第16話 家出回(前編)
最低の気分だった。
放映されたのだ。
テレビやネット動画などを見始めてから最初の30分の「布教活動」が白黒アニメから「鎮東大将軍ロボ ピストンたける」に変わってしまったのだ。
ちなみに、ちょっとだけ存在する白黒アニメを楽しみにしていた趣味人達への救済措置はされたらしい。
「お願いだ、見させてくれ」
と嘆いたら、懐かしの白黒アニメが流れてから「鎮東大将軍ロボ ピストンたける」が流れたそうだ。
合計1時間の強制視聴。
最初の30分は納得の上で、「鎮東大将軍ロボ ピストンたける」はどんな気持ちで視聴しているのだろう。
エゴサーチをする勇気は無い。
いや、そんなことはどうでも良い。
許せないのは僕の顔にモザイクがかけられていたことだ。
「なんだよ、コレ。僕の顔を猥褻物みたいに扱うな!」
全世界で視聴率100%の布教活動だから顔出し、身元バレは困るのだが、隠し方は考えて欲しい。
デフォルメした似顔絵風のイラストを重ねるとか、品の良い隠し方があるだろうに。
「良心的な悪の組織じゃないか」
父ちゃんの顔にもモザイクがかけられていたのだが、気にならないらしい。
「悪の組織に良心的もクソもないだろ!」
「いや、男のロマンに矛盾は無いぞ」
叔父ちゃんの顔にもモザイクがかけられていたのだが、やっぱり平気みたいだ。
「いいかい、タケちゃん。かつて世の中には良心的な裏ビデオ業者というものが存在したんだ」
「そうだな。あの業者さんには本当に世話になった」
馬鹿兄弟が二人で盛り上がっている。
インターネットが普及して快適な利用環境が整うまで、モザイクのかかっていない映像を観る手段は主に通信販売に頼るしか無かったらしい。
しかし、安くはない金額を振り込んでも、何も送られて来なかったり、届いても何も映らない生テープが入っていたりして、馬鹿兄弟二人は何度も騙されたそうだ。
それなのに性懲りもなく、新しい業者の噂を聞く度に注文して、やっと良心的な悪徳業者に巡りあったらしい。
「いいか、たける。あきらめさえしなければ男のロマンに矛盾は無いんだ」
もう駄目だ、この家。
小学生相手に何を語ってるんだよ。
「僕はこの家を出ていく。お母さんと一緒に暮らす」
家出宣言をしたのだけれど、父と叔父は嬉しそうだ。
「うむ、王道だな。闘いに疲れた少年パイロットは家出をしなくてはならん」
「まさしく。行く当てもなく困っているところを助けて貰ったと思ったら騙されていたり、偶然、敵のエースパイロットと出会って友情を育んだ上で身元がバレて殺意を向けられたり、人間的に成長する必須回だ」
僕は高速バスを乗り継いで、別居中のお母さんが居る四国に辿り着いた。
チケットの手配やお母さんへの事前連絡を叔母さんがやってくれたので助かった。
バスターミナルにお母さんが迎えに来てくれていた。
「ようこそ、伊予之二名島へ」
久しぶりの再会の第一声がこれ。
正しくは「いー(しま)よの(やーうぇのかみの)ふぅつぁ(いのちをとられる)なーり(さいじょうきゅうの)」なんだけどねと、お母さんが付け足した。
暫く会わない間に記憶の中で美化してしまっていたけれど、そうだった。
お母さんも違う方向性で針が振り切れている人だった。
要らないって言ったのに叔母さんが帰りの分のチケットを用意してくれた想いを理解する。
あと、四国を愛してる皆さん、ゴメンナサイ。
馬鹿兄弟の予想通りになるのは癪だけど、僕はすぐに帰ることになりそうだ。




