●22 真実の代償
改まって椅子に座り直すよしつね。
「でな、わしの話やけど、繰り返す…ループするっちゅうやつやけどな、自業自得みたいなもんやねん」
「え?何か…したの?」
「そもそもな、最初のループ、そりゃあ繰り返すなんて思ってもみんけどな、オカン死んですぐ死んどんねん」
「しん…ってよしつねが?」
「他に誰の話すんねん。まあ、あれや自殺、今風でいうと自死か?まあ言い方変えても同じことやな。15歳で自分で人生を終わらせたわけや」
「嘘、あ、ごめん…でも」
もう何も考えられない、けど…
「そいでな、前も言うたけど意識のうなって、気ぃついたら目ぇ覚めて、記憶が残ったまま赤ん坊ってわけや。最初は幻覚かなんかと思うたけどな。ゆっくり現実的…現実と変わらんように感じて来たって感じやな。
2回目な、オカンに検査とか勧めて何とかしなんようにって思たけど結局死んでもうて、そのあとわしも死なんと頑張ってみたんやけどな、どうにもならんくて途中で諦めたわ。
で次、やっぱりオカンは助けられんくて、ギャンブルとかで生活してみたりしてな、だんだん小狡いことして生きるようになって、状況を利用したらオカンを助けられるんちゃうかな思て、医者になってその知識を次のループで使ったり、ガキのくせにえらい金儲けしたり、何とかしよ思たんけど、何遍やってもうまく行かなくてな。
また結局諦めて、オカン死んだらすぐ死ぬの繰り返しになってもうた。いつかそのまま終わるんちゃうかな思て。でも終わらんかった」
淡々と話す様子が一層、心を突き刺してくる。
「…ごめん、わたし…」
「まあ気にすることやない。その状況を楽しんでる節もあったからな。何遍でもオカンとの楽しかった日々を繰り返せるんやから。一回きりの人生やったらたった15年やけど、何回も何万回も、その15年が続くんや。
それにな、しょっぱなに自殺した自分への罰かもしれんと。
ほんまは地獄で焼かれてな、永遠にもがき苦しんどるんやけど、その状況を直視できんくて、わしが勝手にし続けている妄想が、繰り返す世界の正体なんやないかって。目覚めるとその世界は消えて、地獄で火炙りが待ってる、で、それに耐えきれんくて、また妄想が始まるっちゅう、な」
「それは違うよ。だって…わたしはここにいるから」
そう、今流している涙も、この感情も本物、伝えたい、だけど。
「せやな…わしが死んでな、りかおんがわしの死を認識できたら、りかおんの言う通りや。けどわしは知る由もないんや」
「そうだけど、でも、よしつねが死んだら悲しむ人だって」
そうだ、わたしだってきっと。
「そうならんためにもな、すぐ死ぬようにしてたんや。せやけど、だんだん死ねんようなって、意識はあるけど死ねん状態が何十年も続くとか、それはもっと地獄やった。そいでな、今度は死ぬのを諦めた。
といってもなかなかうまくいかなくてな、なぎさに助けられてからやな、普通に生活できるようなったんは」
「それで今みたいな生活に?」
「最初のころは開き直ってな、まあ、りかおんの言うズルやな、絶対流行るってわかってる事業に出資したり、権利を先に取ったりしたり、そうして金持ちなってな。万一失敗したらまたやり直せばええって。けど、どっちにしろ死んだら終わりやし、だんだん執着せんようなって、一個一個の人生なんてどうでもよくなってな。それにな。最初はオカン死んで悲しんどったのに、まあずっと悲しいは悲しいんやけど、わしが死んでやり直したらまた会えるからって、だんだん悲しみも薄れてってな。けどそれに気付いたときにオカンに申し訳なくなってな。それまでよりもっと、オカン生きてるうちから悲しくなったりで。結局もう全部がどうでも良うなって、気ぃ付いたらこの有様や」
よしつねは遠い目で静かに話した。どれほど遠くを見ているのだろう。
「そんなの…」
言葉が見つからない。何て言ったらいい?違う。わたしの心、思いを、考えて言葉に、忠実に伝える、よしつねが教えてくれた、そうすればきっと伝わる。
伝える。
「でもさ、よしつね、わたしを助けてくれた、前世で何回も、この前だって、今日だって。
わたしのためになんて傲慢なことは言えないけれど、よしつねも自分の人生が大切って、そう思っているからわたしを助けてくれたんだと思うよ。
だからね、現世も、来世もずっと、いつ終わっても、いつまで続いても、どっちでもいいようにさ、ずーっと素敵な人生を送ったら良いんだよ。
わたしがさ…ううん、他の人もみんな、一回きりの人生を生きてるんだからさ。何回も送るからって大事にしないのはさ、ズル…ううん、悲しいよ」
伝わって。
「………」
「………」
「…ふ、そうだね…ありがとう…」微笑むよしつね、悲しそうな目で見てくる。
「…うん…」悲しみ、安らぎ、怒り、慈しみ、すべてが混じりあい、濁りない、涙が溢れる。
「でも、そんなに泣いていたら、こっちまで泣きたくなるからさ、笑ってよ」
さっきからそっちだって泣いてたくせに。
よしつねに言われて、洗面で顔を洗う。
涙のあとは鏡に写っていない。
どんな顔で戻ればいい?何を言えばいい?
