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●27 作戦会議

 スマートフォンで夏休みの予定を確認する。ほぼ空いている。よしつねには、壁に掛けてあったカレンダーを手元に持って来てもらった。商店街で配られた、下部にどこかの店の名前が入った、それ以外は実用性しかないカレンダー。


「では諸君、作成会議を始める」と背筋を伸ばして切り出すわたし。


「何や急に?どないしたん?」


「ほら、君。慎みたまえ、雰囲気だよ」


「…さ、いえっさー」


「まず、当面の問題はだな、3日後に迫った三者面談だ」


「質問よろしいでしょうですか?りかおん司令」と、よしつねがカレンダーに何やら記載してから手を挙げる。


「うむ、許可しよう。よしつね二等兵」


「えー三者面談とは何でありますですか?」


「これはだな…おほん、中学校で担任と保護者とわたしの三者でな、わたしの成績や生活や今後の目標について話し合う場だ」


「では、わたくしは何をすればいいのでありますですか?」


「それはだね、君…今すぐその話し方をやめたまえ」


「い?」


「もう、だからさ、普通にしゃべって」


「何や、もう飽きたんか?」


「うん、っていうかさ、語尾変だよ?何?ありますですかって?」


「そんな言うた?」


「言った。ちゃんとやってくれないと」


「じゃあも一回?」


「ううん、もういい」


「難儀なやっちゃな。んで、何すんねん?」


「うーん。まずは成績についてだね。どう答えるか」伸びをしてからソファに沈む。


「りかおんなら問題あらへんのやろ?」


「まあそうなんだけどさ、他に比べて数学がね」


「んなもんパソコンでどうとでもなる時代やしって言うたれや」


「そんなこと言ったら普通に生活する上で勉強なんてだいたいそうなんだけど、思考力というかさ、必要なんだよね」


「ほなら、夏休み中にこれまで基礎を復習して理解を深めて、その上で応用力を付けるような問題に取り組み、頑張ります、とか言うといたらええやん」


「やってもないのにそれらしく聞こえるね。っていうかその通りな気がする」


「どれだけ中学卒業した思てんねん」


「ふっ、そうだね。では次、生活。主に学校生活ね」


「問題あらへんやろ?真面目やし」


「あ、いや、さっきも言ったけどさ、まいちしか友達いないから。学校でもほとんど一緒だし」


「十分やろ?」


「そうなんだけど、何か言われるかなって。学校ではわたし、その…暗いし、授業中もぼーっとしたり寝たりするし」


「よくそんなんでええ成績とれるな」


「うーん、簡単なところの授業とかさ、眠くなっちゃう」


「せやったら、これを機に先生方も眠くならない工夫を考えてみてはどうでしょうか、って言うたら?」


「それは却下。相当やばいと思われるね」


「けどあんま寝てるとな、家の仕事で忙しいとか思われてまうで」


「まずいね。ママが悪いみたいだね」


「困るやろ?まあ、あれやな、夜遅くまで勉強してしまって睡眠時間が減っているかもしれないので気を付けます、ってとこやな。けど実際のところどうなん?寝てん?」


「うう…ゲームとか漫画とかで」


「ええんや、一度しかない人生やから好きなことやり、な?」と憎らしい笑顔のよしつね。


「よしつねが言うと説得力皆無だね?」


「まあな。あと友達いない問題やな?」


「いるよ。まいちが」ムスッとしてみせる。


「友達一人しかいない問題」腕組みをして真剣な眼差しを作るよしつね。


「それの方が否定できない分、逆にグサッとくるんですけど」


「すまん。けど、困ってへんのやろ?」


「困ってないけど、気にはなるかな」


「けど、自然にしてて、友達ができたらできた、できなかったらできなかった、それでええんちゃう?それに、井内さんのこと大事にしとるんやから、その気持ちがあれば十分やと思うで。それを先生に伝えたれや」


