●23 パラドクス
今日はよしつねと、泣いて、笑って、他にもくだらない話をした。
わたしもこの世界も妄想ではない、はず。けれど、よしつねが言っていることは本当は妄想なのかもしれない。側から見たらそう思えても仕方がない。でも、よしつねの涙も笑顔も、わたしのそれも、嘘ではないと、そう思う。
母親の話もした。母。よしつねと同じくらい、わたしも母が好き、だから母に隠し事はしたくない。でも、その気持ち以上に、母に知られてはならない、知られたらこのままじゃいられない、そんな気持ちが勝つ。危うく、形容しがたい関係性。
次の約束はしない、また会えると思う。突然会いに来ても笑って迎えてくれるはず。
「じゃあ帰るね」
「ああ、えっと…送ってこか?」
「ううん、まだ明るいし、もう大丈夫だから」
「せやな」
「あーぬいぐるみ、飾ってくれてるんだね?」
「思い出の品やからな。けど店に出したら売れるかな?」
「だめだよ、なぎささんに告げ口するよ」
「この上ない脅迫やな。りかおんも使てるんか?ぬいぐるみ」
「え、いや飾ってるよ」嘘ではない。
「抱っこせんの?」
「せんよ」これは嘘。
「ほな、わしはなぎさんとこ行ってくるわ、もう夕方やし」
「付き合おっか?帰るって言ったのに来てるから」
「ええて、まあ説明はしとくわ」
「うん」
「ほな、気ぃ付けて、倒れんで」
「そっちもね」
お土産を持って、なぎさの店に向かうよしつねの背中が遠ざかる。今日はよしつねに、先日はなぎさに、倒れそうなところを助けられた。二人とも優しい。でも、その二人は悪口言ったり、殴ったりしている。好きなら仲良くすればいいのに。
よしつね、お土産が被って怒られないだろうか。また殴られたりしないだろうか。心配。だからつけて行くことにした。影から見てて、もし殴られそうなら助けてあげる。
なぎさの店、灯りは点いている。店の中入ってすぐ。よしつねが見える、その向こうになぎさ。誰も来ないからといって、そんなところで話していて大丈夫だろうか。喧嘩にでもなったらどうしよう。
声はほとんど聞こえないけれど、何やら話しているのはわかる。わたしのことだろうか。今日はなぎさと食事をして、よしつねとたくさん話して、二人とも優しくしてくれた。そんな二人だから、喧嘩しないで欲しい。
お土産を渡すよしつね。それを受け取るなぎさ。毎回同じお土産だけど、よしつねがなぎさの好きなものを覚えていて、なぎさのためを思って買ってきたのだから、たまたまわたしが渡したものとかぶったからっていって、怒ったりしないよね。
お土産をレジ棚に置くなぎさ、よしつねに近寄る。
ぶつかりそう。
なぎさが、よしつねに、どうして、どうして抱きつくの?わからないよ。わたしが仲良くして欲しいって思ったから?
でもいけないことだよ、家族を悲しませるよ?わたしも家族を悲しませるようなことしているから?
それよりも、一番わからないのは、わたし。どうして、二人が仲良くしても、こんなに嬉しくないんだろう。
帰り道。日が長い。夕焼けを見ると思い出すから、その前に買い物して、家に帰らないといけない。もう思い出していることに気付いてないふりをして。
今日はわたしがごはんを作る。お米はセットした。いつも美味しいっていってくれるから、ハンバーグ。玉ねぎ。切ると涙が出る。あんなにいっぱい泣いたのに。いつもより、たくさん、止まらない。
夕食。いつもと変わらない。美味しいって言ってくれる、いつもそう。涙だって玉ねぎのせい。でもどうしてわかるの?ママ、間違い探しの天才だね。
「莉花、最近何かあった?」
テーブルの対面で母が見つめているのは、わたし。
「ううん、別に」
その目を見られずにうつむく、わたし。
「ママに話したくない?」
「うん」
自白。
「なら、話さなくてもいいよ」
「ほんとに?」
「うん。でも少し聞いてもいい?」
取り調べ。
「いい…よ」
「嫌なことした?」
「してない」
「された?」
「ううん」
「これからも続けたい?」
「うん、たぶん」
「なら、いいよ」
「ほんと?」
「でも、ちゃんと帰ってくること、あとやめたくなったら、やめて、ね?」
「いいの?」
「莉花の人生だから。それに莉花は、ママを悲しませるようなことしないって思ってるから」
「ありがと」
「何かママにできることがあったら言ってね?ずっと長く生きてるんだから」
「うん」
「じゃあ、部屋行っていいよ」
釈放。
でも、母よりも、もっとずっと長く生きてる人を知っているけど、その人はずっともがき苦しんで、ずっと悲しんでいるように思える。
寝る時間、寝なくてもいい時間。明日も休みだから。
でも寝る。早く今日を終わらせたい。
天井が見える。そして目を閉じる。
ぬいぐるみ、ここ数日は一緒に寝ている。でも今日は別。わたしに構ってもらえるのが当たり前と思わないことね。
明日また、よしつねに会いに行く?行ったら喜ぶだろうか。
母がわたしの異変に気付いたように、よしつねも気付くだろうか。母とは生まれたときからずっと一緒。でも、よしつねも前世でわたしのことをたくさん見ているはず。気付かれて、何かあったか聞かれたら、わたしはなぎさとのことを見たって言うのだろうか。
それとも、さきにわたしが問い詰めるだろうか。そうしたら、よしつねは嘘をつかないで答えるのか、それとも嘘をつくのか。どちらであっても、答えを聞きたくないから、何も聞かないだろうか。
母が、やめたくなったらやめたらいいと言っていたように、もう行くのを止めるだろうか。
わたしはどうしたいのだろう。でも今日はもう疲れただろう。
だから、わたしがわたしを抱きしめてあげる。
おやすみ、わたし。




