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●14 オーバー・ザ・マウンテン

 4階のアミューズメント施設に着く。もうすぐ17時になる。


 クレーンゲームへ駆け寄る。さきほどとは、ぬいぐるみの山の形が違って見える。いるだろうか。


『ピコーン』


 硬貨が投入されたことを示す電子音が聞こえる。焦る。見るとよしつねだった。操作盤の脇に『6』がデジタル表示される。


「獲られちゃったかな、見つからないよ」


「とりあえずやってみたらええ、チャレンジや」さっきも言われたような。


「うん」


 お目当ては見つからない。が、操作盤に向かい、構える。


 一つ目のボタンを押すと球体が奥へ進み、離すと止まる。二つ目は右へ。そして自動的に球体が、その両脇についたアームを広げて降下し、アームの先端についたシャベルが山に突っ込む。山に当たるとアームが閉じられ、球体が上昇し切ると、まっすぐ元の位置に戻る。


 何も獲れないが、山の一角が崩れる。いるだろうか。6回やっても見つからない。


「ほら、次」よしつねが500円硬貨を渡そうとしてくる。


「今度はよしつねがやってよ」


「いや、ええて」


「年を重ねてチャレンジ精神なくしたの?」と場所を譲る。


「言うなあ?ほな、やったるか」と投入口に硬貨を入れるよしつね。


『ピコーン』


「獲ったらわしのもんやからな?」


「えーズルい!」


「行くで!」


 アームが山を切り崩すこと5回、向かって右、取り出し口から遠い方の山の中腹から麓あたりに、沼島イザナの衣装らしきものが見えた。


「あれだよ、たぶん、あの白くて赤い帯がついてるの!」


「お、あれか、獲ってまうで?」


「うん、いいから、獲ってよ、格好いいとこ見せて」


「わった」威勢良くボタンを押す。


 アームが白いぬいぐるみを捉える。獲れるか。惜しくも逃すが、ぬいぐるみが動いて顔が見える。


「ほら!あれだよ。間違いない」


「見えてきたな。次やるな?」


「うん、ありがと。仇はとるよ!」


「任した」


『ピコーン』


 アームでぬいぐるみを掴もうとする。捉えはする。しかし持ち上がらない。


「これ、貧弱だよう」


「諦めたらあかんで、チャンスはいっぱいあるんやから」


「うん」ぬいぐるみの側面のタグについているであろうナイロンの紐に引っ掛けたら、あるいは獲れるかもしれない。場所を微調整しながら挑むが、残り5回すべて持ち上げることができない。


「ほら」また硬貨をくれるよしつね。


「いいの?」


「引き際を知らん、大人の悪いところや」


「次やる?」


「いや、仇とってくれんやろ?化けて出るで?」


「化けられないでしょ?やるよ」


「その意気や」


『ピコーン』


 球体が5往復するも、ぬいぐるみは表情を変えず、ガラスの向こうでこちらを見ている。


「まだだ」


「せや、金ならあるで」と悪い大人のよしつね。


「黙って、集中するから、たぶんあの辺…」


 球体がぬいぐるみの上に達する。開かれたアームが舞い降りる。捉えた。ここから。


 球体が上昇しシャベルに引っかかった紐がピンと張る。


「お願い」


 次の瞬間、球体とともに丸みを帯びた物体が舞い上がる。


「お!」よしつねも感嘆の声をあげる。


 塊が、なだらかな山の上をロープウェイのように過ぎて行く。そのまま。


「やった…」


 取り出し口へ落ちるぬいぐるみ。すぐさま取り出す。


「ようやったな!りかおん」


「うん、しかも同じの2個、絡んでくっついてたね」


「飾る用と使う用やな」


「使うって何?」


「抱っこして寝る?」


「しないよ」おそらく。


「ほな、ぬい活みたいな?」


「それはしてみたいかも。うん、でも1個はさ…」と片方のぬいぐるみを


「よしつねが持っていてよ」と差し出した。


「りかおんが獲ったもんやで?」とぬいぐるみに手を添えながらよしつね。


「でも出捐はよしつねだから」


「せやな」


「あ、うん。だから、ね?」


「ありがとうな。りかおんとおそろやな」


 今度は空耳ではない。


「…あ、そうだね」


「ほな、かえろな」


「うん……あ!」


「今度は何?」


「バッグ忘れた」




 エスカレーターを降りてビルを出て、再び御代史堂に向かう。


「ごめんなさい」


「別に謝ることやない」


「前は忘れなかった?」


「うん、店であんな話したりせんかったし。なぎさに殴られてから、歯車が狂ったんかな?」


「殴られてないよ」


「せやったっけ?」


「せやった、よ」


「時間、大丈夫なん?」


「ママ、今日夜勤だから。ごはんも好きに食べてって」


「そうか、寂しいな」


「慣れた」


「さすがやな」


 歩道橋から見える夕焼け、わたしの身体にも残っている太陽の余韻が、目の前に広がってオレンジ色、白、濃紺のグラデーションへと変わっていく、それを支えるなだらかな山が、椰子の向こうに見える。


「ちょっと待って、写真撮りたい」


「おう」


 スマートフォンのカメラで夕焼けを撮影する。実際に見たものとは違って見える。普段、画面に流れてくる映像も、加工をしていないとしても実際とは違うのだろう。


 ついでに、微笑んでこちらを見ているよしつねも撮影したが、顔ははっきり写らなかった。


「そういえばさ、ちゃんと戸締りした?」


「自信ないわ」


「急ぐよ」



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