●20 二人のグルメ
なぎさの店を出て10分ほど歩き、ラーメン店に着く。相変わらず暑いので、道中、なぎさがくれた日傘をさして歩いた。そのおかげで、手を繋いだまま歩かずに済んだ。
店の前、客が列をなして待っている、その数10人ほど。店内にも10人ほどが待機しているよう。
「すごい…ですね」
「回転速いからな、日陰やしいけるやろ?」
「あ、大丈夫です。けど行列ってあんまり」
「ランドとかシーとかバーサルとか並ぶやろ?」
「バーサ…?、いやごはん屋さんでは」
「嫌か?」
「全然そういうんじゃないけど、何か緊張…」
「楽しやろ?」
「はい、よく来るんですか?」
「たまにな。他にもラーメン屋あるけど、おんしやから、おすすめのとこでな。あーあいつとも何遍かあるで、あいつのおごりでな」
そのデート、いや監禁、聞いた気がする。
「あの、どういうの食べたらいいかわからないんですけど」
「ラーメン、中華そば…か、基本それやねんけんど、大と中があってな。それに肉、生玉子、メンマを入れるか入れへんか、あとめし、これの普通か小かを付けるかどうかって感じやな」
「おすすめは?」
「うちは全部入れてめしもやけどな。おんし、めし、コメな、好きか?」
「はい、好きです」
「ほしたら、中華そば肉入り中盛生玉子小ごはん、やな。残したらうちが食べる」
「はい、では。えへん、えっと…ちゅーかそばいにくりーちゅーもりまなたまごしょーごはん」
「どしたん?急に?」
「えっと注文の練習しようと思って、ちゅーかそばにいくりーちゅーもりたまなまごしょーごはん」
「あんな…ここ食券制やねん、うちが買うたるし」
「え、じゃあ…言わなくても…?」
「ええて。シバタのコーヒーちゃうんやから、ま、あれもスマホでピッか」
「えー!!は、恥ずかしいッ…」
周囲の視線が肌に刺さる。もう何も見えない、聞こえない。
「…はぁ…ちょっと…かわい過ぎひん?…」
なぎさが何を言っているのか理解できなかった。ただ、時が過ぎるのを待った。
ラーメンとごはんが運ばれてくる。カウンター、右隣になぎさ。
目の前に二つの円。左の小さな円にはごはん。大きな円は褐色の濃厚なスープで満ち、中央に浮かぶ橙色の玉子の黄身、それを支える白身、その向こう透き通って僅かに見えるもやし、その周囲を黒茶色の豚バラ肉、緑の小ネギ、メンマが彩り、そのすべてを麺が確かに支えている。
「あの、どうやって食べたら?」と迷子の子猫ちゃんのわたし。
「好きにしたらええんけんど、ラーメンは主食にもおかずにもなるっちゅうことやな」どちらかというとおまわりさんの厄介になる側のなぎさ。
「うん」
通はスープからと聞いたことがあるので真似て、レンゲでスープを一口。見た目より脂っこくなくて、でもインパクトがあって、美味しい。
次、麺はもっちりでつるっとした食感が楽しい。スープがよく絡む。豚バラはしっかり味がして、スープに負けない。確かにごはんが食べたくなる。玉子を混ぜるとまろかや、すき焼きみたいでさらにごはんに合う。
なぎさを見ると、手を止めてこちらを見て微笑んでいた。かと思うと、一心不乱に食べ進め、ごはんの上に具材ごとスープをすくって載せ、かき込んだ。先人の知恵、真似しよう。
昔、こちらに来る前に母と時折外食していたことを思い出す。ラーメン店ではないけれど、メニューを見て迷っているわたしに、いろいろと説明してくれた母。注文するのも母。食べているわたしを笑顔で見てくれていた母。家では母の作ったごはんも美味しいし、わたしがごはんを作ることもあったりして楽しいのだけれど、それとはまた別のテーマパークのような非日常空間。いつか、今度はわたしが母を連れて行きたい。
帰り道、並ぶ日傘。
「どやった?」覗き込んでくるなぎさ。
「ごちそうさまでした。美味しかったです。全部食べましたし」
「せやな、えかったわ」
「あの、今日はこのまま帰ろうと思います」
「何や、腹一杯で満足してもうたか?」
「違います。あ、満足はしましたけど」
「ええわ。送って…かんでもいけるか」
「はい、大丈夫です」
「ま、いつでも会えるわな、知らんけんど」
数分歩き、アーケード街入り口、分かれ道。
「今日はありがとうございました。日傘も」
「おうまたな、いつでも来いや。ツレも一緒でな」
「はい。また来ます」
少し歩いて振り返る。手を振るなぎさに振り返す。
「ほな、けいじのこと、これからも頼むわー」
…けいじって何?




