第108話 世直しのため聖女として担がれました・後編
「ハハハハハハハッ!! どうだ、私は光魔法を使えているぞ! これこそが──」
「愚かな。それが自分自身の魔力で作り出した光魔法だと、本気で思っているのか?」
「な、に──」
「ハート皇国皇太子アレクシス=フローレス・フォン・エドワーズが、光の大精霊に問う。罪深き者に裁きを!」
アレクシス殿下が手を翳した瞬間。
法王の光が消え失せ、アレクシス殿下の周囲に光の槍が顕現した。
芸術的な光の槍は従者のように殿下の傍の控え、その姿は神話を再現するほど、絵になっていた。矛先が一斉に聖教会へ向けられた。
民衆たちは「おお!」と本当の奇跡に、目を輝かせた。
「馬鹿な!!」
「どうやら光の大精霊の答えは、お前たちが罪人だと判断したようだぞ」
「なあああああああああ!」
「馬鹿なぁああああああああああ!!」
「法皇、枢機卿、そして聖教会の者たちよ。俺は、信仰そのものを否定する気はない。本来、であれば聖女を導き、大精霊の恩恵を伝え説くのがお前たちの役目であり、敬虔な信徒たちの祈りは、精霊を喜ばせるもの。聖女と精霊を尊び祈る理念は、素晴らしいと思う──が、それを捻じ曲げ、本当の聖女を封じ、精霊を隷属化させて、己の私利私欲のために使うなど、言語道断。まして精霊を奴隷のように扱ったこと、断じて許さん! 罪有りし者は大精霊たちの裁きを受けよ!!」
「雷鳴の怒り」
第三者の声が響く。
あくまでもテオの声だけで、姿は見せていないでおく。
次の瞬間、稲妻が法皇と枢機卿たちに下る。盟約を破り、大精霊を隷属化させていた罪人のみに降り注ぐ。
「ぎゃああああ」
「お許しをぉお──!」
「私は、罪など犯して──がああああ」
それはまさに天の怒り。
この国の精霊や妖精たちがどれほど怒っていたのかが、ヒシヒシと伝わってくる。目に見えないからこそ、侮ってはいけない。私たちが何に生かされているのか、それをこの国の人たちは考えを改めなければならないだろう。
もしできなければ、今度こそ精霊たちはこの地を見捨てるのだから。
(父様がハート皇国との関りを最小限にしていたのは、『聖教会』のことを注視していたのかも……。外からでは手は出せなかったし、皇族よりも『聖教会』の権力が増長していた。それにハート皇国を信じ切れなかったのもあるのかもしれない……。過去何度も歌姫として送り出した者が帰ってこなかったというのは、王族の記録に恐らく残っているはず)
食料不足よりももっと深刻な問題があったというのに、私は女王になってもそのことに気づけなかった。本当に何も知らない、知ろうとしなかった、愚かな女王だった。
「なぁ、なー?(ソフィ、大丈夫か?)」
「フェイ様。……心配してくれるの?」
「なう(当たり前だ)」
「ありがとう」
肩に乗っているフェイ様は、私の頬にキスを落とす。頬ずりする毛並みもつやつやで心地いい。ふと傍にいる狼姿のテオが、物欲しそうな顔をしているのに気づいた。
しかもちゃっかり頭を下げて、撫でて欲しいのをアピールしているではないか。
(ええっと……まだ終わってないけれど、頑張るから撫でてほしい的な?)
今は人の姿ではなく狼だし、頭を撫でるぐらいいいだろう。というかそうしないと、動かない可能性が高い。手を伸ばし彼のモフモフの頭を撫でる。
「テオ。そろそろ出番だから、このぐらいで……」
「はい、我が主人。……今回の一件が終わりましたら、また頭を撫でて抱きしめてもいいでしょうか?」
「なう(ダメだ)」
「ふふ。狼の姿ならいいわよ。もふもふの触り心地もいいもの」
「なうう……(ソフィ……)」
「ありがとうございます。幸せで今から胸がいっぱいになりました」
そう言うとテオは準備に入るため姿を消した。私も──と思ったが、フェイ様の視線が痛い。
「なうなー、なうう(ソフィの浮気者。私では足りないというのか)」
抗議するようにフェイ様は前足を使って私の頬を叩く。肉球がプニプニするだけで、痛くはない。むしろ言動も含めて可愛い。
「私が頑張ったご褒美は、あとでフェイ様がくださいますよね?」
「なう(私?)」
「はい。次に会った時に抱きしめてくださいね」
「なお、なううう(ソフィ。……そしたら、その日は離さないぞ。覚悟するんだな)」
「ふふ、フェイ様も楽しみなのですね」
「……微妙に話がかみ合っていなようですが、これは指摘すべきでしょうか」
「?」
小首を傾げる私に、リュートが複雑そうな顔をしていた。
アレクシス殿下の部下は、帝都についた段階で別行動をしている。風の精霊の眷族もいるので大丈夫だろう。
私とフェイ様が風の大精霊の背で暢気に話をしている間に、地上では決着がつきつつあった。たいした暴動もなかったのは、アレクシス殿下の吸引力とカリスマと皇太子としての実績があるからだろう。
「この国の聖女とは、はるか昔の伝承にある歌姫であり、その殆どはダイヤ王国の出自だった。長年聖教会が幽閉し、それを盾に精霊を縛り続けてきた。今後、精霊が加護を与えるかは、我々の行動次第だという。しかしそれは数年、数十年、数百年かかるかもしれない。我々は精霊の逆鱗に触れたのだ」
民衆たちは息をのみ、青ざめる者や、絶望する者もいた。顔を俯かせ、涙する者も少なくない。それらの顔をアレクシス殿下は見回した後、言葉を続けた。
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