第3話 神威十領
泥酔した大叔父が、蘊蓄を語りだすのは火草刈の家のもんが集まって開く宴会の定番だった。
誰もが『また始まった』という顔をする。
親族、姻族そろって殺し合いをしている火草刈の家だったが、大叔父は目立った手柄こそ無いものの、生き残ってきた一族の長老だ。
そんな大叔父が酔うと始めるのが神威十領が一つ、「火宅」の伝説だ。
法螺話をする時しか目立つことのない大叔父の最後の拠り所だと皆、思っていた。
天津神が内輪揉めする度に失われていった氏族伝来の神器。
領ってのは鎧兜を数える時の単位。
曰く、かつては火草刈家も伝来の鎧兜「火宅」を身に纏って暴れ回っていたという。
「火宅」は火鼠の皮衣で作られた特注の鎧兜で、火にかけられても決して燃えることはない伝説の武具だという。
しかし、どうにも内容が、おかしい。
「火宅」は矢玉を跳ね返し、矛に貫かれることもなく、身に付けたものに怪力を与えるのだが、代償として、身に纏った者の身体を焼き焦がすのだという。
意味ねーじゃん。
鎧兜だけが無事で中身が燃え尽きちゃうなんて、何の有難みがあんの?
ウチの御先祖様、一度でも着たことあんの?
大叔父の法螺話はいつも尻すぼみ。
火草刈家は「火宅」を守りつつ火に追われながら落ち延びたが、燃えないはずの「火宅」は所在不明。
他の神威十領も天津神の内輪揉めで、遠い親戚達が逃げ落ちて行く度に行方不明になって、今じゃ、与太話とか思えない神器の口伝。
その「火宅」が俺の目の前に現れた。
いや、俺が身を焼き焦がされたから出て来た。
これは「火宅」だって理解した。
「火宅」に触れたら手枷、足枷が弾け飛んだ。
「火宅」も弾け飛んだ。
弾け飛んだ「火宅」の破片が無数の火鼠に変化して伊岐里彦に群がり噛みついた。
神威十領が一つ、「火宅」を身に纏っていた。
俺は「火宅」に呪われたことを知った。




