●4 予言書
昨日、人生を繰り返しているという怪しい男から受け取った紙切れ、書いてあったのは競走馬11頭の名前。おそらく競馬の予想だろう。言っていることが本当なら予想は的中するはず。本当にそうなったらあの男は未来を…。
無駄な考えを巡らすうちに、第1レースの発走時刻とやらが迫る。スマートフォンの画面、ライブ中継されている馬の様子を凝視する。馬たちがトラックの後ろに接続された檻のようなところに入っていく。そして檻の扉がガチャン!と音を立てて開き、馬たちが一斉に走り出す。
「グレートヴァイタル、どこ?3番目?7番がさき行っちゃったよ!2番目になった?追いつける?頑張れ!追い越した!やった!勝った!」
気がつけば、なぜか声を出して応援していた。これまで競馬などまともに見たことはなかったし、さっき名前を知ったばかりの馬で、当然賭けてもいないのだけれど、何だか楽しい。あの男の予想が当たったということでもあるが、2番人気だし驚くことでもない。
次の第2レース、予想のトキセは、6番人気。今度は9頭で6番ということは、あまり人気がないということか、これが当たればなかなかのものである。
『1着 8枠9番トキセ』
「まあ、競馬好き?なんでしょうから当たってもおかしくないよね?」
次、第3、第4レースは1番人気の馬を予想。
「守りに入ってるね?」
順当な結果が続く。第5レースは3番人気でこれも的中。時刻は18時に迫る。
突如、スマートフォンが震え、画面上部に通知が出る。母からのメッセージ。
『早くも夜ごはんの時間です』
『今度はごはん』
『ごはんととんかつととん汁です』
『とんととん』
献立が馬肉でなくて良かったと思う。そもそも家で馬肉を食べたことはないが。
結果が気になってしまうので、スマートフォンは机の上の充電スタンドにセットして、夕食を摂りに行く。
夕食でのだんらん。学校でもうまくやっている、友達だっている、母に心配はかけたくない。ストレートに言えないけれど、それをわかってもらうための時間。今日はテスト前だからと早めに切り上げた。
そう、母のためにも、自分のためにも、勉強を頑張らないといけない。
部屋に戻り、机に向かって勉強。これが今のわたしにできること。勉強ができなくなったら、母に申し訳ないし、まいちには心配されるだろうし、将来の夢も叶わないかもしれない。けれど身が入らない。理由はわかっている。根源を絶たなければなるまい。
時刻は19時30分を過ぎていた。スマートフォンを充電スタンドから外し、ベッドに寝転がり、トサ競馬公式サイトを確認する。第8レースまで終わっていた。
「ったく、どうしたらいいの?」
第6レースは4番人気、第7レースは3番人気、第8レースは1番人気、いずれも予想は的中していた。
「えっと、これってかなりだよね?」
次の第9レース、予想はリンクテキスト、ライブ中継サイトを見る。
『7枠8番リンクテキストは10番人気』
「10頭で一番人気ないよ?これ勝ったらすごいよね?」
ベッドから起き上がり、机に向かって両手でスマートフォンを掴む。リアル手に汗握る。
ゲートが開く音、心地が良い。
『スタートしました!』
馬たちが先頭集団から順に画面に映される。8番は?真ん中よりうしろの方にいる。先頭3頭から少し遅れて5番目につける。1番目の馬の速度が上がる。2番目以下を『6バシン』くらいリードしているとのこと。
「離されちゃってる?頑張ってよ!」
画面奥側のカーブを曲がっている。重なっていてわかりづらいがリンクテキストがどこにいるかは把握できた。カーブを曲がり切ったところでリンクテキストが上がってきている。3、いや2番目だ。ゴール前の直線でアウトコースから追いかける。
「いっけぇー!」
追いついた。ゴール直前でついに追い抜いた。
「やったあ!勝ったよ!すごい…」
『単勝は1万…、3連単は148万…』金額の意味はよくわかっていないが、当たったらもらえるお金ということだろう。他のレースでは何千円とか多くても7万円くらいだったから、このレースでもらえる金額は相当大きいのだろうと予測した。
「儲けるすべってこういうこと?」
あの男のことを思い出した。第9レースまですべて的中させた。結果を知っていたか、そうでなければ八百長がはびこる競馬界を牛耳る黒幕か。どうしてもあの男に確認したい。もらった紙切れを確認する。指先でなぞったり、灯りに透かしてみたり。やはり馬の名前しか書いていない。連絡先くらい書いておいたらいいのに。
あとで思い返してみたら、異常な行動と思うかもしれない。他人から見れば『あの大人しい子があんなことを』などと、揶揄されてもおかしくない。
けれど、真相を確認せずにはいられないという好奇心と、あの男は悪い人間ではないという根拠のない確信、それに駆り立てられた決心が、身体を扉へ前進させる。わたしだって危ない橋を渡ってみたい。いや違う、不思議と危ないとは思わなかった。
スマートフォンを持って部屋を出る。20時30分ころには着くだろう。
階段を降りる途中で、一日中部屋着でいたことに気付いて急いで部屋に戻って着替えた。
「もう暗いけど汗はかくよね」
洗濯物が増えて申し訳ないと思いつつ、勾玉と予言書をトートバッグに入れて「本を買いに行く」と嘘をついて家を出た。隠し事はしたくないのに。




