●19 お菓子な二人
無事にまいちと仲直りできたし、テストも終わり、あとは夏休みを待つのみ。
よしつねはというと、顔が痛くて体調が優れないので、今週は休業するとのこと。どうせ客など来ないだろうに。
例のやつかと聞いたが、なぎさのせいとの一点張りだったので、大丈夫と思うことにした。
母には、何か異変に気付かれそうな気がして、先日知り合った古着屋さん(とそのいとこ)が、下校中に具合が悪くなったわたしを助けてくれたと話したが、まいちとのことは話していない。もちろん、よしつねのことも。隠し事はしたくないのに。
まいちとは、あのあと4日間顔を合わせたが、前と変わらない様子だった、と思う。あのことが消えるわけではないし、いつか喧嘩をしたら蒸し返されるかもしれない、見えない爆弾。けれどそれはわたしのせい。爆発させないように、二度と同じことをしないように、慎重に生きていかなければいけない。彼女とは、ずっと何でも言い合える仲でいられると思っていたけれど、こうやってだんだんと…。想像するだけで恐ろしいので、それ以上考えるのはやめた。
ふと、スマートフォンが呼ぶ。まいちからだ。期待と不安が狂わせる指先を、何とか制する。
『アニメみてるおもしろいね
来週映画たのしみ
さそってくれてありがとー』
いつもと変わらない、たぶん、いやきっとそう。誘ってくれたのはまいちなのに、わたしの手柄にして、感謝してくれる。彼女がいなかったら、わたしの人生はきっと退屈でつまらない。だから、これからは、素直な気持ちで彼女を笑顔にしたいと、メッセージを送る。
『誘ってくれたのはそっちだよ?
だからありがとうはこっち
一緒だともっと楽しいよ』
笑顔でいてくれるだろうか。
明日の土曜日は、なぎさのところへ行くことになった。下校中に助けてもらった話をしたら、母から、どうせ暇なのだからお礼にいくようにと言われたためだ。メッセージを送れば済む話だが、母がわざわざお菓子を買って来て、それを渡せと言うので、仕方なく承知した。暇は暇だし。バッグに入れてあとは寝るだけ。
寝る前のルーティーン、日曜日から始まったことがある。
机の棚、沼島イザナのアクリルスタンドとぬいぐるみが並んでいる。ぬいぐるみは首からフェルト製の勾玉を下げているが、それに重なるように、よしつねからもらった本物の勾玉を紐を調節して付けている。少し大きくて不釣り合いだが、カスタム感が出て嬉しい。
寝る前にその勾玉を外し、ぬいを抱いて眠る。もちろん今夜も。よしつねにはそんなことしないと言ったが、見られるはずもないので構うまい。けれど毎日よしつねを思い出してしまう。
翌日午前中、なぎさのところへ向かう。勾玉はバッグに入れて、お守り。
最短距離ではあの橋、なぎさがよしつねを助けた橋を通ることになる。少し遠回りになるが、別の大きな橋を渡る。
古着屋の前、タンクトップ姿のなぎさが、腕組みをして待っていてくれている。会釈してそばへ。
「おう、元気やったか?」
「はい、おかげさまで。ありがとうございました」
「詳細は聞いてへんねんけんど、あいつ、しゃべれんくなりよったから、はっはっは、ええ気味や、んで、良かったなほんま」
邪悪に笑うなぎさ。
「はい、助かりました。その…なぎささんに抱きしめられて、安心したっていうか」
「せやろ、あいつにはできんからな。そないなことしたら、うちがブチ殺して、引きずり回して、ブタ箱ぶち込んで死刑や」
ループのこと知っているかのように、二回殺そうとしている。
「あ、えっとそれで、これ、母からなんですけど」と、母から預かった菓子折りを渡す。
「あ、ありがとうな。お母さんにもよろしく、な」
「はい」
「開けてええ?」
「どうぞ」
丁寧に包みをあけるなぎさ。
「おー!ろっくんもっくんやないか?うちこれ大好きやわあ、48本も入っとってー」
棒状の焼き菓子の大群を前にして、さっきとはうって変わって少女の笑みを浮かべるなぎさ。
「良かったです」
「食べてええ?」
「え、あどうぞ」
「おんしも」
「あ、はい、じゃあ一つ、いただきます」
お菓子を渡され、店内で椅子に座って二人で食べる。美味しいけど、水分が欲しくなる。
「せや、喉乾くわな、ミイラんなってまうわ、待っときや」
「ふっ、ミイ…ラ、ふふっ」
奥から何やら持って来てくれるらしい。間もなく、
「ほれ」
ペットボトルのミルクティーを差し出すなぎさ、受け取る。
「ありがとうございます」
一口、潤う、ミイラも人間に戻る。
「こっちのがええやろ?」
「はい」
「何やミイラがツボったんか?」
「いえ、この前、あのあと友達の家に行ったんですけど、あの人について来てもらって、それで仲直りできたんです。そしたら友達が、ふっ、うしろにミイラ男がいるからわたしが守るって、ふふっ、言ってくれて、違うんだよ、古着屋さんのいとこだよ、って言ったら、あの古着ってミイラのなの?って、ミイラから服剥ぎ取って売ってるの?って、なかなかわかってくれなくて、ふふっ」
「ほんまに、えかったな」
「はい。今度古着見たいって言ってました」
「ネットで買えるで?」
「素材感とかは写真じゃわからないんです、って」
「せやな、歓迎するで」
結局、お菓子3本とミルクティを完食してしまった。
なぎさが食べ終わったお菓子の袋を眺めながら、
「これな、うちが好き言うたらな、あいつ、バカの一つ覚えみたいにトーキョー行くたんびに毎回買うて来てな、こっちでも買えるっちゅうねんて、まあうまいからええねんけんど」
「でも、なぎささんが好きなの覚えてて買ってくるなんて、何かいいじゃないですか?」
「せやな、ずーっと変わらんやつや。笑てまうくらいに」
あんな怪我をさせた人と同一人物とは思えない、優しい、けれど今にも消えそうな笑み。
「…でも、トーキョーってよく行くんですか?」
「あー、それな、あいつんとこのお墓があんねん、で月命日とかにちょいちょい行っとるわ、まめなやっちゃ」
「お母さんの?」
「両親のやな。父親のことはあんま覚えてへんらしいけど。あ、昨日行って今日の夕方には帰る言うてたな」
「じゃあ今いないんですね?」
「せや、残念やったな?」
「いえ…はい…いえ」
「ちゅうかあいつ連絡してへんのんか、またいわさなあかんな」
「あ、いえ大丈夫っていうかやめといてください。わたしも連絡できたのにしなかったから」
「あー半分冗談や」
「…半分」
「ここで待つか?」
「いえ、店の邪魔に」
「閉めたらええ、こんな店けえへん」
「でも…」
「めし、食うた?」
「いえ、今日は母が仕事なので家で何か作ろうかと」
「んなら外、食べいこか?おごるで、そうや、そうしよ、いこ?」
「いやいや、そんなの」
「ここでじとーっと待つんか?いつ帰るかわからん旦那様を?」
「違いますし、待たないです」
「ほな、あいつんとこ行かんでええんか?」
「うー…」
「うち、ラーメン食べ行くから、暗い部屋ん中で辛気臭い顔して待っとったらええやん。ほなな」
「あーもう、わかりました、ついて行きます」
「ははっ、ええ子や。いこ」
左手を差し出すなぎさ、迷ったが握り返した。




