↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/42

●6 不審者

 翌日、日曜日。


 目を覚まして右側にある机の方を見る。アクリルスタンドが目に入る。ニヤついたのが自分でもわかる。


 右手で枕元を探る。指に紐の感触、そのまま紐をつかんで引き寄せる。仰向けになって顔の上に右手を掲げると、紐にぶら下がった勾玉が目の前をたゆたう。


「ふふっ…おそろい」


<りかおんとおそろやな>


 不意に脳内で、沼島イザナ(CV:よしつね)の声が再生される。


「だから、違うって…」


 もしかしてしゃべり方さえ同じならば違和感ないのだろうか?想像してみる。


<莉花さんとおそろいですね>


 悪くない。


「いやいやいや、何でそうなるの!」


 大げさに首を振って気持ちを打ち消した。


 この勾玉はよしつねが探し回って見つけたと言っていた。昨夜調べたところ、翡翠という天然の石でできているようで、ものによって数万から数百万円と価格差はあるが、いずれも中学生が簡単に買えるようなものではない。ただ、よしつねにとって価格は気にするものではないだろう。儲けるすべがあるから。


 問題は模様がまったくと言っていいほど似通っていることだ。沼島イザナの持つ勾玉には不規則な細かいムラがある。アクリルスタンドでは小さいので、細かい点はゲーム内や公式サイトの複数の画像で確認した。天然の石の模様がこれほどまでに一致するだろうか?と疑問が浮かぶ。


「聞いて、みよう…かな」


 起き上がって反射的に、充電していたスマートフォンを手に取るが、連絡先は聞いていない。昨日聞いておけば良かったのだがそこまで気が回らなかった、というよりは聞くのが恥ずかしいと言った方が適当か。


 画面を点けると時刻は10時を過ぎたところ。通知あり。確認すると30分ほど前、まいちからのメッセージが来ている。


 『ちゃんと起きたか寝太郎』


 姫から転落させられた。確かに寝るのは好きだが。わたしも三年寝太郎のように、将来は人の役に立てるだろうか。


 『起きてるよむにゃむにゃ』おざなりに返事する。


 今日はまいちとのランチ。待ち合わせが11時30分なのでまだだいぶ時間がある。せっかちなまいち。顔を洗って着替えるだけだから10分もあれば出かけられるのに。勉強しようか、それとも少し遠回りになるが、よしつねのところに寄ってみるか。思いも寄らずに登場した選択肢に驚く。が、すぐに迷いは消えた。


 急いで支度をする。勾玉はトートバッグの中に入れた。夜勤に備え眠っている母を起こさないように、少しの後ろめたさとともに静かに外へ出た。




 アーケード街の入り口まで来た。御代史堂に向かう。昨夜のような光は見つけられない。まだ昼間なので灯りは点けていないのだろうか?日曜日は休みの可能性もある。


 この辺りだろうというところまで来てみたが、店は見つからない。ここかなと思う建物はあるが、看板は見当たらず、シャッターが閉まっている。もしかしたらあの店はなかったのだろうか?全部夢?確かによく寝るし、変な夢も見るし。でも勾玉はあるから。


 トートバッグに手を突っ込んで確かめる。財布、タオル、ペットボトル、ポーチ、グミ、折りたたみ傘。どこだ?焦る。ふと紐が指にかかる。


「あった…」


 そのまま紐を持って勾玉をトートバッグから取り出して見る。鼓動が速くなっているのに気付く。


 見つかって良かった気持ちと、本気でそう思ったのが自分でもおかしく思えて、口元が歪に緩んで息が漏れる。


 落ち着いてから、再度辺りを行ったり来たり、目を凝らしてくまなく捜索。怪しさ満点。行動だけなら不審者だけど、子どもだから許される、はず。


「あの、どうかされました?」


 思いがけず声をかけられた。灰色のタンクトップに紺のデニムパンツをまとう女性、2、30代くらいだろうか。長い黒髪を首の後ろで束ねている。身長は170以上か、細身だが小麦色の健康的な肌に覆われた、筋肉質でしっかりした体躯が見て取れる。野生のリカオンにも勝てそう。


「えっと、この辺りに雑貨屋さん?みたいなのがあったと思うんですが…」あんな店を探してるなんて奇妙な子と思われてしまうだろうけど。


「今日は休み、臨時休業」ずいぶんとあっさり答えてくれる女性。なぜ?という気持ちは秘めたまま。


「そうなんですか、ありがとうございます…はぁ」


 それでもはみ出た疲労感と、店自体はあるのだという安心感。


「何か探しもんでも?」


「いえ、ここの店長さんにちょっと…」


「へ、知り合い?」


「知り合い…っていうか、まあ、知り合いですか…ね?」


「そう…あいつ、昨日ここでぶっ倒れよって、救急車呼んでしん…」


「え?し…えっ?」


 速まる鼓動。


「あー死んでへんて。深夜に病院に運ばれてん。ま、今日の夕方には戻る思うわ」


「そうですか」


「何か用なら連絡しとこうか?」ということは、連絡先を知っているのか。どういう関係なのだろうか。商店街のグループみたいなことなら良いのだが。そうじゃなかったら何がだめなのか。


「ついでに寄っただけなんで、大丈夫です。失礼します」


「ふっ…かわええな…」


 もう、きゃっきゃがくる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。