不正は許さない、V1の舞台で全てを奪い返す
「どうして、わたくしの見合いなのにあのおばさんの話が出てくるのよ!?」
見合い話が出てから数日後のことだった。
ヴィクトリアが派手なピンクのフリルが付いたドレスを振り乱しながら騒がしく宿舎に戻ってきた。
「どうしたんだ、ヴィクトリア。今日は念願のフレデリック殿下との見合いの日ではなかったのか?」
私が声をかけると、ヴィクトリアは親の敵を見るような目で私をキッと睨みつけると、掴みかからんとばかりに、私の方へずんずんと歩み寄ってきた。
「アンタ、こうなることを分かってたの!?殿下とどういう関係なのよ!?」
どういう関係かと言われると、騎手と馬主の関係性以上のものはないが、少なくとも目の前にいる取り乱した女よりかは殿下との絆に自信があった。
「シビュラ様が、わたくしに勝ち確だと言ってくださったから期待していたのに・・・実際に行けばアンタの話ばっかり!アンタの話が終わったら今度はユニコーン競馬の話ばっかりで・・・挙げ句の果てに次のV1の『ヴェルダンティアカップ』で勝ったら結婚すると言われたのよ!どうしてわたくしの人生を競馬に賭けられなければいけないのよ!」
彼女は側にあった机を掌で叩きながら怒り散らしていた。
確かに、彼女は出かける前に「騎手は引退」とか、「今日でフレデリック殿下との結婚が決まる」と散々周りに言いふらしていた気がする。
しかし、現実は異なったようで、あまりにもな取り乱しように、快く彼女を見送った取り巻き含め誰も彼女に近寄ろうとせず、なんだか惨めだった。
「『ヴェルダンティアカップ』で勝ったら結婚すると言われたなら良いじゃないか。殿下はユニコーン競馬が大層お好きなのだから、強い騎手を結婚相手にも求めているということだろう。条件としては良いじゃないか。」
私は殿下の考えがなんとなく読めた。
殿下は私に『ヴェルダンティアカップ』という最高の舞台で彼女を叩きのめす機会を作ってくれたのだ。
・・・乗ろう。彼のその強引な思惑に。
「『ヴェルダンティアカップ』には、私もブラックヴェッセルも初出場のV1だ。そんなに私が気に食わないなら、騎手らしく正々堂々その舞台で勝負しよう。」
私は彼女の元にツカツカと歩み寄ると、彼女の耳元で囁いた。
「・・・ただし、不正は無しだ。次に何か私に不正を働こうとしたら、次こそは見合いで屈辱を味わうだけでなく、騎手としての生命を終えることになるかもしれないぞ。」
彼女は、ひっ、と短く悲鳴を上げた。
よほど殿下との見合いが効いているらしい。
「・・・不正?ふざけないでちょうだい!わたくしがそんな卑怯な真似、するわけないでしょう!?誇り高きリリィ家の名にかけて、正々堂々と勝負するわよ!」
図星を突かれたのか、あるいは本当に誇りだけは高いのか。
彼女は顔を真っ赤にして叫ぶと、数多のフリルをたくし上げて逃げるように自室へと引き下がった。
そんな彼女の背中に、
「良い勝負ができることを期待している。」
とだけ言って、私も自分の部屋へと戻っていった。
きたるV1、『ヴェルダンティアカップ』が始まる。
国の名前を冠するこのレースは、ヴェルダンティア王国の建国記念日に行われることになっており、建国を祝う催しの一つとして大きな意味を持つ戦いになる。
私は、会場へ行く前にシルヴァーレイスの厩舎へと向かう。
シビュラに治療してもらった後からは、体調が戻ってきたらしく、軽く牧場を駆けるほどには回復しているようだった。
「シルヴァーレイス!」
私が声を掛けると、彼女の嬉しそうな鳴き声が聞こえた。
その鳴き声が、彼女の無事を知らせるようで、私の涙腺が少し緩む。
「シルヴァーレイス、これから私は貴方と夢に見ていたV1の舞台へと行く。本当は貴方とも行きたかったけれど・・・、それはもう叶わない。だが、ブラックヴェッセルと共に、あの二人への借りは必ず返す。だから、待っていてくれ。」
私が彼女の頬を撫でながら、決意を語ると、彼女が行ってこい、というように、鼻先で私の背中を押した。
「・・・ありがとう。行ってくる。」
シルヴァーレイスに手を振り、私は厩舎を出る。
太陽が眩しい。
会場の芝は青々としており、勝負にはうってつけの環境だ。
更衣室に向かう私の前に、フレデリック殿下が現れた。
「間に合って良かった。」
よく見ると、殿下の手の中には新しい勝負服が握られていた。
「せっかく僕の専属騎手の華々しいV1のデビュー戦なんだから、勝負服を新調したいと思ったんだ。キミの走る姿を見て、一番似合う色合いを考えた。着てみてくれ。」
殿下が差し出した勝負服を広げてみると、黒地に銀の刺繍が入った、かなり高価そうな生地の勝負服だった。
「こんな凄いものを・・・よろしいのですか?」
「ああ、キミの為に作ったんだ。これで走るキミを僕が見たいから作ったんだ。だから是非受け取ってくれ。ブラックヴェッセルの黒とシルヴァーレイスの銀を組み合わせて、キミの隠れた華やかさを演出してみた。」
銀の刺繍は美しい花の刺繍で、殿下の言う通り、一見地味な黒地によく映えていた。
「それともう一つ…。リアが僕の作戦に乗ってくれて感謝するよ。」
「無謀なことだとは思わなかったんですか?自分の未来を賭けるなんて。」
私は半ば殿下の豪胆さに呆れつつ尋ねた。
「僕の未来を賭けた・・・?違うよリア。僕は無謀な賭けはしない。キミとブラックヴェッセルが、ヴィクトリアとヴァングロリアを圧倒して勝つという『絶対の事実』にただ乗っかっただけだ。だから、キミはキミの勝利だけを信じて走ればいい。」
食えない人だと思いつつ、そんな殿下に余計惹かれるところがあった。
私は、殿下と別れ新しい勝負服を手に更衣室へと向かった。
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次回から、いよいよV1『ヴェルダンティアカップ』の火蓋が切って落とされます。
次回は土曜日更新予定です。




