●18 恐怖!ミイラ男
家を出て、何度も通ってきた住宅街を歩く。
早く伝えなければと、はやる気持ちが進める一歩、うまくいかなかったらどうしようという恐怖が足元に絡みつき、その歩幅を狭めること十数分。
やっとのことでたどり着いたまいちの家の前。わたしの家より大きくて素敵な家。アーチの付いた門が閉まっていて、その向こうに玄関が見える。
斜め後方でよしつねがスマートフォンをいじるそぶりをしてこちらを見ている。
わたしは門へ向き直り、脇についたインターホンを押す。
『ご用件をお話しください』と自動音声が流れる。
「え、えっと」不意を突かれて言葉がでない。
次の瞬間、ガチャッと玄関の扉が開き、まいちが駆け寄って門の向こう側に立つ。
「りか…おん」目を見開いて、怒っているのか、驚いているのか、判断がつかない、今までに見たことのない表情のまいち。
「あ、あの…」
「ごめん!」/「ごめんなさい」
二人の言葉が重なりぶつかり、溶け合う。
「あたし、りかおんを置いて行っちゃって」
「ううん、聞いて、わたしが悪いの。
まいちのこと大好きで、大切に思っていて、いつも笑ってくれるから、怒るふりして、笑ってくれるようなことを言いたくて。
それで冗談で、もう遊ばないなんて、思ってもみないこと言って。
まいちが行ったあとも、学校でどうしたらいいとか、一人になっちゃうとか、自分のことばかり考えて。
でも、まいちの気持ちを考えて、遊ばないって言われたら悲しいだろうなって。
そんなこと冗談でも言っちゃいけないんだって思って。
わたしのこと嫌いになったら、もう遊ばなくてもいいから。
ううん、本当はずっとまいちと仲良くしたい。
それでね、まいちを傷付けたから謝りたくて。
だから、ごめんなさい」
自分の心の全部を言葉にして、声に乗せた。涙に流されてないで向こう岸まで届いて欲しい。
「うん、あたしもさ、怒ったふりして。
そうしたらさ、りかおんが追いかけてくれてさ、嘘だよーって言おうと思ってたらさ、来てくれなくて、戻ってもりかおんがいなくて、本当に、もう、遊んでくれないんだーって思って。
一つも嫌なところなんてない、大好きなりかおんに、困らせるようなことして。
だからさ、ごめん!」
まいちの声、泣いているけれど全部、心で聞き取れた。
門を開けて、抱きついてくるまいちを、涙を、一滴残らず全力で抱きしめた。
お互いが泣き止むまで。
不意にまいちが小声で、
「りかおん、静かに落ち着いて聞いて。
この手を離したらさ、全力で玄関から家に入って。
わたしが門を閉めて食い止めるから。
絶対に姫を守ってみせるよ、この命に代えてもね」
「え?何?」
「さっきからさ、りかおんのうしろでさ、こっち見てるんだよ、ミイラ男が」
まいちの家からの帰り道、安心して、違う涙がこぼれる。よしつねは隣を歩くがこちらは見ない。
誤解、和解。
後悔は消えないけれど、自戒になった。
すぐにいつも通りの二人に戻れたんだと思うことにする。
むしろ、ミイラ男のことを説明する方に時間がかかった。
わたしが金曜日にミイラ男を助けて、昨日まいちと別れたあとに知り合った古着屋さんが、たまたま今日、立ち尽くすわたしを助けてくれて、そのいとこがミイラ男で、ここまで付き添ってくれたこと。
人生を繰り返すことは言っていない。
「良かった。仲直りできて」
『そもそもなぎさが莉花を拉致しなければ何もなかった。全部なぎさが悪い』
よしつねは話せないのでスマートフォンのメッセージで返してくる。
「でもさ、あの人の手と身体と、あと言葉、すごく力強くて優しかったよ。軽々とだっこしてくれたし」
『強いのはそう』
「ところで、その怪我?大丈夫?」
『まだ』
「まだって何?ってゆうか、もしかしてなぎささん?」
うなずくよしつね。
「また殴られた?」
今度は首を横に振る。
「違うんだ、ならいいけど」
また首を横に振る。
「じゃあ…何?」
『大車輪キック』
「だ、えっ、蹴られたの?」
うなずく。
「また何か言ったんでしょ?」
うなずいて、
『帰ってきた暴走タンクトップゴリラ』
「そりゃ怒るよ。骨が残っただけましだよ」
『冗談で』
「冗談でも、状況とか蓄積とか、いろいろあるんだよ?ってゆうかそれ、普通に単体で充分ひどいけどね。気を付けなよ」
『そっちも』
「あ、そうだね」
『顔合わせ いらなかったね アドバイス』
「そんなことないよ、ちゃんと伝えられたから」
『役に立てたら ほんと良かった』
「そうだよ、謝りに行ってなかったかもしれないし。でもさ、前世でもまいちに逢ってたの?」
『莉花とあうとだいたい』
「ループ、話したことは?」
『ない』
『全部の前世で莉花だけ』
『嘘をつかないも莉花にだけ』
『あとは嘘まみれ』
連続で来た。
「まみれって」
『なぎさ』
『毎回騙す』
『当然報い』
「そっか。何か片言だけど、大丈夫?」
『指疲れた』
『家に着く』
気が付けばもう家のそばに来ている。よしつねは歩みを止めてぐったり、立っているのもつらそうにしている。
「そっか、ずっとこれだもんね、うん、ありがと」と親指を動かして見せる。
『さよなら』
『おやすみ』
『もうすぐ』
『迎え来る』
「迎えって?…え!嘘…でしょ?」
スマートフォンとよしつねを交互に見回す。ついに塀にもたれかかっているよしつね、包帯の隙間から見える目はうつろだ。
『嘘つかぬ』
『約束した』
「いやだよ!そんなの…またごはん作ってよ。もっと…」
また違う涙の順番がそこまで来ている。
その刹那、傍らに、白く光る目の、大きな漆黒の物体?…車が現れ、口?…ドアを開ける。吸い込まれるよしつね。
「お待たせしました。みよしさん?どちらまで?」




