第10話 兄弟盃でギリ義理
「……好きに呼んだらいいよ」
お坊ちゃまがそう答えて「火宅」から勢いよく火の粉が舞った。
身体に力が漲ってきた。
だからって、どうこう出来るようなもんじゃない格の差は依然としてある。
それでも普通に話せるようになった。
「兄貴、生意気言って済みませんでした。俺の首一つじゃおさまらないっすよね。男衆の首は全部差し出します。俺が獲ってきます。だから女子どもだけは見逃してもらえませんか?」
兄貴の顔から微笑みが消えて茫洋とした雰囲気になった。
女子どももか?
速勝彦だけ逃がすか?
世話を焼く人間は要る。
何人、ごまかせる?
誰が信用できる?
誰も信用できない。
「……もう、いいんじゃないかな」
読まれたか?
速勝彦も駄目か。
「繰り返しなんだ。ずっと一人なんだ。一人で頑張って、沢山殺して、帰って褒めてもらえるかと思ったら、また一人で行くことになって、頑張って帰っても、また次があって。そのうち僕が死んだらいいと父は思ってる」
繰り返し。
同じか。
「兄貴」
阿諛追従じゃなくて、本当に兄弟のような感覚だった。
「兄貴はお疲れなんだと思います。狭くてボロい家ですけど、ウチに来て休んでください。ロクなモンは有りませんけど、腹いっぱい食って、寝て、何にも考えずにのんびりしてたら、そのうち、俺らの首獲るぐらいには気分がノッてくるんじゃないかと思います」
「もう、何もかも、どうでも良いんだよ」
兄貴は遠くの空を見つめてる。
都の方角か?
「兄貴、乗ってください。伊岐里彦が兄貴の馬になります。ウチのボロ屋まで御案内します」
背中を向けて膝をついた。
兄貴は乗る気配が無いので、もう破れかぶれで、手を引いて無理やり背負った。
「火宅」が震えた。
「一三」
なんだ?
二が抜けてる。
二抜け?
腑?
腑を抉って殺す?
殺せば殺すほど強くなる?
強くなればなるほど心が擦り減る?
腑抜け?
馬鹿野郎。
なんだ、この鎧兜。
兄貴に舐めた口きいたらブっ殺すぞ。
あ?
一二氏族、司祭の一族は別格で抜けてて、正しくは一三氏族?
訳わかんねえこと言ってんじゃねーよ。
十領しか聞いてねえぞ。
十二も初耳なのに、実は十三でしたとか寝言かよ。
おい「火宅」、オマエも何か言えよ。
え、「一三」は兄貴分?
うん、まあ、それならしょうがないけど、機会があれば兄貴に意見するのも務めだぞ。
「……本当に兄弟みたいだね」
「はい、兄貴。もうちょっとでウチに着くんで勘弁してください」




