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初夜とは何だったのか。

「あら。もう朝なのね。」


月の光で神秘的だった明るさから一転、太陽が登り始めて少しずつ外全体が明るくなっていく。


結婚初夜。


オディロン様を待ち続けたが、彼が寝室に来ることは無かった。


夜が明けたからか、窓の外から鳥の鳴き声が聞こえる。


オディロン様が来た時に寝ていたら失礼に当たるだろうと思った私は、一睡もせずに一夜を明かした。


コンコン


「ジェラルディーナ様。オディロン様。エルダです。起きていらっしゃいますか。」


エルダはここにオディロン様が来ていないということを知らないためか、気を使って外から声をかけてくれる。


初夜だし、オディロン様とまだ寝ていると思っているのだろう。


「えぇ……。起きてるわ。入ってきて大丈夫よ。」


外にいるエルダに一言声をかけると、ガチャりと扉が開く音が聞こえた。


「ジェラルディーナ様。オディロン様。おはよう……。って、ジェラルディーナ様だけですか?」


エルダは部屋の中に入るなり、私の姿を見て驚いた顔をしている。


それもそのはずだ……。


居ると思っていたであろうオディロン様が居ないし、初夜を迎えた形跡もないのだから……。


「おはよう、エルダ。オディロン様ね、来なかったわ。それどころか……」


昨日寝室に来た時のことを話した。


布団は綺麗に整っていたが灯りは点いておらず、部屋は真っ暗な状態だったこと。


仕方がないからカーテンを少し開けて月の光で過ごしたことなどだ。


「そうだったのですか。呼んで下されば灯りの用意をしましたのに……」


「いいのよ。それに満月だったこともあって、月の光だけで充分明るかったし。まぁ、初夜をすっぽかされるとは思ってなかったけど、もしかしたら結婚式や結婚パーティーで疲れていたのかもしれないわね。そろそろ朝食の時間だと思うし、軽く身支度を整えたら朝食を食べに行きましょう。」


正直言って、一睡もしていないからすごく眠たいし、出来れば寝たいけれど、オディロン様がなぜ来なかったのか理由も知りたい。


食事のときが一番落ち着いて話せるのではないかと考えた私は、一度自室に戻ってからダイニングルームへ向かった。


ダイニングルームに向かうと、侍女や従者達が慌ただしく動いている。


これから朝食だと言うのに、埃が舞いそうな程の動きだ。


「おはよう。」


侍女や従者に声をかけると、軽く会釈だけしてそそくさとダイニングルームから居なくなっていく。


一日経っても、私に対する態度は変わらないらしい。


まぁ、陰口を叩かれている訳では無いし、嫌がらせと言う程の嫌がらせを受けている訳では無いから、そこまで気にすることでもないと思っているけど……。


ダイニングルームでオディロン様にお会い出来ればと思っていたが、オディロン様は居ない。


時計を見れば朝の七時を回ったところだった。


何時から朝食なのか教えて貰っていなかったから少し早めに来たのだが、早すぎただろうか。


取り敢えず、朝食を食べていればオディロン様も顔を出すだろうと思った私は、席に着いて朝食が出てくるのを待つことにした。


のだが……。


待てども待てども朝食が出てくる気配も、オディロン様が来る気配もなく……。


それどころか侍女や従者は全員ダイニングルームから居なくなり、残されていたのは朝食が出てくるのを待ち続ける私と、エルダだけだった。


「エルダ……。私がここに来てどのくらい経ったかしら?」


「そうですね……恐らく二時間ほどではないかと……」


「そう……って事は、もう九時ってことね……。これ以上待っても朝食が出てくる気配はなさそうだし、自室に戻る事にするわ。」


私が席を立つと、エルダは後を着いてくる。


私が少し怒っているのがわかったのか、エルダは話しかけることなく、ただ後ろを着いてくるだけだった。


***


ジェラルディーナお嬢様がスフェレライト公爵家に嫁いで、あっという間に一週間が経ちました。


この一週間……それはそれは悲惨でした。


初夜はすっぽかされ、次の日の朝食は出てこない。


勿論その日の昼食、夕食も出てこず、痺れを切らしたジェラルディーナ様は調理場へと向かいました。


しかし食糧庫にはなんの食材も入っていなかったのです。


まるで誰も住んではいないと言っているようでした。


料理長が教えてくれたようですが、この三年間殆どオディロン様はこちらに帰ってきていなかったそうです。


そして、それだけではございません。


執務室に行ったところ、執務室の書類には埃が被っており、執務をしている様子は一切ございませんでした。


積み重なっている書類の中で一番古いであろう書類に手を伸ばすと、前スフェレライト公爵様が亡くなられた頃の書類の日付となっていました。


そう、三年以上。


オディロン様は執務をしていなかった。


という事になります。


ではこの三年何をしていたのか……。


この三年、オディロン様とジェラルディーナお嬢様がお会いしたのは片手で数えられる程でございました。


結婚まで間近と迫っているのにも拘わらず、これだけ来ないのはおかしいのでは無いかと、一度ジェラルディーナお嬢様に聞いたことがございます。


そしたら、


「お義父様のお義母様が亡くなられたばかりだもの。それにお仕事で忙しいのかもしれないわ。今はそっとしておきましょう。」


と、自分にも言い聞かせるように仰っておりました。


確かに、急にお父様とお母様が身罷られたわけですから、仕事の引き継ぎなどもなく大変だったことでしょう。


中には王宮で勤めながら領地経営をする方もいらっしゃいますし、自分の今までの仕事にプラスして前公爵様の仕事もしなければなりません。


そう考えると、会えないのも仕方が無いのだと頷けますが……。


「んー……私、目がおかしくなったのかしら。この書類三年前のよね。」


古い書類を手に取り日付を凝視しているお嬢様。


目が霞んでいるのかもと何度も目を擦っていますが、書類の日付は間違いなく三年前となっております。


これ以上目の周りを擦ると赤くなってしまうと思った私は、ジェラルディーナお嬢様の手を止めて一言伝えました。


「ジェラルディーナお嬢様。何度見ても結果は変わりません。こちらの書類は三年前のものです。」


「そう、よね。という事は三年間何もしていなかったという事かしら。確か、王宮で仕事をしているという話は聞いたことがないし……。これは調べる必要がありそうね……。」


お嬢様が書類を握り締めながら、とても楽しそうな顔をしております。


今まで帰ってこなかったオディロン様が何をしているのか、うっすらと分かっているようです。


お嬢様はやられたらとことんやり返す方ですからね……。


今まで泣かされた人達を沢山見てきました。


オディロン様は覚悟した方がいいかもしれません。


眠れぬ獅子ならぬ、眠れぬジェラルディーナお嬢様を起こしてしまったのですから……。

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