第19話 ホットスポット
僕の食物連鎖の出口が大変なことになっている。
きっと冷たい飲み物を一気飲みしたのが、いけなかったんだ。
僕の出口で熱い戦いが繰り広げられている。
怒涛の勢いの攻撃陣と決壊寸前の守備陣。
家までもたない。
冷や汗をかきながら、緊急着陸ポイントを考える。
学校から自宅までの最短距離を少しそれた位置にある公園。
僕のホットスポット守備陣を応援するための変な歩き方で向かう公衆トイレ。
辿り着く。
そして絶望。
個室のドアが閉まっている。
はじめて分かった。
トイレのドアをノックするなんて無意味な行為だと思ってた。
先客が居るのは見たら分かる。
途中で止めて出るなんて出来っこないんだから、嫌がらせ以外の何物でもないと思ってた。
お願いします。
急いでください。
他所へ行く余裕は、もう無いんです。
あなたも大変だとは思いますが、僕も限界なんです。
これは人類愛です。
同じ苦境に立たされた者同士、分かり合えますよね。
トンとドアをノックして、その動きだけで僕のホットスポット守備陣が悲鳴をあげた。
身体をくねらせて耐えた。
よくやった、守備隊長。
後で表彰状を与えよう。
トントントンと再びノック。
「はい、どうぞ」
応答あり。
福音だ。
世界は愛に満ち溢れている。
その時、僕の脳髄に閃光が走る。
違う。
知っている。
叔母さんの「薄い本」で見たやつだ。
ここはホットスポットだ。
僕は変なリズムでノックしてしまった。
開けてはいけない扉を開いてしまう秘密の合言葉。
汚物まみれになった先に広がる新しい世界。
待ってください。
僕は、まだ小学生なんです。
逃げなくては。
ヨチヨチ歩きで方向転換。
もう、そこら辺の草むらでいい。
パンツとズボンさえ守れば何とかなる。
落ち葉で拭くのが難しかったら、その時は、パンツに頑張ってもらおう。
パンツは洗えばいいが、僕の尊厳は洗えない。
微速前進。
さようなら、人類愛。
さようなら、新しい世界。
『シンクロ成功』
ガチャリと個室のドアが開いた。
中から突き出された手に掴まれて、僕は引きずり込まれた。




