第17話 家出回(後編)
お母さんの朝は早い。
夜明けとともに剣山へ向かっての礼拝から始まる。
「たける、あなたは見てるだけでいいわ。たけるの分の懺悔もお母さんがするから」
正直いって助かった。
下着から全部、麻布で作られた服に着替えさせられたので、色々とお肌の敏感な部分が擦れて痛かったから動きたくなかった。
「ねえ、なんで剣山に向かってお祈りするの」
「駄目よ、たける。その名を口にしてはいけないの。さあ、朝ごはんにしましょう」
お母さんは剣山の麓にある実家の古民家で自給自足の生活を送っている。
石油化学製品が嫌いで、縛りプレイのライフスタイルなのだが、朝ごはんには肉が出た。
「これ、食べていいの?」
「ええ、いいわよ。偶蹄目で反芻をする四足歩行獣なら許されるわ」
菜食主義の食卓ではなくて、お肉も食べられるので、ここの暮らしを続けられるかもしれないと思った。
麻で出来た服と下着にも、すぐに慣れるだろう。
いや、いやいやいや、待て。
スーパーで買えるお肉って石油化学製品で包装されているし、包装される前に生産者さんの所へ直接買いに行くにしても、飼料とか、投与する薬剤とか、育成環境とか石油化学抜きで用意出来るのか?
この国で野生の偶蹄目の反芻する四足歩行獣ってカモシカだぞ。
カモシカという呼び名の牛の仲間だぞ。
天然記念物だぞ。
僕は小学生。
小学生だから分からない。
知らないったら知らない。
お肉になってしまっているのだから、ありがたく食べよう。
「ねえ、たける。帰ったら伝えて欲しいの」
帰りの高速バスの発車時刻が近づいている。
久しぶりに会えて良かったと思うことにしよう。
「鎮東大将軍ロボ ピストンたけるの燃料に石炭を使って欲しいの」
化石燃料を許すの?
重油でも軽油でも灯油でも燃焼する焼玉エンジンだけど、さすがに石炭は無理だと思うよ。
「石炭からはナフタリンが採れるから、ナフタリ族の加護を授かるはずよ」
お母さんの言っていることは、さっぱり意味が分からなかったけれど、僕は黙って抱きしめられた。
「夜明」?
触れ合って、繋がる感覚。
「視聴率100%の利権をめぐって、世界を陰で操る秘密結社が動き始めたわ」
意識の夜明け、目覚めてしまう、気付いてしまう。
ストイックに生きる克己心を得て、真実を知る。
全てを疑い、見えない敵と戦い続ける。
「息子を生贄に捧げよと、試練を与えられているの」
お母さんと一緒に祝福と呪いを浴びそうになって、お母さんは僕を突き放した。




