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神殺しは葬列を往く  作者: 夜更
第一部
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神殺しのその後

「……神殺し」


 誰かが呟いたその一言を境に、広場の空気が変わった。


 記録神具に映し出されているのは、崩壊した主神殿でデウスへ拳を振り下ろす男だった。赤黒い力に全身を覆われ、今とは比べものにならないほど異様に膨れ上がった姿ではあるものの、特徴的な銀白の長い髪も、顔立ちも見間違えようがない。


 映像と、広場の外に立つシオンを、人々が交互に見る。


「……本当に、こいつなのか?」


「デウス様を殺した……?」


「待てよ。今の記録、こいつも神殿に実験されたって……」


「だから何だ!」


 突然、男の怒鳴り声が飛んだ。

 人垣の奥から出てきた中年の男が、シオンを睨みつけていた。服の袖は裂け、片腕には粗末な添え木が巻かれている。どうやら怪我をしているらしい。


「神を殺したのは事実なんだろ!」


 シオンは答えなかった。


「お前があんなことをしたせいで、俺の家は潰れた! 弟はまだ見つかってないんだぞ!」


 ラズの身体が僅かに強張る。

 男の怒りを否定する言葉が見つからなかった。

 あの災害は確かにシオンの一撃によって起きた。デウスとの戦いも、最後に必要以上の力を放ったことも事実だった。


 それでも、群衆の中から別の声が上がった。


「でも、神殿が先にこいつを……」


「だから人を殺していいのか!」


「そんなこと言ってないだろ!」


「記録だって本物か分からない!」


「デウス本人の声まで流れてたじゃないか!」


 たちまち広場のあちこちで言い争いが始まった。

 神殿に人生を壊された被害者だという声と、どんな理由があっても星を壊した罪人だという声。デウスの悪事を終わらせた者だと見る者もいれば、神を殺した怪物として距離を取る者もいた。


 誰も、シオンをどう見ればいいのか分からない。

 当然だった。

 記録の中に現れた一人の青年は、神に利用された被害者であると同時に、その手で多くを殺した人間でもあった。


 シオン自身は、その騒ぎを黙って見ていた。弁明する様子もなければ怒ることもない。

 ラズは隣から彼の横顔を見た。


「シオン」


「行くぞ」


 それだけ言って、シオンは人々へ背を向けた。


「待て! 逃げるのか!」


 その背に、先ほどの男の叫び声が投げかけられた。


 シオンの足が止まった。

 ラズが息を呑む。

 ゆっくり振り返ったシオンの顔には、怒りはなかった。


「逃げるも何もない」


「じゃあ答えろよ! お前がやったんだろ!」


「ああ。デウスを殺したのも、星を壊したのも俺だ」


 広場に沈黙が訪れる。


「シオン……」


 ラズが小さく名前を呼ぶ。

 けれど、シオンは言葉を止めなかった。


「そのために人を喰った。それも俺が選んだ」


 ざわめきが広がる。

 記録の中で語られていた事実を、本人が否定しなかった。さらには、食人という衝撃的な事実まで上乗せされる。


「なら……なら、なんで平然と立ってるんだよ」


 シオンは僅かに目を伏せた。


「平然として見えるなら、そう見ていればいい」


 それ以上は何も言わず、今度こそ歩き出した。


 ラズは一瞬だけ広場へ残り、男を見る。

 怒りに震える顔。その背後には、家を失った者も、怪我をした者もいる。


 シオンを庇いたい気持ちはあった。けれど、彼らへ「シオンも被害者なんです」と言うことはできなかった。それで失われたものが戻るわけではない。彼らの痛みは消えない。


 ラズは何も言わず、シオンの後を追った。



 町を出てしばらく歩いたところで、ラズはようやく口を開いた。


「……あんな言い方しなくてもよかったんじゃない?」


「何が」


「全部自分が悪いみたいに」


 シオンは前を向いたままだった。


「間違っていない」


「全部?」


「俺がやったことだ」


 ラズは少しの間沈黙した後、口を開く。


「操られてたときのことも?」


 その問いに、シオンの足が僅かに鈍った。


「俺の手で殺した」


「それは知ってる」


「なら同じだ」


「同じじゃないと思う」


 シオンがようやくラズを見る。


「何が違う」


「分からない」


 ラズは首を振りながら正直に答えた。

 呆れたようにシオンの眉が寄る。


「分からないのに言うのか」


「うん。でも、デウスに操られていたときのことと、自分で選んだことまで全部同じだって言ったら、それも違う気がする」


「殺された側には関係ない」


「そうかもしれない。でも、これからシオンが何を選ぶかには関係あるよ」


 シオンは何も答えなかった。ラズもそれ以上は追わなかった。

 答えを出させたいわけではない。ただ、何もかもを一つの罪として自分の上へ積み重ね、その重さだけで潰れようとすることが正しいとは思えなかった。

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