第18話 やさぐれる
意外だったが、父ちゃんと叔父ちゃんは、僕の帰宅について何も言わなかった。
実際のところ、週末を利用して別居中の母親の家に1泊2日のお泊り旅行をしただけだ。
そこらへんをイジったりしない良心は、馬鹿兄弟にもあるらしい。
何事もなく月曜の朝を迎えた。
心配だった。
自意識過剰かも知れないが、クラスメイトは「鎮東大将軍ロボ ピストンたける」を強制視聴させられているはずだから、話題になるだろう。
建と関連付けてモザイクの向こうの素顔を暴かれてしまうかもしれない。
どうなってしまうのだろう。
ヒーローである少年パイロットとして皆にチヤホヤされたりするだろうか。
羨ましがられたり、妬まれたりするだろうか。
そして殴り合いのケンカをしてから友情を育んで、親友になった男の子は必殺技の特訓に付き合ってくれるようになるのだ。
それとも、憂鬱な展開だろうか。
宇宙人が攻めてきたのは「ピストンたける」のせいだと誤解されて、この国から、いや地球から追い出されて孤独な闘いを繰り広げるパターンかもしれない。
大変だ。
僕の受け答え一つが今後の流れを大きく左右するかもしれない。
「おはよう」
教室に入って、既に幾つかのグループに分かれて雑談しているクラスメイト達の輪に声をかける。
「おはよう、タケちゃん。観たか、アレ」
「なんか、特撮モノに変わったよな」
「ホント、ひでえよな、アレ」
「そう、ダセえの。名前が」
「でも、新しい試みだと思うぜ。ボロっちい悪役ロボの「ピストンたける」が反則的に強くて。これから毎回、新しい正義の味方ロボが作られて挑戦するんだろ。そんで古臭いデザインの正義ロボが段々、今風に進化していくのかと思うと興味深いぜ」
「なに呑気なこと言ってんだよ。悪役のヤバさに気づけよ。みんな顔にモザイクかけられてんだぞ。どんだけ卑猥な顔してんのかと思うと、夢に出てきそうで怖いよ」
「おぉ……おう」
僕は自分でも気づかない内に馬鹿兄弟に精神汚染させられていたらしい。
そうだよね。
これが常識的な、世間一般の受け止めだよね。
「あっ、違うんだよ」
「そうだよ、タケちゃん。ダセえのは「ピストンたける」で、タケちゃんのこと言ってるんじゃないよ」
「タケちゃん、ごめんね。タケちゃんの顔にモザイクは必要ないから」
はい、いいえ。僕です。
モザイクをかけられた陳列してはいけない猥褻な顔面の悪役は僕です。
残りの二人は逮捕されたらいいと思います。
僕は強要されてやっているだけなので更生する可能性に期待して社会復帰の支援をしてください。
今日一日、ダウナーな感じで過ごして、そしたらクラスメイト達が心配してくれた。
放課後、校門の前の駄菓子屋さんで、皆がお小遣いを出し合って、冷やしコーヒー牛乳を奢ってくれた。
凍ってしまう直前まで冷やされたシャリシャリした喉越し。
キーンと痛むこめかみ。
痛いぐらいに冷たい塊が食道を通って胃に落ちる感触。
今の気分にピッタリだった。




