第4話 呪いの性質
熱くも無かったし、息苦しくもなかった。
散歩でもするかのように燃え盛る倉の中を軽やかに歩いて、閉ざされた分厚い戸板の前に立った。
倉の燃え具合を観察している郎党が居ることが分かった。
「火宅」の在り様を肌で感じた。
親兄弟で憎み合え。
身内で殺し合え。
滅びよ。
親類縁者で憎しみの炎を燃やしあえば「火宅」は神威を発する。
それって呪いなのか?
今更だ。
曽祖父の代から、やってたぜ。
戸板を蹴り飛ばした。
ふき飛んだ戸板は2、3人の郎党を巻き込んで屋敷の塀に当たって砕け散った。
辺りを見回すと、東の国津神の家人は逃げ惑うか、腰を抜かしてヘタリ込むかで、誰も倉の火を消そうとしない。
使えない奴らなので殺そうかと思った。
逃げ惑う家人の中に義父と義母の姿を見つけた。
戸板で学習したので、蝶を捕まえるように、そっと包み込むように押さえた。
「倉の火を消せ。それから荒縄を持ってきて、この二人を縛れ。それが済んだら馬を引いて来い」
少し落ち着いて来たのか東の国津神の郎党達が口答えするので、生意気な郎党の頭をカチ割って脳味噌を抉りだして、代わりに馬糞を詰めてやった。
「逃げたら殺す。言うことを聞く間は生かしてやる」
やっと郎党が動き始めた。
「もう縛る必要は無くなった。馬に括りつけるだけで構わん。火消しも適当で構わん。誰でもいいから馬を引いて付いて来い。火草刈の家に行くぞ」
俺だけ先行した。
「火宅」の力は乗った馬にも及ぶのか、襲歩で駆け続けても潰れることなく、火草刈屋敷に着いた。
誰何の声を無視して近づいたら矢を射かけられたのだが、はじき返した。
鎧兜に覆われていない剥き出しの肌にも矢が刺さることはなかった。
門の前まで来たら矛で突かれたのだが、折れたり、穂先が欠けたりした。
試しに矛を奪い取って振り回してみたのだが、素振りだけで折れてしまった。
素手の方が効率が良さそうだ。
門を殴り倒して、屋敷に入り込んで、父と後妻を探した。
郎党達は皆、顔見知りなんだが問答無用で斬りかかって来る。
さすが火草刈。
気合が違うな。
奇数番目に斬りかかってきた奴は両耳を引きちぎって、偶数番目の奴は前歯を折って、飽きてきた頃に東の国津神の郎党が追い付いて来た。
馬に括りつけられた義父と義母はギャアギャア喚いてたんだが、順番に両耳と前歯を失くしていく火草刈の郎党達を見て静かになった。
「義父殿、義母殿、大事な養子が焼き殺されかけたんだ。落とし前はどうつける?」
縄をほどいてやりながら話しかけたんだが、返事がない。
「聞こえない耳なら要らねーし、喋れない口なら塞いでもいいよな?」
義父と義母は慌てて郎党達に指示をして、父と後妻を俺の前に引きずってこさせた。
火草刈の郎党も、もう逆らう気は失くしたようだった。
「俺は火草刈を継ぐ。義父殿、義母殿、隠居の世話を頼むわ」
父が何か言う前に前歯を引っこ抜いて、それから陰茎を引きちぎって後妻の口に捻じ込んだ。後妻の歯が全部折れた。
二人とも這って逃げようとしたので、両手両足の骨を踏み砕いた。
「なるべく長生きさせてやってくれよ。こいつらが生きてる間、東に手は出さねーから」
皆、泡を食ってるから言っても意味が無いかもしれないが、続けた。
「これから、北と西と南に跡目を継いだ挨拶周りに行ってくる。皆、聞こえにくくなるだろうし、喋りにくくなるだろうなあ。何か思いついても、約束すんのも難しいだろう。可哀そうだなあ」
「火宅」から火の粉が舞い上がって、力が漲ってくるのを感じた。
血族、姻族の因縁因業が深まるほどに「火宅」の神威は強くなるようだ。




