第108.5話 世直しのため聖女として担がれました・後編
「聖女の体は長年の瘴気による影響を受け、ダイヤ王国での静養は必須である。ただ年に数度この国に来訪し、『祝福の唄』によって精霊の加護を一時的に得ることは可能だという。俺はこれを機にダイヤ王国に謝罪を行い、改めて信頼関係の回復を図ろうと考えている! 皆も、協力してもらえないだろうか!?」
アレクシス殿下の熱意は民衆を動かし、拍手喝采が贈られる。
ここからは私の出番だ。姿を見せるためベールを被り直す。
(フェイ様は──ハッ!)
ここでフェイ様のことをすっかり失念していた。私の今着ている白い聖女服とベールは、大司教の馬車に用意していたものを拝借している。この格好に肩に乗っているフェイ様(黒猫)は、悪目立ちしてしまう。
(ああ! どうしよう!?)
「なぅ?(ソフィ?)」
「フェイ様、子猫サイズになれますか!?」
「なぅう(わかった!)」
手のひらサイズになってくれたので、これなら大丈夫だろう。
「少しの間我慢してくださいね!」
「!?」
私は子猫になったフェイ様を掴んで胸の谷間に隠した。聖女服はゆったりしたもので本当に良かったと思う。フェイ様も状況を察して大人しくしてくれている。
「……あまりの刺激に耐えられず、気絶しているのでは?」
「リュート、何か言った?」
「あー、その……姫様。それではそろそろ出番のようですから、飛行高度を下げていきますよ」
「そうね!」
わあああ、と民衆の声が国中に響き渡る。どうやら、アレクシス殿下の言葉に、民衆も賛同してくれたようだ。
「皆、感謝する! ……聖女よ、我らの意志に精霊たちの総意を教えてほしい!」
「(来た!)リュート」
「承知しました」
現在私たちは雲の上にいる。はるか上空でもアレクシス殿下たちの声が聞こえるのは、風の精霊が音を運んできてくれているからだ。
「空刃斬」
ドラゴンの咆哮とセットで風魔法が発動し、周囲の雲を一蹴。雄大な空が広がり、風の大精霊が突如現れた──的な演出する。
(雲が取り払われたことで太陽の日差しが、後光のようになっている。この演出を考えたテオは凄いわね)
民衆視点では、急にドラゴンと私が姿を現したように見えるだろう。ゆっくりと高度を落として教会の一部、塔の上に降り立つ。
ちょうど塔には鐘があるので、風魔法で鳴らして貰った。
カァンカァン──。
(風の防音でこんなに近くにいても鐘の音が遠のいて聞こえるわ)
ドラゴンの姿が途端に消え代わりに、私の背に白鳥のような白亜の翼が生えた。民衆は声を上げた。反応は上々のようだ。これも演出で実際は、鳥の姿になったリュートが私背中に引っ付いているだけだったりする。
(ここまでしなくても、良いのでは?)
「姫様、何事も形は大事なのです。そして目で見えるものを信じやすい、愚かな亜人たちの特性を利用した作戦です」
(リュートも封印されて、鬱憤が溜まっているんだわ。無理もない。……ダイヤ王国に戻ったら、たくさん労おう)
「そういうことを無自覚でするから、惚れちゃうんですよね」
「リュート?」
「なんでもなーい」
ボン、と白い羽根を周囲に撒き散らす。
(どんどん演出が豪華に……)
別の建物の上にいるアレクシス殿下は、ノリノリで、テオも興が乗ったのか、淡い光の玉が私の周囲に浮遊する。光の精霊たちが、自由になったことを喜び、楽しそうの飛び回っているのがわかった。
(うん、嬉しいのは分かるけれど、さらに豪華に……)
「あの方が聖女様!」
「ベールでお顔が見えないが、なんという神秘的な」
「周囲に光の精霊様が集まっておられる!」
(さて、そろそろ仕上げね)
私はこれが答えだと、唄を歌う。
唄。それはフェイ様が好きな──思い出の唄。
失われかけた唄が、今までどれだけあったのだろう。切なくもかつての聖女であり、歌姫だった人たちへ思いを馳せる。
(この唄が愛されて、何十年、何百年と続きますように)
この国に存在する精霊と妖精に心から祝福を。私の歌声に、妖精たちが集まってきて、手元から花びらや種を振り撒く。
祝福を──。
その光景に見惚れていた民衆たちは、私と同じように口ずさむ者が出てきた。妖精や精霊たちと心を通わす簡単な方法。
誰にでも出来る魔法。
それが唄。
いつしかソロだった声が、老若男女の様々な声が重なる。礼拝堂にあるパイプオルガンの音色が加わり、この国の人たちの心が一つになったようだ。
私が歌い終わっても、彼らは歌い続ける。
(願わくばこの国に、今度こそ唄が残りますように……)
周囲を見渡してからリュートに合図を出して、ドラゴンに戻ってもらった。私はそのまま騎乗して、帝都上空をドラゴンが旋回して飛び去る。
再び、歓喜の声が沸き起こった。
本来ならこのままダイヤ王国へと飛び去りたかった。けれどここからは政治だ。このまま皇帝に挨拶もなしでは不味い。
ダイヤ王国の方角を眺めながら、私たちはアレクシス殿下と合流する。歓迎の準備はアレクシス殿下の部下が先に皇城に戻っていたので、なんとか準備が間に合ったようだ。
(馬車が豪華。これ……皇室の儀装馬車よね?)
豪華絢爛な儀装馬車に乗り込み、民衆の拍手喝采を浴びながら皇城へ向かう。もはや凱旋パレードのようだった。大歓迎してくれるのは嬉しいし、この国が良い方向に変わっていくのなら嬉しい。
でも──。
(できるだけ早くダイヤ国に戻りたいな……)
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