●26 トゥルー・エンディング
夏休みが始まった。目覚めると雨。
週明けには三者面談、8月には登校日、そのあとには街を挙げての盆踊り、他に予定はない。まいちは家族旅行やら宿題やらで忙しくするようなので、一緒に遊べるのは主に盆踊りまでの期間。よしつねは…おそらく暇だろう。
昼食後、雨が止んでいる。気付くと御代史堂の前にいた。どうやって、何て言って入ろうか。どうしたら喜んでくれるだろうか。考えながら様子を探る。店は営業中、扉は開いている。入って右、三和土のあたりで椅子に座っているよしつね。こちらを見ている。
「おう、いらっしゃい」
「せっかく驚かそうと思って来たのに」
「残念やったな」
「いただけ良しとするよ」
「上がるか?」
「うん」
「ほな、早いけど店仕舞いするから待ってな。ドクペは…」
「自分でやるよ」
ドクペと氷とグラス二人分を用意する。場所はもうわかっている。リビングのソファで待つ。
じきに戻って来てソファに吸い込まれるよしつね。
「用意してくれたんやな、ありがとうな」
「ほら、乾杯しよ?」
「ええけど、何で?」
「一学期が無事に終わったから。あとはまあ、ね」
「何やわからんけどまあええか。ほな」
「かんぱーい」/「カンパーイ」
「やっぱり美味しいね」
「せやな。けど今日はどないしたん?」
「用がないと来ちゃだめ?」
「ん別に」
「だよね。だから今日はよしつねに提案があって来たんだ」
「…うん?」
わたしなりに考えて、気持ちを伝える。
「あのね、この前言ったけどさ、よしつねには素敵な人生を送って欲しいんだ。その…お母さんのことがあるからさ、繰り返すのはつらいと思うんだ。それなのに、わたし、人生を大事にしないなんていけないって簡単に言っちゃって、ごめん。でも、わたしもお父さんいなくなっちゃったし、ううん、ママはいるし、それに人の気持ちなんてそれぞれだからさ、同じとは言えないけど。その…想像したらすごくつらいことだって思えるから。
でもさ、一番の、お金がとかじゃなくて、楽しいっていうか、幸せっていうか、そういう人生を送ってさ、最高のエンディングを迎えたら、物語のトゥルーエンドを迎えたら、もしかしたらループが終わるんじゃないかって。わたしの勝手な解釈だけどさ。
終わらなくても、また次の人生が楽しく思えるような、そんな人生を送って欲しいって、やっぱりそう思うんだ」
だめ、こらえて行き場を失った涙が言葉を、心を滲ませる。伝わらない。
「…うん」
「でも、一人だとさ、いろいろ考えたりして難しいと思うからさ、その…わたしも助けてもらったし、それに秘密を知っちゃったからさ、何かできないかなって思って…
だからさ、これからのよしつねの人生が楽しくなるようにしたい。だから、それを伝えたくて…んと、だからね、これからも、よしつねに会いたい、だから、ここに来てもいい?」
言ってしまった。結局はストレートに。何と言われるだろう。
「おう、ええて」
あっさりとした返答に拍子抜けする。
「………はい?」
「何や」
「その…来てもいいと?」
「せやから、さっきから言うとるやろ?別に用がなくても来てええって。前にも言うた気ぃすんで、それもこの現世で」
「そ…そう?」
「どうせ夏休み暇なんやろ?」
「暇じゃないよ、宿題とか、その…宿題とかあるし」
「友達もおれへんしな?」
「はあ!?いるよ。知ってるでしょ?まいち」
「けどずっと一緒ってわけもいかんもんな?」
「だから他の…」
「他にも友達、おるん?」
「う…お、おらん」
「せやから暇でわしに相手してもらおうちゅうことやな?」
「そういうわけじゃないけどさ…」
いろいろと責められて言葉に詰まる。頑張って伝えたのに。
「まあ何でもええけどな。いつでも来たらええし、嬉しいしな」
「本当!?」
さらっと、嬉しいって言ったのを聞いて、わたしも嬉しくなったみたいに声をあげる。
「おう。それにこの前だってわし、用がないのにりかおんとこ行ったしな」
「あれは心配してくれたのでは?」
「何を?」
「なぎささんとのことを見たわたしを」
「見られてるって知らんし」
「あ、そっか」
「にしても、あん時はりかおんにえらい怒られたな」
「そんなに、っていうか怒ってないよ」
「せやろか?怒られ耐性ないんかな?」
「そんなことないでしょ?なぎささんによく怒られてるんだから」
「ほうか。まありかおんに言われると、こう、心にグサッと来るからな」
「そう?」
「何か、わしのこと考えてくれはるんやなって。それに、一生懸命さがいじらしいっていうかな。今もちょっと泣いてるし」
「泣いて…ないよ」
「ええやろ?そんなりかおん見とったら、じきわしも泣くから」
「うん…そっちは泣いてもいいよ」
「ふっ、りかおんとおったら、ほんまにトゥルーエンド迎えられそうやな」
「でも、それでさ、もしループが終わっても、いい?」
「かまへん。いやむしろそれがええな。最高やな。そもそもループせんのが普通やしな。言うても普通がどうなんか知らんねんけど」
「でもそうしたらさ、もうお母さんと会えないんだよ?」
「けどな、ええ加減親離れせんとな。一億万年生きとるんやし」
「ふふっ、そうだね。中身ジジイだしね」
「まあな、ちっとも自覚ないねんけどな」
「じゃあさ、目指そうよ、トゥルーエンド。ジジイらしく長生きしてさ」
「せやな。ほな、りかおん、遊び来てくれるんか?」
「うん。来てあげるよ」
「何か、話変わってへん?」
「へんよ」
「ごめん、やっぱな」
「え?何?何ー?」
「楽しくて、泣きそうにあらへんな」




