一週間。
結婚してから一週間が経った。
この一週間。
同じ邸内に居るはずのオディロンとは会っていない。
一応旦那様だからと“様”付けしていたが、この一週間でオディロンに対する信頼度はガタ落ちした。
朝食が出なかった日……。
案の定、昼食も夕食も食事が出ることがなかった。
“開いた口が塞がらない”とはまさにこの事だろう。
しかし、驚きはこれだけで収まらなかったのだ。
一日何も食べていなければお腹が空く。
私は夜な夜な調理場に忍び込み、何か食べれるものがないか探した。
本当は、エルダが他の使用人達に物申してくると言ったのだが、何が起きているのかハッキリしない今、エルダが出ていって刺激しない方がいいと考えたのだ。
「調理場くらい、私が忍び込みますよ。」
「良いのよ。それに調理場を見ればこの邸内の食事事情が見えてくるわ。食事事情が分かれば経済状況なども見えてくるし、なぜ使用人達が逃げるのかも分かるかもしれない。エルダは使用人達と話せないか試してみてちょうだい。決して喧嘩をしてはダメよ。優しくね……。」
邸に来てそこまで長い時間は経っていなかったが、使用人達は嫌で私たちの前から姿を消しているという感じではなかった。
悪い気持ちが一切伝わってこなかったのだ。
それに、サッと居なくなる割に視線を感じた。
私がどう動くのか観察しているような感じだ。
もしかしたら、“主人として相応しいか……”品定めしているのかもしれない……と思ったのだ。
「はぁ……承知いたしました。ジェラルディーナお嬢様はこうと決めたら絶対意見を変えませんからね……。」
そう言いながらも、自分が来ているメイド服を貸してくれるあたり、エルダは私のことを理解してくれている。
本当に感謝しかない。
「ありがとう」とエルダに伝えると、私は部屋を出て調理場へ向かった。
調理場までの道……。
邸自体が広いから廊下の明かりが点いていてもおかしくないのだけど、殆ど点いておらず寝室のような暗さだった。
なんでこんなに暗いのか……正直不思議だ。
公爵家なのだからそれなりにお金は持っているはずだし、蝋燭なんてそんな高くないのだから買えるだろう。
今、何を言っても仕方がないと思った私は、そのことは後で考えることにして調理場へと向かった。
調理場へ着くと、食糧庫を探す。
食糧庫とはその邸にある備蓄食糧などが入っている所だ。
食糧庫らしきところを見つけて重い扉をゆっくり開けると……。
中はすっからかんで、肉類は一切なく、腐りかけの野菜が少し残っているだけだった……。
「こ、れは……一体……?」
「あ~ぁ……気づいちまいましたか……。」
私が独り言を漏らすと、後ろから声をかけられる。
暗かったこともあり吃驚したが、吃驚したことを悟られないように声をかけてきた人へ話しかけた。
「貴方は、ここの料理長さん?」
顔が見えないからどんな方か分からないけど、恐らくここの使用人だろう。
意を決して話しかけると、持っているキセルに火をつけたのか、少しばかり部屋の中が明るくなる。
「そうです。お嬢さんはオディロン様の奥様ですよね。やはり、何も知らずにこちらに来たんですね。」
やはり料理長だったようだ。
それにこの話しぶり……何かあるのは間違いないらしい。
「やっぱり何かあるのね。この食糧庫の状況を見れば何となくわかるわ……。何が起きているか教えてくれないかしら?」
現状を打破するためにも教えて欲しいことを伝えると、料理長が口を開く。
「オディロン様は今ここに居ません。居る場所は分からないんですが、この数年ほぼ邸には帰ってきていないんですよ。」
この数年……ということは今に始まったことでは無いということだろう。
まさか、そんな前からこのような状態だったなんて……。
「そう……。皆のお給金やこの邸の維持費は?」
「給金はほとんど貰えてませんよ。残ってるのはここを出て行き先のない人ばかりです。それ以外の人は数年前に見切りをつけて辞めました。」
どうやら思った以上に良くない状況みたいだ。
お義父様とお義母様は慈善事業の一貫で、一人で生きていけるように孤児を引き取って邸の使用人として経験を積ませていたと聞いたことがある。
他のところで働けるようにと思って始めたことなのだろうが、孤児が違うところに行って必ず雇ってもらえるとは限らない。
だったら給金は貰えないけど、雨風凌げる所にいた方がいいはずだ。
「そうだったのね。数年前ということは、お義父様やお義母様が亡くなられた辺りかしら……?」
「そうですね。その前から帰ってこないことが多かったですが、一切近寄らなくなったのは三年前のことがあってからだと思いますよ。」
帰ってこないということは、どこかに家を持っているか、誰かの家に居候でもしていると考えた方が正しいだろう。
それか領地に戻っているのか……。
でも領地に戻っているとなると、今のような状態にはなっていない気がする。
そうすると、一番考えられる可能性。
私の中では一つしか思い浮かばない。
「フ、フフ……フハハハハ……」
私が急に笑いだしたことで、料理長さんは思わず後退る。
どうやら怖い思いをさせてしまったようだ。
「急に笑ってごめんなさいね。フフ。全てわかってしまったのよ。」
「全てわかった……?」
料理長さんの言葉に頷くと、一つお願いをした。
「えぇ。料理長さんにお願いがあるのだけど、明日皆を集めてちょうだい。大丈夫。悪いようにはしないから。」
「構わないが……。本当に大丈夫なんだろうな?」
警戒心が強いのか、疑り深い目を向けながら話しかけてくる。
それもそのはずだ。
会ってすぐの人を信用する方がどうかしている。
「大丈夫よ。もし心配ならなにか武器になるような物を持ってきても構わないわ。あと明日から食材をこちらで用意するから安心してちょうだい。」
ここに食糧も何も無いのはオディロンのせいだろう。
しかし、邸の女主人は私だ。
私が好きに動いたって文句は言えない。
何しろ結婚は成立しているのだから……。
「フフフ……さてと、部屋に戻ったらこれからについて考えましょう。」
そして、次の日からスフェレライト公爵家の実態を知るために動き出して一週間後。
オディロンが私の前に姿を現したのだった。




