第5話 鏑矢を打って怒鳴るだけ
戦っつても、大抵はガチで殺し合うわけじゃない。
人死には大損だ。
例えば、弓手ってのはエリートだ。
5年、10年かけて、やっと狙った敵を撃ち殺せるようになる。
身体をデカくして、力も強くなるように、いっぱい飯を食わせないといけないし、鍛錬に使う矢だって消耗品だ。
そうやって時間と金をかけて育て上げた弓手がケガして弓を引けなくなったり、死んだりしたら大損だ。
戦の時だけじゃない。
兵士は普段は田畑を耕したり、狩りをして肉を確保する働き手でもある。
だから居なくなったり、働けなくなったりしたら困る。
先細りの手詰まり。
そこで大事になるのが、大怪我したり、死んだりしないための暗黙の了解。
平たくいえば、お約束。
大勢引き連れて対面しても、すぐにぶつかって斬りあったりしない。
適当な距離に陣取って、矛や剣を振り回して腕っぷしを見せつけて、たまに変な音の鳴る鏑矢を打ち込んでビビらせてみたり、怒鳴ってイキり散らかして、いい頃合いになったら、少しでも有利な状況を確保した上で帰る形を作る。
大事なのは死人を出さないようにしながら彼我の格付けすること。
誰か死んだら、お互い、引っ込みがつかなくなるからな。
たまに運の悪い時もある。
見通しが悪い場所で、出会いがしらの衝突事故みないなもん。
お互いの顔が判別できる距離まで近づいちまってて、慌てて矢を射ったら死人が出て、もう止まらなくなって矛で叩き合って、最後は敵味方入り乱れて斬り合い。
そんなのやっちまったら、勝っても負けても当分の間、お互いに立ち直れない。
さあ、戦に行こうぜって声かけても、死人を出しちまう盆暗な大将についていく奴なんて居なくなるからな。
つーわけで戦を始めても、なかなか決着はつかない。
5年かけて丘ひとつ分捕って、5年かけて丘ひとつ取り返される。
農閑期にしか出兵は出来ねえし、やれば、金も飯も消えていく。
戦なんて、やらねーのが一番なんだけど、どうしようもねー。
領地の境界をめぐるいざこざ、田んぼに引く水の奪い合い。
馬や牛が盗まれた。
妻や娘を奪われた。
生きてくために必死なだけの奴も居れば、自分の欲を抑えられない馬鹿も居る。
縁組作戦で家をデカくして、簡単に手出しの出来ない大物になろうとした曽祖父の考えは、ワリとイイ線いってたと思う。
残念だったのは、強欲なのが曽祖父だけじゃ無かったってだけ。
そんで俺がやったのは単騎で殴り込み。
殺すとマズい。
ほどほどに。
親類縁者が居なくなれば「火宅」は只の鎧兜。
脅して働かせる奴を残しとかないと無人の荒野になるだけだ。
東は釘をさして、その次は北と西と南。
頭を潰されて、跡目争いでも始めてくれりゃあ手間が省けて良い。
一つにまとまって、報復してくるようなら、また頭を潰す。
遠くの親戚より近くの他人っていうけど、俺は親戚づきあいを大事にするぞ。
そんで、火草刈に逆らったら、どうなるか、きっちり刷り込んで、従うのが当たり前って雰囲気になってから代替わりする。
「火宅」が殺せ、殺せってウルせえから我慢するのが大変なんだわ。
俺は「ちょっと見ない間に大きくなったねえ」なんて言われながら小遣い貰ったりしたいだけなんだよ。




