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第107.5話 世直しのため聖女として担がれました・中編



 ***



 帝都。

 煉瓦造りでオレンジ色の屋根と、白の石畳や建造物を基調とした街並みが続いている。帝都の中心にある皇城も見事なものだが、驚いたのは聖教会本部の規模とその豪華絢爛──派手な建築物の存在感だ。


(わあ……)

「なう(悪趣味だな)」


 塔のような造りで、石像がゴロゴロと見える。

 正直、神聖な場所に全く思えない。むしろ欲塗れではないか。緑も少ないし、こんな場所を精霊が好むはずもない。


 教会本部には民衆が集まっており暴動こそ起こっていないが、それは前もってアレクシス殿下が魔導具を使って皇帝陛下に連絡を入れていたからだろう。すでに騎士団たちが教会本部周辺を取り囲んでいる。


(帝都に向かう途中で風の大精霊(リュート)に出会えてよかった。じゃなきゃ暴動前に、たどり着かなかったかもしれないわ)


 精霊の姿は時に様々な姿へと変える。テオの狼、リュートのドラゴンも、その時々の契約者にとって変わるらしい。

 風の大精霊(リュート)の証言で「ダイヤ王国から派遣された聖女たちを行方不明にさせ、精霊たちをこの地に縛ったのは『原初の魔女』だ」と断言した。それを咎めて戦いになった時には、神官たちが光の精霊を隷属化していたので、敗れて封じられてしまったと話してくれた。


(……『原初の魔女』)


 何百年もかけてダイヤ王国の国力を削いでいった。ダイヤ王国は元々六大精霊と妖精王の加護があったらしいが、そういった歴史も各国から消し去ってダイヤ国と他国の溝を大きくして亀裂を入れる準備をしてきた。何百年かけてじりじりと切り崩すなんて、途方のない話である。


(ダイヤ王国に対しての恨み……? やっぱり違和感があるような?)

「姫様? そろそろ私が初陣を切っても?」


 契約を結んだことで、声が以前よりもハッキリと聞こえた。テオとはまた違った感じだけれど、とても丁寧かつ親しみを込めた感じで接してくれる。

 テオが聖職者として私を心酔しているとしたら、リュートは品が良い騎士(ナイト)という感じだろうか。どちらも有能なのは間違いない。


「うん。……それじゃあリュート、お願いできる?」

「お任せくださいませ。空刃斬(エアリアル・ドライヴ)」


 ごぉ!!

 風の刃によって教会本部の銅像を軒並み粉砕。突如、前触れもなく砕け散る銅像を前に聖教会の使徒たちは悲鳴を上げた。

 皆その場に伏せて「聖女様!」と口にする。あるいは助けを求め祈る者も見えた。

 誰の目にも精霊が怒っていると分かるように、光の大精霊(テオ)の眷族が姿を現す。光の玉がいくつも浮遊し、雷鳴を降らした。


(それにしてもテオの眷族も、ノリノリね)

「じゃあ、姫さん。あとは計画通りに」

「ええ、アレクシス殿下もお気を付けて」


 アレクシス殿下はドラゴンの背から、飛び降りた。雲を突き抜け、途中で風の加護によって速度が大幅に減速。

 そのまま教会本部の敷地内に着地した。この高さから下りて無事なのは、風の大精霊の加護とアレクシス殿下の身体能力のたまものだろう。さすがは獅子の亜人である。


(あの高さって、私がやったら絶対に死ぬわね……)


 唐突に姿を見せたアレクシス殿下の登場に民衆たちは勿論、聖教会側の聖職者たちも驚いた。そのざわめきは徐々に大きなものになって伝播してく。


「俺はハート皇国皇太子アレクシス=フローレス・フォン・エドワーズだ。瘴気に包まれた最果ての地より浄化を終えて、光の大精霊と共に帝都に戻ってきた!」


 堂に入った佇まい、よく響く声は一瞬にして民衆の不安を払拭した。誰もが浮遊する光の精霊がアレクシス殿下の味方だと知り、歓喜の声を上げた。

「アレクシス殿下万歳」と叫ぶ声が広がり、大合唱となる。


 聖教会側はその勢いに飲まれ、反論すらできずにいた。すでに大司教の罪が公開されたことによって、反論した瞬間同じような目に合うかもしれないと怯えているのだろう。

 実際、聖教会側の人間が民衆に弁明するたびに、大司教と同じくこれまでの所業が映像化するという自動式トラップ魔法をテオが組んでくれた。これも私たちが帝都に到着するまでの間、聖教会側に先手を打たせないための一手だ。

 結果、それなりの数が既に天罰を受けて、教会の入り口で黒焦げになっているのが見えた。


「そして最果ての土地で俺は、聖女と光の大精霊によって救われた。彼女はこの国に囚われた大精霊を開放し、瘴気を浄化してくれた。その聖女と光の大精霊は、瘴気を広げるに至った根源、非道にも魔導具を使い精霊を隷属化した『聖教会』を許しはしないと公言した」

「精霊の隷属化?」

「やっぱりあれは本当のことだったのね……」

「なんてことを」


 精霊の隷属化、瘴気を広げた根源。

 大司教の記憶映像で見た事実を言葉にすることで、より現実感を演出した。人は自分の目で見たものを信じる傾向が強い。何より精霊が実体化していることでより真実味を帯びているだろう。

 周囲の人々から信じられないという声が上がる。


(この国で精霊の恩恵を失った彼らの前に、精霊と共にアレクシス殿下が現れることで、光の大精霊がどちら側に着いたかを民衆に印象付ける。これには成功したけれど、ここからが本番ね)

「アレクシス殿下! これは教会に対する冒涜ですぞ、我らを敵に回すお覚悟がありますのか!?」


 教会から出てきたのは白い法衣に身を包んだ枢機卿と、法皇だ。最高位である紫の帯は金の刺繍をふんだんに施した特別製で、作成時にどれだけの金がかかっているのだろうか。

 彼らに対してアレクシス殿下は、挑発するように口元を歪めた。


「愚問だな。これ以上大精霊の怒りを買う前に、懺悔すれば多少の温情を得られるかもしれないぞ。それとも先に逝った者たちのように裁きを受けるか?」

「若造が! これより聖女と精霊の聖名に置いて裁きを行う!」


 法皇がロッドを翳すと金色の光が煌めき──その膨大な光の塊が最高潮に達した。その光景に枢機卿たちは自らの勝ちを確信したのか、その場で笑い出す。



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