卑劣な魔法と、それを弾き返す殿下の『愛』
更衣室に入ると、ヴィクトリアと一瞬視線が合う。
だが、いつものような絡みはせず、彼女は私を一瞥して出て行った。
掲示板でオッズを確認する。
一番人気ヴァングロリア、二番人気ブラックヴェッセル・・・。
以前の『若葉杯』で私がヴィクトリアに大きく差をつけられたことが響いているのだろう。あれ以来、私はヴィクトリアと勝負をしていない。
民衆にも、見せつけてやろう。
私が実力で優勝を勝ち取るところを。
無茶苦茶な条件を突きつけて、誰よりも私の勝利を信じている、あの意地悪で優しい王子の期待に応えるためにも。
晴れ。芝。2000メートル。
ブラックヴェッセルがパドックでセドリックに引かれていた。
彼の集中が待機している私のところまで伝わってくるようだった。
対してパドックを囲む観客たちは、のんきなもので、
「このレースが国の跡継ぎを決める材料になるに違いない。」
「国王陛下もユニコーンが大変お好きであるからなあ。」
「対してアラリック殿下は無関心だ。さて、どうなる?」
と、目の前のユニコーン以外のことで憶測を交わしていた。
「止まーれー!」
パドックに騎手が呼ばれる。
ブラックヴェッセルに駆け寄り、彼の背に乗って返し馬に行く。
レース会場へ飛び出すと、ブラックヴェッセルはヴァングロリアの横にピタリと並び寄り、射殺すような鋭い視線を向けた。
圧倒的な威圧感。
彼も、彼女たちを乗り越えなければいけならないと本能で理解しているのだ。
ヴィクトリアが一生懸命引き離そうと手綱を引いてコントロールするが、私たちは決して彼女たちから離れることはなかった。
ゲートは外枠、17番。
対してヴァングロリアは内枠2番。
『ヴェルダンティア杯』においては、内枠が有利だと言われているが、そんなものは関係ない。
ただ目の前に広がる芝に精神を集中させる。
バタン!
ゲートが開く。
開いたと同時にブラックヴェッセルが身体のバネを使い、高い瞬発力を発揮する。
内枠に見える、ヴァングロリアの白い尾が振り乱れ、まるで私たちを誘う猫じゃらしのように見えた。
その尾に惹かれるように、ヴァングロリアの後ろにつく。
そしてエルフの狩人のように、目の前のユニコーンを差す機会を淡々と伺う。
ブラックヴェッセル、見せてみろ。お前の力を。
私が手綱を持つ手に力を入れると、彼はその思いに応えるように、更にヴァングロリアとの差を縮めた。
4コーナー。残り300m。200m・・・。
今だッ!
私が思いっきりブラックヴェッセルに脚で蹴り、合図を送ると、彼は溜めていた脚で芝を素早く蹴り上げ、風になる。
最後の直線、外枠にいたブラックヴェッセルはヴァングロリアをあっという間に追いつき、首を並べる。
「私は!家を!血を!背負っている!あんたみたいな田舎者おばさんに負けられないのよッ!」
ヴィクトリアは、『若葉杯』の時と同じように、手をふりかざしてきた。
「もう二度とこの手は使わないと決めていたけれど…。こうなったら、もう手段は選べない!消えてちょうだい!」
彼女の掌から魔法の圧を感じる。
しまった…!そう思ったが、ブラックヴェッセルはもう止まれない。
今度こそ、死ぬ…!
そう思ったが、急に勝負服が光り出して、私は光に守られていた。
なんだろう、この光…。凄く温かい。
そして、後ろの方でヴィクトリアの甲高い悲鳴が聞こえる。
勝負服の光が魔法を弾き返し、その衝撃で無理な体勢だったヴァングロリアが大きく転倒したのだ。
私は魔法の才能は皆無であったが、微かに身体から感じる魔力で、確信した。
殿下の新しい勝負服が守ってくれたのだと!
誰が見ても、ブラックヴェッセルの圧勝だった。
ブラックヴェッセルの圧勝に、会場が大盛り上がりになっていた。
着順が決まるや否や、フレデリック殿下も私とブラックヴェッセルの元に駆け寄ってくる。
「リアならやると信じていた。ついにV1優勝だ!」
殿下はそう言うなり、私の手を握る。
「でも、ここはまだ始まりにすぎない。この調子でV1を制覇しよう。」
「殿下、勝負服に守護魔法をかけてくださったのですね。ありがとうございます。」
私が頭を下げると、殿下は何のことかな?と知らないフリをしていた。
「言っただろう、僕はキミに卑怯な真似をするやつを許せるわけがない。って。なぜなら僕は、キミを心から愛しているからだ。」
私は首をかしげた。
聞き違い、だろうか。
しかし、殿下は畳みかけるように言う。
「リア、僕と結婚してくれ。」
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
ついにV1『ヴェルダンティアカップ』決着!
再び卑劣な手段を使おうとしたヴィクトリアでしたが、殿下が密かに勝負服に込めていた「守護魔法」によって見事に自滅。ブラックヴェッセルと共に、実力で圧倒的な勝利を掴み取ることができました!
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次回、火曜日更新予定です。




