↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東の涯てのオールド・テスタメント  作者: 隣之 芝生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/24

第11話 兄貴の休養

「ねえ、伊岐里彦。八つ岐があるんだったらさあ、頭は九つないとおかしくない?」

「はい、いいえ。兄貴、伊岐里彦は頭が悪いので難しいことは分かりません」


 火草刈の屋敷に兄貴を連れて帰って、あるだけの食い物と酒を並べて差し出したんだけど、兄貴は食欲が無いって食べてくれない。

 毒なんか入って無いですよって、適当につまんで食べて飲んで見せたんだけど駄目だった。


「このクサカリの太刀、八つ首の大蛇の身体から出て来たらしいんだけど、なんで八つ岐の大蛇って呼ぶんだろうね。変だよね」

「はい、いいえ。兄貴、伊岐里彦の思いつくことは多分、見当違いでしょうけど、足が九本あったんじゃないですかね」


 火草刈の屋敷は里の小高い丘の上にあって、兄貴は火草刈の里の景色をボンヤリと眺めている。

 ウチで用意できる食い物なんて、兄貴からしてみれば泥団子みたいなもんだろう。

 何だったら食ってくれるかなあ。


「ははっ。蛇に足があるの? でも岐(また)だもんね。頭が八つあるような蛇だから足があっても良いのかなあ。いやあ、それ、もう蛇じゃないよ」


 兄貴の表情は少し明るくなって、膳の上の焼き魚を上品な箸捌きで、つつき始めてくれた。

 良かった。


「伊岐里彦は、僕のこと、怖くないの?」

「はい、いいえ。ビビってますけど、怖くはないです」


 兄貴の箸が止まってしまった。


「ビビるのと怖いのは違うの? 都では、皆、僕のことを怖がって会おうとしないんだ」

「はい、いいえ。兄貴とは貫目の違いを感じるだけです。怖がられてるのは兄貴じゃなくて鎧兜だと思います」


 兄貴が箸を置いてしまった。


「嫌だなあ。伊岐里彦の首、獲りたくないなあ。獲らないと都に帰れないけど、帰っても、すぐに次の行く先を言われるに決まってる」

「はい、いいえ。兄貴が、その気になれば伊岐里彦の首ぐらい、いつでも獲れます。面倒なことを考えるのは明日にして、今は腹一杯、食って、飲んで、ゆっくりしてください」


 兄貴がポロポロと涙を流した。


「伊岐里彦は優しいね」

「はい、いいえ。火草刈も伊岐里彦も畜生です。ずっと昔から親兄弟、親戚同士で殺し合いをしています」


 兄貴が箸を放り投げて、焼き魚を手づかみで頭からバリバリと齧り始めた。


「伊岐里彦は僕が何を言っても、まずハイ、ハイって全肯定だね」

「はい、いいえ。兄貴のお言葉に逆らうなんて有り得ないことです。でも同意してるフリして言ってることは全否定の畜生です」


 兄貴が空いてる方の手で焼き魚を掴んで俺に差し出した。

 受け取って、手づかみで頭からバリバリと齧った。

 脱ぐことの出来ない呪われた鎧兜を着た者同士。

 明日は血みどろで殺し合うかもしれない兄弟。

 腹いっぱい、食べて飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。