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現状。

邸から出て数日。


町や村を回っていくと、色々なことが分かってきた。


「んー……ここまで五つの村や町を回ってきたけど……作物が育っていないという様子もなかったし、領民達の暮らしも大変って感じはなかったわね……」


スフェレライト領の主な作物は、小麦や豆類が主だ。


それ以外にもトマトやキャベツなどの野菜類が順調に育っていた。


村長や町長に、ここ数年不作の時期はなかったか。


毎年問題なく税金を納められていたか確認してみると、バッタが大量発生して作物を食い荒らされたこと。


そのあと大雨が続き、作物の出来が悪かったことを教えてくれた。


昨年、蝗害や大雨についてはスフェレライト領以外でも起きており、国全体の問題になったことを覚えている。


「そうだな。昨年については税金を納められなかったと言っていたが……昨年については国全体で同じ状態になっていた。だから税金の金額も下げていたはずだ」


私の言葉にエリオット殿下が即座に反応してくれる。


ラルフお兄様も頷いているところを見ると、昨年払えなかった分に関しては問題は無さそうだが……。


問題はその前までの税金だ。


皆きちんと支払いをしていたと言うし、村長さんや町長さんがつけていた帳票を見るに間違いは無い。


そればかりか、スフェレライト家のサインと印が押してあったのだ。


「サインもあったし、割印も押してあった。ということは誰かが受け取っていた……という事になる」


ラルフお兄様の言葉にハッとする。


「もしかして……」


「あぁ。その可能性が高いだろうな」


これは国全体で決まっていることだが、領民たちから税金を徴収する際は、村長や町長が集金し、まとめて持ってくる。


その時に徴収証明書にそれぞれサインをして、一部ずつ保管することになっている。


間違いがないようにするため、割印をつけるという決まりになっているのだ。


五つの町や村で徴収証明書を見せてくれたし、割印にはスフェレライト公爵の紋章が入っていたから間違いはないだろう。


「オディロンがネコババしていた可能性が高いわね。本っ当にどこまで行ってもクズ男だわ! あの男……」


まだ全ての領地を回りきれている訳ではないから、全ての領地が同じ状況とは考えにくいが、十中八九オディロンが持って行った可能性が高い。


人が汗水垂らして頑張って働いたお金を勝手に使うなんて、万死に値する。


「残りの町や村も早めに回りましょう。同じ状況と分かれば、オディロンをこの家から追い出す材料になりますから」


それから私たちは急いで全ての町や村を回り、五年前からの徴収証明書を全て受け取った。


全ての領地を回り終える頃には、あっという間に三週間という月日が流れていた。


ただ、税金の支払いだけでは、この領地に余裕は生まれないし、昨年までの税金は全てあのクズ野郎が使い切っているのだ。


どう考えても赤字であることは変わらない以上、領地改革を進めていく必要がある。


ありがたいことに資源だけは豊富だ。


領地を見ながら新しい資源を見つけることも出来たし、なんでも出来るだろう。


「お兄様。領地改革の前に資金が足りません。ですので、私、商会を立ち上げます」


「「商会!?」」


この領地には豆類が沢山育っていたし、前世で人気のあった商品が出せるだろう。


ずっと和食が恋しかったのよね……。


味噌に醤油。


それに納豆……。


それに、あんこも作れたら最高ね。


この世界には発酵食品なんて発想がないから絶対売れるはずだわ……。


フローライト領でも何度か豆類を育ててみたけど、上手く育たなかった。


パンも固いパンばかりで、スープに浸して食べるのが主流なくらいだし、柔らかいパンをつくれれば売れること間違いなしだろう。


ずっとこの国の食文化には疑念を抱いていた。


味は塩のみ。


砂糖はここ数年で普及してきたが、使い方がわからない人達が使い始めたことで甘すぎる。


そう……甘いか塩っぱいのどちらかしかないのだ。


日本人として生きた私には、とても耐え難い食事だった……。


特にお菓子類が普及したとき、甘すぎて食べられたものではなく……苦笑いしか出てこなかったのを覚えている。


その頃は厨房に入り浸って、クッキーやケーキの作り方を伝授した程だ。


「はい! 商会ですわ! いい案が浮かびましたの。フフフ。これで食文化が大きく変化するはずです」


私の不敵な笑みに、二人が何かまた思いついたんだなと呆れた目をしている。


今まで色々なことに巻き込まれて手伝わされた二人だ。


何となくこれから大変な事になるのは想像がつくのだろう。


「そ、そうか……。ま、まぁ……程々にな」


「はい、わかっていますわ。それと、あのクズ野郎が持っている印章。あれを使用できなくする方法はありますか? あの印章をオディロンが持っている以上、勝手に使われかねませんので」


一番の問題は印章だ。


領主しか持っていないがために、クズ野郎が何かをすればこちらに火の粉が降り注ぐ。


それだけは避けたかった。


「あぁ、それならこちらで何とかしよう。印章についてはこちらに任せてくれて構わない。あとオディロンとその愛人の行方もこちらで追うよ。ディーナは他にやらなければならないことをやりなさい」


さすが王族。


ここは王族の力をフル活用させてもらう事にして、印章についてはお任せすることにする。


「ありがとう、エリー。助かるわ!」


こうして弾丸の領地視察は無事終わりを迎え、邸に戻ってきて数週間。


お兄様が領地が安定するまで邸に残ってくれるのは分かっていたけど、まさかエリーまで帰らず、ずっと残っているのは何故なのか……。


なんなら、カイトスとアルナイルに「パパでちゅよ~」って言っているし……。


私は自分のことで手一杯で、外堀を埋められていることに気づかないのであった。

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