●13 オン・アンド・オン
病院から戻ったよしつね。何回も人生を繰り返す、ループしているが、それを知っているのはわたしだけだと言う。
「でもさ、どうしてわたしには言ったの?ループのこと」疑問は尽きない。
「それやけどな、前にほんまに助けられたって話したやん?」
「うん、行き倒れて死にかけたって」
「そんときな、あれはほんまに体調のせいか、原因不明のやつかはわからんけどな。そのあと救急車で病院付き添ってくれてな、意識がボーっとなっとるとき、りかおんがいろいろ話してくれてな。聞いてへん思たんか、眠ったら死ぬとか考えたんか、わからんけどな、好きなものとか、友達のこととか、いろいろな。
せやけど、わし、じき死んでな…」
「え、嘘」
「嘘は言わんて。で次のループ、な、わしは倒れはせんかったんやけど、りかおんがな、あの店から出て、奥の方へ進むやん」
「うん、それでよしつねを蹴った」
「でもわしはおらんやん」
「そうだね、倒れないから」
「ほしたら、やっぱ帰ろ思たんか、そのまま引き返してな、急いだんかな…うぅっ」うつむくよしつね。
「どうしたの?」
「あんまり話したない思てな」
「現世のわたしは、大丈夫だよ」察する。
「せやな…あんな、りかおん、車にはねられて…」
「嘘…あ、ごめん」身体が痛くなった気がして椅子から少し身を乗り出す。気のせいだ。
「大怪我してもうて、でもその前世では知り合いでも何でもないからな、そのあとどうなったかはわからんけど、難儀しよったやろな」
「うん…」
「で、その次や、車にはねられる直前で何とか助けたんやけど」
「良かった…ありがと」人ごとなのか自分ごとなのか微妙だが、ほっとする。
「そのあと、りかおん、そやってお礼言いに来てくれたりしてな、ここ寄ってくれるようになったんけど、ポロッと言うてもうたんよ、その、好きなものとか前に聞いたことを。ほしたらな、ごっつ疑われて、助けられたんもおかしいって。賢こやな」
「そこで、人生2回目なんじゃないかって?」
「せや。んで経緯を話したらバカにしたりせんで真剣に聞いてくれてな。そのあとすぐわし死によったから結局信じてもらえたんかはわからへんけど」
ほのかな笑みで遠くを見るよう。よしつねが来たときを思い出しているなぎさみたいな眼差し。
「また。笑えないよ?」
「そのあとも何回かループしとんやけど、言うた方がいい思うようなった。信じてもらえるかは、わしの話ぶりにもよるんやろな、そのときどきやけど。今回はなるべく早めに信じてもらいとうてな、強引やったかもな」
「ってゆうかさ、恩人だよね?よしつね」
「一回だけやろ」
「けど、わたしがはねられないように、わざとあそこで倒れてたんでしょ?」
「うん」
「ずっと、何回も?わたしに脇腹を蹴られて?」
「うん。そしたら、りかおんが、はねられそうになることもないし」
「ありがとうね」
「…」黙っているよしつね。
「でもさ、何回もわざと倒れてるの想像したらさ、何かバカみたいだね?」
「せやな、でもやめられへん。りかおんも何回目かなんちゃう?実は、あーまた倒れてる、って思っとったりしてな?」
「覚えてないだけかな?ううん、違うと思うよ。もし覚えてたらさ、かわいそうだから次は蹴らないようにしてあげる」
「ふっ、助かるわ。もしかしたら、みんな何回目かなのに、知らんふりして生きてたりな?」
「そんなだったら、おもしろいね」
「したら、わしがいろいろ悩んだんもアホみたいやな?」
気が付けば昨日一昨日と同じくらいに持ち直しているよしつね。
「そうかも。前世ではこんな話もしてないの?」
「してへん、今初めてや…あッ!」急に立ち上がるよしつね。
「どうしたの?」
「ミツコ!」
「もう行ったよ?」
「ぬいぐるみは?」
「それ知ってるんだね?うん見た、だけ」
「獲ってへんの?」
「うん、お金かかるし」
「ほな行こ?ゲーセン」
「でもお金かかるから」
「ふっふっふ、儲けるすべが、あんねんて」
「それ、よしつねのお金だから」
「恩人のためなら、や」
「でも、ズルだよね?」
「恩人の言うことや、きき」
「じゃあ仕方ないね、行こう」と、立ち上がって、よしつねに手を差し出した。
「お、おう。準備するわ。帽子持ってくるわ」そう言ってよしつねは店の奥へ行った。
待ちながらスマートフォンを確認する。通知あり。なぎさからだ。
『さっきはごめんなさい
あいつに言い過ぎたって言ってください
よろしく』
なぎさはさきほど何と言ってただろう。自分で言えばいいのに。
二人並んで、本屋のあるビルへ向かう。アーケード街を出て大通りを右に少し歩き、川にかかる橋を渡る。次第に人通りが多くなってくる。
ふと、よしつねの横顔を見る。気付いてこっちを向いて
「ここちゃうで」
「うん、聞いてる」
そう、もっと下流の、さっきわたしが船に向かって手を振った橋。
「フェイクやし」
「うん」でも、最初は本当だったのだろう。
「あと、わたしが車に…」
聞いたら、よしつねは嘘をつかない。
「聞きたいか?」
「ううん、これからはいつでも気を付けるようにするから」
「せやな、ええ子や」
「子ども扱いしない!」
「そうか、ぬいぐるみいらんか?」
「ちょっと!わたしはなぎささんみたいに優しくないよ?」
「どうやろな?」
ほどなくして、目的のビル2階へと繋がっている歩道橋に差し掛かる。
「暑いね」と声をかける。
「大丈夫か?」
「うん、そっちこそ」
「前科ありやしな」
歩道橋を登り切ると、通りのさきに駅が見える。その道中に椰子の木が連なっている。
「何か、ハワイみたいだね、暑いし、椰子があって」
「せやな」
「何で椰子があるんだろう?」
「戦後でこの辺焼け野原になってもうてな、復興のシンボルらしいで」
「そうなんだ。調べたの?」
「いんや。前にりかおんが教えてくれたんやで?」
「へ?あー、前世で?」
「せや。今みたいに気になって調べて、わしに教えてくれたんやろ?」
「ふふっ、何か不思議。けど、ただ楽しいからってだけじゃないんだね?」
「せやけど、楽しんだらいいやろ?目的達成や」
「うん。ハワイ、行ったことある?」
「ああ、前の…でな?」いつだかの前世のことだろう。
「わたしも行きたいな」
「大きくなったら機会あるやろ?」
「そうだね、でも」
「家族全員で行きたかったな」
「うん」
「わしもや。何遍でもオカン死によるし」
「ごめんね」
ループしても母は亡くなってしまうということだろうか。聞けなかった。
「おあいこや。いこか」