笑って、って言ってたよね。無理して笑う?違う。
楽しかった、勾玉をもらったとき、ぬいぐるみを獲ったとき、チャーハンを食べたとき、なぎさの悪口を…それはいいか。
そう、いつも通りにすればいい、きっと。無理に何かをすることを、あの人もわたしも望んでいない。
リビングに戻るとテーブルにドクペとグラスに氷。
「飲むやろ?」
「うん、いつもすまないねー」
ありがたくいただく。
「言いっこなしや」
「でさー、今日なぎささんと会ったんだよー」と言いながら、両手を広げて大げさにソファに倒れこむ。
「それさっき聞いたわ、どうした?」
「あ、いや、何か湿っぽくなっちゃうから普通にしようと思ってさ」
「それ言うたらあかんやろ?まあええわ」
「ふふっ、でさ、ラーメンおごってもらったんだ。おいしかったー」
「なぎさでもおごることあんねや、へー」
「うん、日傘ももらったし」
「さっきしてたやつか?最初どっかの貴婦人がふらふらしてんのか思たわ」
「んもう、最近は日傘くらいみんなしてるよ。ってそれはいいからさ、でさ、思い出したんだけど…」
「ん…何?」
なぎさが頼むと言っていた、その…
「けいじ、って?」
「捜査一課の」
「刑事」
「神の?」
「啓示」
「魚の?」
「鮭児」
「はな…」
「もう違う。けいじのこと頼むって言ってたの!誰?」
「わしやろ?」
「よしつね?」
「せや、メッセージの名前んとこ書いてあるやろ?」
スマートフォンで確認すると『経治』…
「うん、これで?」
「けいじ」
「よしつね、じゃない?」
「そもそもそれはりかおんが名付けたんや」
「あそっか、え、でもみよしつねはるって?」
「ほんまはな、けど戸籍ってふりがなないやんか?つねはるってオカンだけに呼んで欲しくてな、ここ数千年くらいはな、こっち来てから、けいじって名乗るようにしてんねん。何も言わんと大抵けいじって読まれるしな」
「ごめん、また…」
「ええんや」
「でもさ、何でわたしにはつねはるって」
「嘘つかんからな」
「そっか、でもけいじって聞いてないけど」
「聞かれんかったからな」
「は?嘘じゃないとでも?」
「せや、何でもかんでも伝えきれんやろ?永遠に終わらんで」
「う〜ん、もやる。でも、たぶん今日初めて聞いたよ、なぎささんがけいじって言ったの。いつもあいつとかアホとかクソとか死ねだし」
そこまで言ってない気もするが。
「ひどい言われようやな」
「お互いさまでしょ?」
「せやな」
「でも、今度は戸籍にふりがな付くようになるからさ、よしつねに戻るの?っていうか本来そっちなわけだし」
「あーハガキ来とったな、けいじって書いてあって、捨ててもうたけど」
「じゃあもうけいじで行くの?申請できるよ?」
「名前なんて、呼んでくれる人が好きに決めてくれてええんや。せやから、りかおん、これからもよしつねって呼んでくれな」
「でもさ、わたしだけだよね?おかしいよね」
「そもそも、つねはるやしな。なぜかよしつね言うとるし」
「つねはるで通してるんだったら、略したっぽい感じになるけど、けいじで通ってるとね」
「なぎさの前では何て呼んどったん?」
「え?あーと、よしつね…って言ったことないね。あの人…かな」
「何やそれ?」
「流れで?やっぱりけいじって呼ぼうかな」
「えー、よしつねでええやん」
「は?さっき呼ぶ人が決めたらいいって?もう忘れた?」
「うぐぅ…」
「どうする?よしつねがいい?」
「…うん」
「ふふっ、じゃあ呼んであげるけど、条件がありまーす」
「またそれかー?え何?」
「うんとね…」バッグを探って取り出した、勾玉を見せながら「これ、どうやったの?模様がそっくり。ちゃんと教えて」
「簡単なことや。そっくりに作ったんや。その沼島イザナの方を、な」と棚の方を指差すよしつね、ぬいぐるみが飾られている。
「あ、え、勾玉じゃなくて?」
「そんな勾玉うまく作れんやろ?自然のもんやし」
「うん、でも、どうやって?」
「とある前世でな、りかおんが好きやっちゅうのがわかってな、勾玉を探したんや。資金はあるからな。買ってもええんけど、オンリーワン感を出しとうてな。ほいでビザンを発掘してな、良さそうなのを見つけたんや」
「うん、でも違うよね」
「それの模様と見つかった場所は知っとるからな、次のループ、まあ今回もしてんけど、そのイルエトワール!の会社、プリズムアイランドにごっつ出資とかしてな、口出さしてもうてんねん、勾玉の模様はこれにしてやって。あと発掘やな、2回目以降は埋まっとる場所わかるからな。それで見つけて。あとはりかおんに渡せば終いや」
「じゃあ、むしろこの勾玉がモデルってことだよね?」
「せやな」
「荷が重すぎるんですけどー。しかも普通にすごい勾玉だし」
「けど、それ知ってんの、りかおんだけやからな。問題あらへん」
「もう…」
「真実を知るっちゅうのは、時に残酷なんやで」




