塩むすび。
食糧がない状態だとわかった後、料理長が使用人たちを全員集めてくれて話をすることが出来た。
よく見ると、使用人たちもまともな食事を摂っていなかったのだろう。
頬は痩せこけ、目の下には大きなクマを飼っており、身体全体も肉がほとんどない、やせ細っているような状態だった。
住込みの使用人達は主人たちと同じ食事ではないながらも、それなりにいい食事がもらえる。
それがこんな状態になるなんて、相当過酷な状態だったはずだ。
話を聞いてみると、一日一食、小さいパンを食べて凌いでいたらしい。
それもお給金が貰える訳では無いから、切り詰めて切り詰めて何とか……という感じだったそうだ。
寝室の灯りが点いていなかったのも、わざとではなく、ローソクを買うお金すらなかったかららしい。
私の部屋の灯りを点けるので精一杯だったと教えてくれた。
「これ、おにぎりっていうの。美味しいから食べてみてちょうだい。」
お腹が空いていては話にならないと考えた私は、フローライト伯爵家から持ってきたお米でおにぎりを作った。
食糧が何も無かったので、シンプルな塩おにぎりだけど、久しぶりに食べるご飯はとても美味しかった。
皆も「美味しい」と泣きながら食べてくれているあたり、限界だったのだろう。
やはり元日本人。
パンよりお米のほうが好きだ。
それに腹持ちも全然違う。
フローライト伯爵家に住んでいる時、どうしてもお米が食べたくなった私は、父に頼んでお米に似た品種の稲を探してもらった。
この国でお米を食べる習慣が無かったから、探すのには苦労した。
稲が自生していたと知った時は吃驚したと同時に、やっとお米が食べられるととても嬉しかったものだ。
それからフローライト伯爵領では田んぼを作り、稲を育てはじめ、お米を作るようになった。
今ではフローライト伯爵領に住んでいるほとんどの人の主食がお米になっているほどだ。
おにぎりを食べて空腹も満たされたところで、今までの事を話してもらう。
皆それぞれ話すことはバラバラだったが、共通している部分もあった。
バラバラな部分は信憑性に欠ける部分もあるため、今回は共通している部分をメインに話を聞いていく。
その中で気になった話が三つ。
一つ目は、オディロンが帰ってこなくなったのは三年前からであること。
それより前からちょこちょこ帰って来ない日があったようだが、それが原因でお義母様とよく喧嘩になっていたそうだ。
二つ目は、私に会いに来ていたと言うこと。
「奥様がどこに行っていたのか聞くと、ジェラルディーナ様の所に行っていたと、仰っていました。」
「私のところ? にはほとんど来ていないわね。それに来たとしても、王都にいたし一日で帰れるはずだわ……。」
私の所に来ていたのは一年に一、二回ほどだ。
それもほんの少しの時間だし、たくさん会っていたとは言い難い。
それに、領地にいたとなればそれなりに時間はかかるけど、私は王都にいたし、スフェレライト公爵家は王都の隣に位置するし、そこまで距離がない。
だから泊まる必要も無いのだ。
「奥様も同じことを仰られてましたね。ずっと疑っていたようでしたし……。」
話を聞いている感じ、他のところに女がいるのだろうことは想像ができる。
そして三つ目。
三年間、領主としての仕事を全て放棄していたということだ。
お義父様が亡くなったあと、せめて少しくらいは仕事をしていて欲しい。
と、思ったのだが……。
執務室に移動してみると、たくさんの書類が山のように積まれており、中には税金や援助金などの督促状まで届いていたのである。
「こ、これは一体……。」
「す、す、す、全て書類です。何度かオディロン様が帰ってきた時にお伝えしていたのですが……全て執務室に入れておいてくれと仰ったので、このような状態になっております。」
私の言葉に少し若めの従者が応える。
そんなにビクビクしなくていいのだが、貴族に対して何かトラウマがあるのかもしれないと思うと、それ以上言うことは出来なかった。
「そ、そう……教えてくれてありがとう。えっと……」
「パ、パ、パウルと申します。」
私が名前を知りたいとわかったのか、改めて自己紹介してくれるパウル。
「ありがとう。パウル。」
改めて感謝の気持ちを伝えると、パウルはホッとした様子で後ろに下がった。
執務室の中に入り、念のため書類を確認していく。
どうやら、書類は一つも整理されておらず、そのまま積み重ねられているようだ。
試しに一番下にある書類を覗いてみると、日に当たっていたからか少し色が変わっていた。
「日付は……さ、さ、三年前ね……。」
出来れば夢であればいいのにと目を擦って何度も見直したが、見間違いでは無いらしい。
「ジェラルディーナお嬢様。何度見ても結果は変わりません。こちらの書類は三年前のものです。」
「そう、よね。という事は三年間何もしていなかったという事かしら。確か、王宮で仕事をしているという話は聞いたことがないし……。これは調べる必要がありそうね。」
持っていた書類を思わず握りしめた。
この三年間何をしていたのか、今何をしているのか。
全てを知った時、どんな事が起きるのかと思うと笑わずにはいられなかった。
気づかなかった私もバカだけど、それ以上に報いを受けなければならないのはオディロンだ。
そう思ったら、初夜を迎えなくてよかったのかもしれない。
これで、三年間、貞操を守りきれれば白い結婚が認められる。
「フ……フフ……これからどうなるのか楽しみね。」
私の顔を見て、エルダがため息をついていたけど、見なかった振りをした。
それから私は執務室が使えるように整理しはじめて一週間が過ぎた頃、一人の男が家を訪ねて来たのである。




