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旦那様はくそ野郎。

「ただいま、ジェラルディーナ。」


まるで何事も無かったかのように帰ってきたオディロン。


私が何も気づいていないと思っているのか、まるで“最愛の妻に会えた”とでも言うような雰囲気を醸し出している。


本当にクズ野郎だわ……。


こんなのに騙されていたなんて……。


自分で言うのもなんだが、見た目は前世よりも整っているし、スタイルも抜群なのに……なぜか男運の悪さは前世から変わらないようだ。


初めはとても真面目で優しいのに、時間が経つと何故かダメ男になる。


目の前の男にため息をついてから、


「おかえりなさいませ。オディロン様。」


抱き締めて来ようとしたオディロンを避けて、挨拶を返した。


他の女を抱いてきた手で抱きしめようとするなんて吐き気がするし、無視しなかっただけ褒めて欲しいものだ。


「逃げなくても良いじゃないかぁ。もしかして一週間も家を開けたことを怒っているのかい?」


怒っている?


そんなの既に通り越して、呆れているだけだけど。


何を言っているんだろうか、このクソ野郎は……。


もう名前を呼ぶのすら嫌になってきた。


なるべく顔に出さないように気をつけながら、笑顔で受け答えをするよう心がける。


「そんな事ないですわ。それよりも急に居なくなられたので心配しておりました。今までどちらにいらっしゃったのですか?」


「ん? まぁ、どこでもいいじゃないか。それよりもまた直ぐに出なくてはならなくてね。君に頼みがあるんだ。」


またすぐに出なくてはいけないって……どうせ愛人の所だろう。


オディロンが居なくなって一週間。


何も、執務室だけを片付けていた訳では無い。


結婚して早々、お父様たちを頼ることになるとは思わなかったが、ここで生きていくためにどうすればいいか相談したり、オディロンの動向を探ったりしていた。


だからオディロンの愛人のことも何となくだが調べがついている。


その娘の名前は、レイナ・マラカイト。


マラカイト子爵家の令嬢で、オディロンと同じ二十歳だ。


レイナの母親がオディロンの乳母をしていたようで、幼馴染でもあるらしい。


「頼みですか? 何でしょうか?」


オディロンからの頼みなんて、絶対いいことではないだろうなと思いながら、取り敢えず話を聞くことにした。


「これを頼む。」


そう言って私に大きな袋を一つ押し付けてくるオディロン。


「あの、これは一体……なんでしょうか。すごく重たいんですが……」


「君が頼みを聞いてくれると言ったんだろう? だから渡したのさ。」


いやいや、私はまだ頼みを聞くと一言も言っていないのだけど、なんか勝手に私が頼みを聞くことになっているし。


「いえ……私はまだ……「それじゃあ、仕事が忙しいから戻ることにするよ。」」


仕事!?


仕事なんてしていないだろ。


今だって親の残した財産で生活をしている癖して……。


私に言いたいことだけ伝えると、そそくさと外へ出ていくオディロン。


荷物をエルダに預けると、急いでオディロンを追いかけた。


「ちょっと待ちなさい! まだ話は終わっていない……って、いない?」


外に出るのにそこまで時間差はなかったはずなのに、もうオディロンは近くにおらず、馬車が邸から遠ざかっていく姿だけがみえた。


このまま外にいても仕方が無いと感じた私は、屋敷の中に入る。


「オディロン様は……?」


エルダの質問に言葉を発する気になれず、頭を横に振った。


「そうですか。この重たい荷物もなにか気になりますし、一度部屋に戻りましょう。」


エルダと一緒に部屋へ向かおうと歩き始めると、ここで聞くことは無いだろう鳴き声が聞こえてくる。


ーーオギャァオギャァ


「……」


「エルダ。私少し耳がおかしくなったみたい。なんだか赤ちゃんが泣くような声が聞こえてきたわ。もしかして疲れているのかしら……」


「奇遇ですね、ジェラルディーナお嬢様。私も耳がおかしくなってしまったようです……」


ーーーオギャァオギャァオギャァ


「……」


エルダと二人で話していると、それを遮るように鳴き声が大きくなった。


何度も聞こえてくるということは、幻聴ではないらしい。


ーーーオギャァオギャァ


赤ちゃんの泣き声らしき声は、オディロンに手渡された袋の中から聞こえる。


オディロンから手渡された時、袋がとても重たかった。


赤ちゃんがもし入っていたのだとしたら、その重さも頷ける。


もし、ずっと袋に入れられていたのなら……赤ちゃんの体力も限界の可能性が高い……。


嫌な予感が頭をよぎった。


「エルダ。すぐにその袋を開けて!!」


エルダも気づいたようで、背負っていた荷物をゆっくりと下ろして袋を開けた。


ーーーオギャァオギャァ


袋を開けたことで泣き声がさらに大きくなり、邸中に泣き声が響いているのか、何事だと侍女や従者が駆け寄ってきた。


エルダと顔を見合わせて頷くと、意を決して袋の中を覗く。


そこには生まれて一週間と満たないくらいの赤ちゃんが入っていた。


「色々考えたいことはあるけど、今は後回しにしましょう。まずはこの子達をどうにかしないと!」


そう、入っていたのは一人ではなく二人。


顔を見てみると似ているから双子なのだろう。


エルダに一人抱っこしてもらい、もう一人を私が抱っこして泣き止ませる。


これでも前世で五人の子供と十人の孫を育てたのだ。


赤ちゃんをあやすのは御茶の子さいさいである。


「心配だと思うけど皆は持ち場に戻って頂戴。また何かあったら連絡するわ。」


侍女や従者も状況が飲み込めていないだけでなく、目の前にいる赤ちゃん達に釘付けだ。


それもそのはず……赤ちゃんたちは、


“生まれてそのままにしていた”のか、ただ布に巻かれているだけで服すら着ていなかったのだから……。


孤児として生活してきた侍女や従者からすると、自分を重ねるなという方が無理だろう。


皆、なんとも言えない顔をしながら自分たちの持ち場へ戻った。

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