●6 不審者
翌日、日曜日。
目を覚まして右側にある机の方を見る。アクリルスタンドが目に入る。ニヤついたのが自分でもわかる。
右手で枕元を探る。指に紐の感触、そのまま紐をつかんで引き寄せる。仰向けになって顔の上に右手を掲げると、紐にぶら下がった勾玉が目の前をたゆたう。
「ふふっ…おそろい」
<りかおんとおそろやな>
不意に脳内で、沼島イザナ(CV:よしつね)の声が再生される。
「だから、違うって…」
もしかしてしゃべり方さえ同じならば違和感ないのだろうか?想像してみる。
<莉花さんとおそろいですね>
悪くない。
「いやいやいや、何でそうなるの!」
大げさに首を振って気持ちを打ち消した。
この勾玉はよしつねが探し回って見つけたと言っていた。昨夜調べたところ、翡翠という天然の石でできているようで、ものによって数万から数百万円と価格差はあるが、いずれも中学生が簡単に買えるようなものではない。ただ、よしつねにとって価格は気にするものではないだろう。儲けるすべがあるから。
問題は模様がまったくと言っていいほど似通っていることだ。沼島イザナの持つ勾玉には不規則な細かいムラがある。アクリルスタンドでは小さいので、細かい点はゲーム内や公式サイトの複数の画像で確認した。天然の石の模様がこれほどまでに一致するだろうか?と疑問が浮かぶ。
「聞いて、みよう…かな」
起き上がって反射的に、充電していたスマートフォンを手に取るが、連絡先は聞いていない。昨日聞いておけば良かったのだがそこまで気が回らなかった、というよりは聞くのが恥ずかしいと言った方が適当か。
画面を点けると時刻は10時を過ぎたところ。通知あり。確認すると30分ほど前、まいちからのメッセージが来ている。
『ちゃんと起きたか寝太郎』
姫から転落させられた。確かに寝るのは好きだが。わたしも三年寝太郎のように、将来は人の役に立てるだろうか。
『起きてるよむにゃむにゃ』おざなりに返事する。
今日はまいちとのランチ。待ち合わせが11時30分なのでまだだいぶ時間がある。せっかちなまいち。顔を洗って着替えるだけだから10分もあれば出かけられるのに。勉強しようか、それとも少し遠回りになるが、よしつねのところに寄ってみるか。思いも寄らずに登場した選択肢に驚く。が、すぐに迷いは消えた。
急いで支度をする。勾玉はトートバッグの中に入れた。夜勤に備え眠っている母を起こさないように、少しの後ろめたさとともに静かに外へ出た。
アーケード街の入り口まで来た。御代史堂に向かう。昨夜のような光は見つけられない。まだ昼間なので灯りは点けていないのだろうか?日曜日は休みの可能性もある。
この辺りだろうというところまで来てみたが、店は見つからない。ここかなと思う建物はあるが、看板は見当たらず、シャッターが閉まっている。もしかしたらあの店はなかったのだろうか?全部夢?確かによく寝るし、変な夢も見るし。でも勾玉はあるから。
トートバッグに手を突っ込んで確かめる。財布、タオル、ペットボトル、ポーチ、グミ、折りたたみ傘。どこだ?焦る。ふと紐が指にかかる。
「あった…」
そのまま紐を持って勾玉をトートバッグから取り出して見る。鼓動が速くなっているのに気付く。
見つかって良かった気持ちと、本気でそう思ったのが自分でもおかしく思えて、口元が歪に緩んで息が漏れる。
落ち着いてから、再度辺りを行ったり来たり、目を凝らしてくまなく捜索。怪しさ満点。行動だけなら不審者だけど、子どもだから許される、はず。
「あの、どうかされました?」
思いがけず声をかけられた。灰色のタンクトップに紺のデニムパンツをまとう女性、2、30代くらいだろうか。長い黒髪を首の後ろで束ねている。身長は170以上か、細身だが小麦色の健康的な肌に覆われた、筋肉質でしっかりした体躯が見て取れる。野生のリカオンにも勝てそう。
「えっと、この辺りに雑貨屋さん?みたいなのがあったと思うんですが…」あんな店を探してるなんて奇妙な子と思われてしまうだろうけど。
「今日は休み、臨時休業」ずいぶんとあっさり答えてくれる女性。なぜ?という気持ちは秘めたまま。
「そうなんですか、ありがとうございます…はぁ」
それでもはみ出た疲労感と、店自体はあるのだという安心感。
「何か探しもんでも?」
「いえ、ここの店長さんにちょっと…」
「へ、知り合い?」
「知り合い…っていうか、まあ、知り合いですか…ね?」
「そう…あいつ、昨日ここでぶっ倒れよって、救急車呼んでしん…」
「え?し…えっ?」
速まる鼓動。
「あー死んでへんて。深夜に病院に運ばれてん。ま、今日の夕方には戻る思うわ」
「そうですか」
「何か用なら連絡しとこうか?」ということは、連絡先を知っているのか。どういう関係なのだろうか。商店街のグループみたいなことなら良いのだが。そうじゃなかったら何がだめなのか。
「ついでに寄っただけなんで、大丈夫です。失礼します」
「ふっ…かわええな…」
もう、きゃっきゃがくる。




