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領地視察へ。

ラルフリードお兄様と、エリオット殿下が来た翌日、領地視察に向かった。


そう……何故か三人でだ。


勿論、エルダとパウル。お兄様が連れてきた護衛が一緒についてきているが、何故ここにエリオット殿下がいるのか。不思議でならない。


「それで、そろそろエリオット殿下が一緒にいることを教えてくださいませんか?」


これでも忙しい身なのだ。


出来れば面倒事に巻き込まれたくない。


舗装されていない道が続いているためか、お尻に直接振動が加わって痛い。


これなら馬に乗って進んだ方が良かった。


「スフェレライト領の現状に興味があってね。それでラルフリードに無理を言ってついてきたんだ。ジェラルディーナとも久しぶりに会いたかったしね。それに、エリオット殿下なんて呼び方はやめてくれ。昔みたいにエリーと呼んでくれると嬉しいんだが……」


エリオット・カルブンクルス。


カルブンクルス国の第二王子で、私の四つ上の二十二歳。


ピンクブロンドの髪色に碧眼で、とても顔が整っている。


ラルフお兄様と並んでいると絵になるくらいだ。


ラルフお兄様とエリオット殿下は六つ歳が離れているが、昔から側近として仕えていて、ラルフお兄様もエリオット殿下を弟のように思っている。


エリオット殿下は小さい頃身体が弱く、フローライト伯爵領に療養に来ることがよくあった。


理由は山が多く、自然豊かで気温も安定しているため、とても過ごしやすいからだ。


スフェレライト領も似ているが、夏と冬の寒暖差が激しいこともあり、療養には向いていないらしい。


あとは、フローライト伯爵領は王都から離れていることもあるのだろう。


自然豊かで療養に丁度いいと思った国王陛下と王妃がお父様とお母様に、エリオット殿下を療養させて欲しいと頼み込んだそうだ。


季節の変わり目になると咳が止まらなくなり、高熱が出るエリオット殿下は、十二歳まで一年の半分位をフローライト伯爵家で過ごしていた。


歳が近いこともあって、いつの間にか仲良くなっていた。


「はぁ……エリー。貴方一応王子なのに、こんなところまで来て平気なの?」


私がいつも通りの呼び方に戻すと、昨日のような作り笑いとは違う笑顔でこちらを見てくる。


昔からそうだけど、宝物を見るような笑顔を向けられるとすごくドキドキしてしまう。


きっとエリーは、私の事を妹位にしか思っていないと思うけど。


「大丈夫さ。父上にも話してあるし、これは国王陛下の命でもある。それに……スフェレライト領については私達家族にとっても放っておくことは出来ない所なんだ」


スフェレライト家とカルブンクルス家の関係か……。


まぁ、この国にいたら誰でも知っている事だけど……。


「そうなのね、わかったわ」


話を聞いてしまうと面倒事になりかねないと感じた私は、話をそこで切って領地についていくつか話すことにした。


「これは五年前の資料。五年前までは普通の領地だったの。でも前公爵が亡くなってからは税金が支払われないことが何度か続いているし、収支も全く合っていない。よく今まで督促が来なかったと吃驚するくらいよ」


邸にいる間、パウルにできる限り資料を集めてもらった。


ここで役に立ったのが複式簿記だ。


複式簿記はそれぞれカテゴリごとに分けて記載することができるし、収支や資産、抱えている負債まで一目でわかる。


複式簿記というのを知らなくても、資料を見てもらえればわかりやすいというのが分かるだろう。


「これは……見やすいな。この書き方を教えてくれ。同じ書き方で統一すれば管理もしやすくなるだろう」


案の定、ラルフお兄様から見やすいとお褒めの言葉を頂いた。


フォーマットがゴチャゴチャしていると揃えるのは難しい。


そういった意味でも同じフォーマットを使うのは賛成だ。


それに、教えやすいというメリットもある。


あとでフォーマットと書き方について話すことを伝えると、話を元に戻した。


***


数日前。


執務室で仕事をしていると、一人の男が執務室に入ってきた。


その男の名は、俺もよく知る一人。


ラルフリード・フローライト。


フローライト伯爵家の後継者であり、俺の側近の一人でもある男だ。


「エリー。すまないが、明日から一、二ヶ月程留守にする」


入って来るなり鼻息を荒くしながら、俺の前に立つラルフリード。


あまり表情を表に出すことがない男なだけに珍しい。


ラルフリードとは小さい頃からの付き合いだ。


俺が病弱だったこともあり、フローライト伯爵領へ療養に行くことが多かった。


この国の中で、人も自然も穏やかな地域だからだ。


俺の兄、ハルトムートよりも一緒にいることが多かったからか、ラルフリードの方が兄のように感じているくらいだ。


そんなラルフリードが鼻息を荒くしてくるとしたら……。


「もしかして、ジェラルディーナに何かあったのか!?」


妹のジェラルディーナの事だろう。


十二歳歳が離れていることもあり、ジェラルディーナの事を可愛がっていた。


しかし、ジェラルディーナは最近結婚したばかり……幸せ絶頂の最中だと思うのだが……。


「あぁ。オディロンが愛人との子供を置いて出ていったらしい。スフェレライト領が今危ない状況であることは知っているだろう? 父上と五年で立て直すという約束で、その子供を育てることにしたんだそうだ」


スフェレライト領については、父上たちも頭を抱えている領地だ。


それでも少し様子を見ていたのは、スフェレライト前公爵が亡くなったばかりで、それどころでは無いと思っていたから。


ここ数年、税金が国に収められることも無く、このままでは任せられないと言う話にまでなっていたほどだ。


それにしても……立て直すなんてそんな簡単なことでは無いだろう。


ジェラルディーナの性格はよく知っているから、オディロンのためと言うよりは双子のためなのだろうな。


昔から助けを求めている人を放っておけない性格なのを知っている。


そんなジェラルディーナが、俺は愛しくて仕方がなかったからな。


「しかし、それで何故ラルフが行くんだ?」


「ジェラルディーナは発想力豊かだから新しいことを生み出すのは得意だが……領地に関してどこまでできるか分からない。それに、スフェレライト領の状態も分からないからな。父に手助けしてやれと言われたんだ」


確かに、昔から色々なものを生み出すのは得意だった。


俺が外であまり遊べないからと、家で一緒に遊べるものを考えてくれていた。


カルタとか、トランプとか。リバーシとか。


今でこそ国全体に出回っている娯楽の一つだが、これらは全部ジェラルディーナが考えたものだ。


「そうか。スフェレライト領に関しては俺も興味がある。俺も一緒に行こう」


ジェラルディーナが幸せならそれでいいと思っていたが、話を聞く限りそんなことは無いんだろう。


だったらオディロンから、スフェレライト領ごと俺が貰い受ければいい話だ。


何と言っても、スフェレライト領は俺が継いでも問題ない領地だからな。


こうして、俺はラルフと一緒にジェラルディーナに会いに向かった。

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