第6話 前歯と耳よりはマシだろ
我慢できなかったんだよな。
いや、そんなつもりは無かったんだ。
軽くハグするだけのつもりだったんだけどな。
北と西の族長は背骨がボッキリ折れて、しなくてもいい方向に御辞儀してた。
やっちまったもんは、しょーがねえ。
適当に偉そうな奴から順番から両耳をちぎって、次は前歯を折ってって、親戚づきあいをこなした。
そんで「なんかあったら、また遊びに来るから火草刈に逆らうんじゃねーぞ」って念押ししてサヨナラしてきた。
迷ったのは南だったよ。
置いて逃げたっつても、女の身で出来ることと出来ねーことってのは、あるわな。
口より先に手が出る俺でも分かるよ、そんぐらい。
縁が深ければ深いほど「火宅」の神威は強くなる感覚がある。
母ちゃんの肩揉むつもりが両腕引きちぎってましたなんてことになりかねねー。
俺が実家と北と西で何して来たか伝わってたんだろうな。
南の屋敷の門は開かれてて、母ちゃんが飯作って待っててくれた。
酒と肴を用意した母ちゃんがニコニコ笑ってる。
「火宅」からバチバチと火の粉が舞う。
こんな御馳走、俺だけ食うのは悪いから、先に母ちゃんが食ってくれよって言ったんだけど、母ちゃんは、これはオマエのために用意したものだからって手を付けようとしねえ。
仕方がねーから、偉そうな奴から順に両耳をちぎって、次は前歯を折って、母ちゃんが食うまで止めねーぞって言ったら、母ちゃんが酒飲んでから泡吹いて倒れた。
両耳ちぎったり、前歯折るよりはマシだったと思うよ。
いい飲みっぷりだったぜ、母ちゃん。




