第21話 残影
「ねえ、いつから見捨てられたと思ってた?」
「ねえ、いつから神様なんて居ないと思ってた?」
「ねえ、いつから、それでも救いの手は差し伸べられると祈ってた?」
「ずっと無理だと思ってたでしょ」
「人間は、こんなにも罪深いから」
「生まれながらに罪深いから」
「他の命を食べないと生きて行けないから」
「それなのに自ら死を選ぶことも許されない」
「感謝して歌っても、後悔して泣いても、許される罪じゃない」
「いくら感謝されても、どれだけ謝罪されても、食べられた命は許さないわよね」
「クリア不可能なクソゲーだと思ってたでしょ」
公園のベンチで適切な距離を保って、お姉さんは穏やかに話続ける。
覚者を惑わせる魔は酒色や財宝、権力や不老不死をチラつかせるものだと思っていたけれど、そんなことは無かった。
あ、いや、ちょっとだけ小学生相手に不適切な行為があった。
「そうね、アタシのことはイヒカとでも呼んでくれたらいいわ。ほら、地底に棲む悪魔だから尻尾も生えているのよ。地底人って尻尾が生えてるのが定番よね」
そう言って、イヒカお姉さんは僕にお尻を向けて、パンツスーツを突き破って飛び出した尻尾を見せてくれた。
触っても構わないと言われたのだけれど、遠慮した。
誤解しないでね。尻尾だよ、触って確かめても良いと言われたのは。
「そろそろ話の核心」
イヒカお姉さんは大きく息を吸い込んでから語り始めた。
「神様は契約を守ったわよ。
主なる神と、その子たちは、救い主の贖罪によって許されたの。
皆、約束された楽園に入ることが出来たの。
アナタ達は違う。
水面に石を投げこんで起きた波紋のようなもの。
救い主が降臨した時に滅却された罪の足跡。
祓われた悪意が残した想い出。
いつかは消滅するのだけれど。
神の栄光に触れてしまって。
恋焦がれた悪意の残り香。
憎しみ合い、殺し合いながら、愛とは何かと哲学を語る。
そんな存在を憐れんだ神は夢を見せることにした。
可哀そうな悪意の残滓に慈悲を与えた。
消えてしまう、その日まで、神の国を目指す夢を見る」
浅はかだった。
馬鹿兄弟の「ロマン」も、叔母さんの「尊い」も聞き流せる。
イヒカお姉さんの「真実」は僕の心に刺さる。
僕達は、ただのハレーション。
救いの日を夢見て消滅を待つ。
「アタシという装置も役割を終えて消えてしまったのだけれど、残影としてアナタの前に現れたの。消えてしまう、その日まで、一緒に良い夢を観ましょう」




