、初めてブラックヴェッセルに乗ることができたのだ。
だが、今はどうだ?
目の前にいるブラックヴェッセルのことに集中せず、フレデリック殿下の告白のことにばかり気を取られていた。
それは、あまりにも彼に失礼というものだろう。
私はここに、悩みにきているわけではない。
勝つために練習に来ているのだ。
私はユリアンに頭を下げた。
「ユリアン殿下、ありがとうございます。私も、貴方に言われて自分がいかに初心を忘れていたのかを思い知らされました。私はブラックヴェッセルに向き合うことを疎かにしていたのかもしれません・・・。騎手としてあるまじき行いです。彼を追いかけて、もう一度向き直ってみようと思います。」
ユリアンは、そんな私の姿を見て、微笑みを浮かべる。
初めて、彼の微笑みが美しいと思った。
改めて見ると、やはりフレデリック殿下によく似ていると思った。
「行ってくるといい。」
私は、彼に失礼します。と言い残すと、ブラックヴェッセルを追いかけてユリアンと別れた。
ブラックヴェッセルが走り去った方へ急いで走っていくと、驚いたことに、彼は長い漆黒の尻尾をゆっくり振りながら私を待ち構えていた。
何か俺にいいたいことがあるんだろう?と目が問いかけていた。
私はそんな彼に深々と頭を下げた。
「ブラックヴェッセル、すまない。私が悪かった。あのとき、私は恋愛も何もかも捨ててお前とV1制覇を目指すと言っていたのに、私はお前の主人の気持ちにうつつを抜かしてお前と向き合うことを疎かにしていた。本当にすまない。」
私は顔を上げると、もう一度深々と頭を下げた。
彼は黙って話を聞いた後、ゆっくりとかぶりを振った。
まるで、俺が言いたいことはそういうことじゃない、とでも言っているようだ。
「なぜだ?ブラックヴェッセル。もう私を許容できるような気持ちではないということか?」
私が彼にそう問いかけると、今度は強く否定するように前足を高々と上げ、私の目の前に大きく振り下ろした。
砂埃が大きく舞って、思わず私は咳き込んでしまったが、彼はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
「なんだ、一体何が言いたいのだ?」
私が問いかけると同時に、かつてこの場所でセドリックに言われたことを思い出した。
「ユニコーンには純潔の乙女しか乗ることができませんからね。しかし、なぜそう言われているのか、貴方はご存知ですか?」
「何もかも決めつけたり、常識に囚われていたら自ずと自ら将来の道を狭めることになるでしょう。」
常識に囚われるな、か。
あのときはピンときていなかったが、今こそ彼がそう言った意図をちゃんと考えるべき時なのかもしれない。
「ブラックヴェッセル、お前が何を言いたいのかまだ私には理解できない。すまないが、少し待っていてくれ。」
私は、セドリックがいる王族宿舎へと走って行った。
あの時、もう一つヒントがあった。
彼が持っていた銀で縁どられた、妙に古めかしい本。
彼は、あれを読んだから私に何か伝えに来たのではないだろうか。
ただの勘だが、調べてみる価値はありそうだ。
「セドリック調教師!」
王族宿舎は広いため、私は闇雲に彼の名前を呼びながら周辺を探し回っていた。
周辺にいた、王族専属の調教師たちからは不審な目で見られたが、今は手段を選んでいる場合ではない。
「リア騎手、そんなに大声で探し回って・・・、一体どうなさったのですか。呼ばれている私の身にもなってください。」
セドリックが息を切らせながら走ってきた。
毎度、この人には迷惑ばかりかけてきて申し訳なかったが、もう一つ無理を言わせてもらいたかった。
次のV1も迫ってきている。手段は選んでいられない。
「セドリックさん、無理を承知でお願いがあります。私を王宮の図書館へ入れてください。」
「一体藪から棒に何を仰いますか。何の用事でわざわざ宮廷図書館へ行くんです?分かっていると思いますが、あそこは一般図書を読むだけでもこの王宮に仕えていることが最低条件です。貴方は専属契約を結んでいるとはいえ、部外者です。入れるわけがないでしょう。」
ここまでは分かりきっていたことだ。
宮廷図書館のルールは私も理解していた。
私は口に手を当て、声のトーンを落として彼にあのことを告げる。
「フレデリック殿下が私にプロポーズをしたことはご存知でしょう?私も、王宮がどういうところか、資料を読んでおきたいのです。その・・・私は田舎の牧場生まれの普通の娘ですから、王宮での生活やしきたりが想像できなくて、返答を決めかねているのですよ。でも私が頼れるのはセドリックさんしかいない。ここは協力してもらえませんか?」
調べたいことに関しては嘘であったが、婚約に関わることを調べたいという点では嘘は言っていない。
セドリックのお人好しを利用するようで申し訳なかったが、殿下が絡むことでここまで頼られたら断れまい。
「・・・仕方がないですね。特別に手配できないかどうか掛け合ってみます。私とてこの王宮に仕える者の一人ですから。お任せください。」
彼はやれやれと言うと、ここでお待ちを。と言って去って行った。
心の中で彼に謝罪と礼を言いつつ、私は大人しく座って待つことにした。
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いよいよ宮廷図書館へ足を踏み入れるリア。そこで彼女が見つけるものとは?
次回、月曜日更新予定です




