第98話 私にしかできないこと
驚きの連続だった。突如現れたフェイ様の半身という猫。
御伽噺に出てきた『原初の魔女』の登場に、そして思わぬ形での脱走劇!
私の体に浮かんでいた茨の紋様も、光の精霊によって砕け散ったようだ。
不謹慎かもしれないけれど、フェイ様の半身とはいえ迎えに来てくれたことが嬉しかった。久しぶりに抱きしめられた温もりが、愛おしくて心地よい。ギュッと彼の腕に力が入る。
「ソフィ、ソフィーリア。やっと抱きしめることが出来た」
「フェイ様。私もずっと抱きしめてほしかったです」
「ソフィ、愛している」
「フェイ様……、フェイ様!」
熱のこもった声に、嬉しくて涙が零れ落ちる。会いたかった──愛しい人。
「ソフィ、しっかりと掴まっていて」
(これは──転移魔法に似ている?)
水の中に沈むかと思ったが、いくつもの扉が開き、私とフェイ様はその中へと落ちていく。空気もあり、落下しているが速度はかなり緩やかだ。
ふいにフェイ様の温もりが薄れ──半透明になっていく。幸福が一気に絶望へと早変わりした。
「フェイ様!? ああ、ダメ……。どうして……!」
「ああ……。この程度しかもってくれないのか」
「フェイ様、いや。消えないで!」
子供のように、私は泣いて彼に縋った。また一人になってしまうのが怖くて、悲しくて。そんな私の頭をフェイ様は優しくなでる。
「大丈夫。猫の姿に────が、傍に居る」
「フェイ様……」
フェイ様の姿は消え、代わりに黒猫が現れたので私は抱きかかえた。
黒猫はすうすうと眠っている。腕の中で眠っている猫はとても愛らしい。これがフェイ様の半身であり、魂の根源なのだろう。
ギュッと小さな体を抱きしめた。
(今度は私がフェイ様を守らなきゃ)
落下速度は変わらず、どこに繋がっているのかは、わからないままだ。
この道を作ったのは光の精霊と言っていたが、今回のことで手を貸してくれたのだろうか。会ったことがなかったというのに──。
『──子』
落下していく中で、巨大な白銀の狼が私の傍にやってきた。
(追手!?)
『愛し子……』
(この感じは……妖精? ううん、これは──)
温かな視線。金色の瞳は星のように煌めいてとても美しい。雰囲気からして妖精ではない。精霊それも──かなり上位の。
『愛し子。やっと会えました。ずっと、ずっと彼の地で待っていたのです』
「待っていた? 私を?」
『ええ、獣人たちは約束を忘れてしまった』
(獣人……?)
『だから、どうか、ダイヤ王国に戻られる前に、私を助けてくださいませんか?』
「助ける……私が?」
白銀の狼は私に抱き着き、頬をすり寄せる。人懐っこい狼は、まるで子供のように甘えてきた。柔らかな毛並みは触り心地は黒猫とは違うけれど、とても温かかった。陽だまりの匂いに、柑橘系の香りがする。
「ごめんなさい。……私にそんな力はないわ」
今回の脱出もフェイ様たちが居なければ、外に出られなかった。いつまで経っても私は誰かの足を引っ張ってばかりだ。
助けて、守ってもらっている。
(私に何ができるというのだろう。妖精や精霊の力を借りなければ、何もできないのに──)
『愛し子……、どうか』
黒猫に戻ったフェイ様を抱きしめる。できるのなら、早くダイヤ王国に戻りたい。
でも──。
キュッと唇をきつく結んだ。
「私は力も特別でもないけれど、それでも私に何かできるのなら──力になるわ」
『感謝します──愛し子』
いくつもの扉を抜けて、白亜の光に包まれた。
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