「うん、何か言われたらそうする、自然がいいよね。次、今後の目標」


「頑張って成績上げますみたいな?」


「それもそうなんだけどさ、進路とかね。高校受験とか」


「行きたい高校とかあるん?」


「具体的にはまだだけど、将来は大学に行きたいからさ、それを見据えてどうするかって感じかな」


「ほなら、大学進学しますー、なのでこの高校あたりで考えてますー、って言うといたらええんちゃう?」


「そうだね。投げやりっぽいけど、実際こんなとこだね。具体的な高校はこれから考えるよ」


「こんなとこか?」


「だね。ありがと」


「役に立つんか?」


「わかんないけどさ、別に大丈夫な気がしてきた。それに、楽しかったからさ、役に立たなくてもいいよ」


「せやな。んで、他は?」


「登校日があるけど、行けばいいだけだから、あとはさー」


「何や?」


「トーキョー行きたい」


「は?」


「トーキョー、ご存知ですよね?」


「ごぞ…はあ?」


「行くでしょ?またトーキョー」


「行くけど?」


「ついてく」


「いやいやいや、え?…何で!?」本気で驚いている。


「いいでしょ?」


「だめやろ?こっちが良くてもそっちがだめや。いやこっちもだめや」


「何で?」


「その、お母さんに何て言うんや?」


「一人でトーキョーに旅行する」


「あ…ほうか。けど簡単に許可せえへんやろ?」


「じゃあいいって言われたらいい?」


「うん、まあ、一人よりはわしがおった方がええからな。けど捕まる可能性あるわな」


「遠縁ってことで、さ?」


「嘘がバレたら余計あかんて」


「何とかなるよ、もしものときは警察からママに電話してもらうから、だからさ、ママがいいって言ったらね、考えて」


「何で学校では暗くて友達いない子がこんなこと言うねん?」


「もう!冗談でも普通に傷付くよ」


 本当はそんなには気にしていないけれど。


「ごめん」テーブルに手をついて、平謝りのよしつね。追い込みどころ。


「許して欲しかったら、さ?」身を乗り出す。


「でもなー」腕組んで天井を見上げるよしつね。


「一度しかない人生だから好きなことをやった方がいいんでしょ?」


「危ないやん。人生大事にせえよ」


「だからさ、一緒に行くんだよ」


「う、うーん…」


「ね?」


「けど、盆踊り行くやろ?」


「うん、まいちと一緒に」


「向こう行くん、その頃やねん」


「えー何でよ?」


「お盆やし。それにぎょうさん人おって苦手やねん」


「来たらいいのに。わたしの踊るところ見てよ」


「踊るんか?でも下手そうやし」


「下手じゃないよ」


「踊ってみ」軽く言ってくれるよしつね。


「え、今?」


「うん」


「嫌」


「ほな行かん」


「やったら来る?」


「え?うーん…」


「それじゃ踊り損だよ、前代未聞だよ?来てよ、お願い」


「わかったわ。行ったる。ちゃんと踊らなやで?」


「うん、準備するから待って」


 洗面所に移動し、鏡の前で腕を上げるポーズ。わたしならできる。


 リビングに戻ると、テーブルがキッチンの方に移動され、踊るスペースができている。


「おう、いけるか?」ニヤニヤよしつね、憎らしい。


「上手い下手じゃないからね?踊ったら、だからね?」


「わかっちゅう」とソファに座り、膝に手、こっちを見てくるよしつね。


 心を落ち着かせる。ただ踊ればいいんだ。勝ち確。緊張しなくていい、はず。でもせっかくだから惹きつけたいし感心させたい。


 腕を上前方へ上げ、手を柔らかく動かしながら、軸足のかかとでリズムをとる、足を右右左左と少しづつ前へ、足と同じ腕を少し前へ。


「あやっとさー…よいさー…あやっとさー…よいさー…あやっとさーやっとさー…」


 腕と足が合わないけど、リズムは悪くないと思う。どうだろうか。


 よしつねを見る。うつろな目をしている。


「あのさー!もういい?」


「…え、あ、すまん。合格や」


「はい、もう終わり。来るんだよ、決まり、ね?」踊りをやめて詰め寄る。


「…ああ、行くわ」


「はあ、良かった。っていうかさ、何?合格や、って。踊ればいいんだから、合格とかないよ?下手だったらとか、そもそも関係ないんだからね?」


 安心してソファに座ったものの、引っかかる疑問をぶつける。


「…あ、うん」ぼーっとしているよしつね。


「何?どうしたの?」


「言わなあかん?」


「あかん、基本あかん」


「う…かわええなって」うつむいて、はにかんでいるよしつね。


「…」


「……」


「…どこが?」


「手と足が合ってないとこ?」


「もう!ちょっと失敗したって思ってたのに!」


「でも、良かったで。予想外にちゃんとしとった」


「ふ〜ん、まあ甘く見ないことだね。本番はもっとうまくやるからね?なぎささんのところで、まいちと練習してるんだ」


「へえ、なぎさが?」


「うん、この前教えてくれたんだ。また行くよ」


「それでか。昔、いつかの前世でな、一回だけやけどなぎさの踊り見たことあってな。ちょっと思い出したわ」


「どうだった?なぎささんの踊り」


「うーん…綺麗っちゅうか格好ええっちゅうか、素敵…やったな。うん、踊ってる最中はしゃべらんからな」


「褒めてるのかけなしてるのかわからないけどね。でもハードル上がるなあ」


「りかおんはりかおんらしく、楽しめばええんや」


「うん。で、盆踊りは決定であとはトーキョーだね?」


「ほしたら来月はトーキョー行かんで?」


「えー!ママが良いっていったら、ね?どうせ暇でしょ?お願いっ!」


「まだ諦めてへんのんか?」


「リカオンは獲物を追い続けるハンターだからね?」わたしは爪を立てて飛びかかる真似をしておどけてみせる。


「もう、わしの負けや、好きにせい」立ち上がって、テーブルを元の位置に戻すよしつね。


 ソファに置いてあるカレンダーを見つけたので、


「はい、ちゃんと書いてね?」とテーブル、よしつねの前に置くわたし。


「わかったて。何日?」


「12から15だよ?」


「せやから、りかおんはいつ踊るん?」疑問が解消されない風なよしつね。


「せやから12から15」


「12から15?」


「うん、せやから」


「全部?」


「せやから」


「ほんまに?…いけるんかな?」


「たぶんね。10分を何回かって感じだし。休んでもいいって」


「わしの話や」


「見るだけなら大丈夫でしょ?」


「けど人いっぱいおるし」


「倒れないでね?ほら、書いて」


「うう」カレンダーに矢印と「ぼん」と書くよしつね。


「本当に、ちゃんと来てよね?」


「約束する」


 そう言ってくれたが、不安はある。見に来るのは一回だけでもいいからさ、また倒れたり、いなくなったりしないで欲しい。それが一番のお願い。



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